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2. 機関用軸受について
2.1 軸受の種類と特徴
 すべり軸受は機械装置の運動部分を担う重要な機能部品であり、リンク機構の支点等、極めて簡単なものから、機関用軸受やタービン等の回転機械用軸受まで多種多様である。
 すべり軸受の特徴は一般に、(1)寿命が長い、(2)コンパクトである、(3)作動が静かである、(4)回転、揺動、軸方向摺動およびその複合した動きにも対応できる等が上げられる。すべり軸受は適用上、潤滑機構と荷重の性質により大別される。潤滑機構については、流体潤滑、混合潤滑、境界潤滑、無潤滑に分けられる。流体潤滑は軸と軸受との間に完全な油膜が形成される領域であり、機関用主軸受やクランクピン軸受に相当し、混合潤滑や境界潤滑は油膜の形成が不十分であり、局部的な固体接触を呈している領域である。適用例としてはピストンピンブッシュやクロスヘッドピンブッシュがこれに属する。
 流体潤滑は外部で発生させた油圧、空圧により、軸を浮動させる静圧軸受と軸および軸受の相対的な動きにより、油膜を発生する動圧軸受とに分類できる。
 さらに動圧軸受は荷重の大きさと方向が時間と共に変化しない静荷重軸受とそれらが時間と共に変化する動荷重軸受とに分けられる。(補・1表、補・2表参照)
補・1表

 また動荷重軸受ではころがり軸受に似た疲労現象で寿命が決定され
(1) 油膜中の最高圧力(Pmax)またはくり返し荷重回数が限界をこえるか。
(2) 油膜中の最高温度(Tmax)が限界をこえるか。
(3) 最小油膜厚さ(Hmin)が限界をこえるか。
のいずれかにより疲労、焼付、摩耗その他の事故にいたる。(補・15図参照)

補・2表 荷重の性質による区分
区分 荷重 寿命
静荷重軸受 大きさ,方向が一定 タービン用軸受 半永久的
動荷重軸受 大きさ,方向,速度が変化 機関用軸受 ころがり軸受に似た疲労現象で決定される
補・15図 流体潤滑される軸受特性(寿命)決定の3要素

2.2 軸受の構造
 すべり軸受の構造は、全体が同一材料からなる1層構造、通称ソリッド軸受と言われるものと、軸受摺動特性を受け持つ合金層と強度を受け持つ裏金層の2層構造を持つものや、さらにその上の表面に軟質のオーバレイ層(表面層)を設けた3層構造のもの等がある。
 合金層には通常軸受特性を持った金属が使われ、裏金には一般にスチールが使用される。
(補・16図参照)
 またすべり軸受は用途や機能により、軸受の厚さで区分される。肉厚/径比(t/D)が3%前後の薄肉軸受は、精度や剛性の高いハウジングに締代をもって組み付けられることにより高精度が確保され、高負荷を受けることができる。薄肉軸受は一般に機関軸受等、大量生産に適している。
 t/Dが10%以上の厚肉軸受は逆に軸受単体での剛性、精度が高く、少量生産に適しており、タービン軸受等の静荷重軸受に多用される。(補・3表参照)
補・16図 すべり軸受の構造

補・3表 肉厚区分とその特徴
No.


肉厚比
t/D%
軸受
剛性
生産
ロット
治具費
(治具の必要度)
加工方式 締めしろ
σBminMPa
用途
1 薄肉 ≒3 高さ方式 100 動荷重用,機関メタル
2 中肉 ≒5 何れか 50
(またはH7r6)
中間重メタル
3 厚肉 ≒10 ペア方式 20
(または中間ばめ)
静荷重用,タービンメタル

t/D:裏金厚/軸受外径、σB :組付け時裏金断面応力(ハウジング拡大見込ずみ)

2.3 すべり軸受の作動原理(流体潤滑)
 流体潤滑下のすべり軸受が安全に作動する原理には、2つの油膜発生メカニズムが関連している。1つは軸が回転する時、油の粘性により、油がつれ回り、軸と軸受との間でできるくさび状のスキマに、油が引き込まれることにより発生するくさび油膜であり、もう1つは、軸が軸受に衝突しようとする時、その間にある油を押しのけることにより生ずるしぼり油膜である。
 くさび油膜は軸の回転が早い程高い負荷容量を持つが、一般に許容される面圧Pのオーダは1MPa(10.2kgf/cm2)レベルである。しぼり油膜は軸が軸受に衝突するエネルギ、すなわち荷重が大きく、衝突速度が早い程大きな油膜圧力が発生し、高い負荷容量を持つことができる。面圧Pのオーダは軸受材料の耐疲労強度にもよるが、通常10MPa(102kgf/cm2)のレベルにも及ぶ。(補・17図参照)

補・17図 油膜の発生原理と種類

2.4 すべり軸受の材料
1) 材料に要求される特性
 すべり軸受材料に要求される特性としては、繰り返しの動荷重で疲労しないための耐疲労性、荷重により材料が潰れないための耐高面圧性の他、耐えキャビテーション性、耐高温度特性及び耐摩耗性等の負荷能力と、片当り等を吸収するためのなじみ性や異物の影響を最小にするための異物埋収性及び耐焼付性等の順応性に加え、化学的な特性である耐食性等種々の特性が必要となる。
 特に負荷能力は一般に材料物性の強さ、硬さに関連する特性であり、逆に順応性は軟らかさに関連するものであり、すべり軸受はこれらの相反する特性を合わせた持つ必要があり、用途や使用条件により最適な材料特性を持ったものを選択する必要がある。
(補・4表参照)
 以上のことから、軸受材料は一般に硬質物と軟質物の複合組織や多層構造を有しているものが多く、種類も多種多様である。
補・4 表すべり軸受に要求される特性


2) 代表的な軸受合金
補・5表 代表的な軸受合金
区分名勝 合金系 特徴および用途


ホワイトメタル Sn 基ホワイト 金属系材料中最も順応性に優れるが、 耐疲労性、 耐温度性が低い。静荷重軸受や舶用機関軸受に使用される。
Pb 基ホワイト
銅系合金 銅 - 鉛合金 機関軸受としては表面層付で使用され、 高負荷能力をゆうする。鉛青銅は耐磨耗性に優れ、 ブシュ等幅広く使用できる
鉛 - 青銅合金
アルミニウム合金 Al - Sn 合金 ホワイトメタルの代替から高面圧用までまた機関軸受からブシュまで幅広い用途に適用できる。とくに他材質に比べ耐磨耗性、 耐食性に優れる。
Al-Pb合金は耐焼付性に優れ、 Al-Zn合金は表面層を付けて使用することもできる
Al - Sn - Si 合金
Al - Pb 合金
Al - Zn 合金
オーバレイ
(表面層)
Pb 系合金 各種合金の上に付けられ、 順応性を改善する。厚さは通常20μm前後であるが、 Sn系は磨耗低減のため5μmと薄い
Sn 系合金


補・18図 代表的な軸受合金組織
 上記は代表的な金属系軸受材料を示す。金属系材料は大別するとホワイトメタル、銅鉛合金、アルミニウム合金の3種に分類でき、各々の特徴および用途は補・5表に示す。また補・18図には代表的な軸受合金の組織を示す。いずれも硬質部、軟質部が現在し、多様な要求特性に対応できるよう工夫されている。








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