日本財団 図書館


パネリストによるコメント
 
モデレーター: はい。いよいよ最終セッションにまいりました。第一部は比較的静かにやったのですが、第二部はものすごく熱っぽくなったのです。その熱っぽくなったセッションを第三部でまとめるわけです。そこで、「日本の安全保障政策の将来」について、ただいま16時ですから、17時50分までやるということでございます。
 第二部はたいへんおもしろかったと思います。とりわけキーノートスピーチでプロポガティブなことを言っていた田久保さん、アメリカ側の4人のパネリストの方、知的刺激を日本側に強く与えていただきまして、そのことについてたいへん感謝しています。もしあなた方のそういう積極的な参加がなければ、このシンポジウムは、いつもどこかでやっている月並みな同じような日米関係論に終わってしまったと思います。そういう意味で、第二部のプロポガティブな参加について、私はたいへん感謝しております。
 そこで、第三部の進め方ですが、第二部の後半で、日米同盟関係の足りないところ、欠陥がたくさん指摘されまして、もう信用できないとか、遅すぎるとか、いろいろな問題が出ました。あるいは、日本はだいたい国を守る気があるのか、国を守る気がない国は安全保障のストラテジーなんか要らないじゃないか、という話も出ました。これは第三部のいい材料であります。
 そこで、第三部の初めはこういうことにしたいと思います。いろいろ足りないところ、消えてしまうようなフラジャイルなものではあるけれども、やっぱり日米同盟はあったほうがいいと、みんなお考えになっているわけです。そこで、日米双方から見て、なぜ日米同盟がそれぞれの国にとって有益なのかというレゾンデートルをまず出していただくことから始めたいと思います。これはそんなに長い議論は要らないので、まず田久保さん、ボイドさん、志方さん、ハーディングさん、福田さん、トネルソンさん、それから、いちばん厳しいことを言うモースさんの順で出していただきます。まったくメリットないから、私は何も言うことはないという方はいらっしゃらないと思います。
 それでは始めたいと思います。まず、田久保さん、短くやってください。
 
田久保: なるべく短く。なぜ日米同盟が要るかというと、共通の敵がいるからだと先ほど申し上げました。「共通の敵の存在」「価値観の共有」「経済的利害関係が比較的一致していること」の三つだと思います。
 一つ目、共通の敵は、日本の周辺を見ても、北朝鮮はどうなのか。それから、独立と主権を侵しがちな、こちらからは何もお願いしないのに、向こうからトラブルメーカーになってくださる中国がある。それから、中国とアメリカは価値観を共有していない国ですから、私は前からモースさんとこの点が違うんです。モースさんは、米中はいつでも仲良くなるよと言っているんですが、50年かかった日本との同盟関係と米中関係、日本と中国を並列するというのは、クリントンさんみたいな人と同じになってしまうのではないかと思います。日米関係は日本にとってどうしても必要だと思います。
 問題は、アメリカにとって日本が必要かどうかということですけれども、日米安保条約にも書いてありますが、もう一つ大きな経済という観点がございます。外交、防衛、経済の三つから見て、日本はアメリカが必要で、向こうも必要とするかどうか。「アーミテージ報告書」は信用できないというご発言がさっきありましたけれども、私が接しているかぎりでは、ワシントンから見た場合に、アジアでどの国といちばん仲良くなりますか、中国でしょうか、インドでしょうか、パキスタンでしょうか、シンガポールでしょうか、フィリピンでしょうか、マレーシアでしょうか、インドネシアでしょうか、といったとき、やはりリライアブルなのは日本なのではないか。
 その場合、先ほどから申しているように、弱い日本ではなくて「強い日本」です。強い日本も、ハーディングさんはちょっと誤解されていると思うんですけれども、普通の意味の民主主義国家が持っている軍隊ではないんだと。その軍隊を普通の民主主義国が持っている軍隊にする。日本の政治、経済、軍事と3本の柱があるとしますと、3本日がいちばん脆弱なシステムを持っているので、これをしっかりさせると、いままでの日米関係と違って、かなりリライアブルになります。
 以上の点から、私は、日本にとって日米同盟以外、選択肢はないし、アメリカは日本を必要としていると信じております。
 
モデレーター: ありがとうございました。次はボイドさんです。ボイドさんは、午前中のセッションで、日米同盟の分業の話をされましたね。もう一度、日米同盟の必要性についておっしゃってください。
 
ボイド: われわれはそれぞれの背景も違いますが、長い間、日米は関係があり、お互いに期待もある。そういうことを背景にして、われわれはこれまでの従来型のやり方で物事を進めようとしていると思いますが、しかし、われわれは、この同盟に何を期待しているのか、何をしてもらいたいのかということを考えてみる必要があるでしょう。
 田久保さんは、もっと強い軍部があればいい、軍事力を行使するうえでも日本はもう少し銃を持ったほうがいいとおっしゃっているわけですが、私が腹の底から感じること(ガットフィーリング)で、直観的に言っても、それは正しいと思いますけれども、では実際にその軍事力を何のために使いたいのかということを考えてみる必要もあるでしょう。そして、その軍事力はどういう構成を持ったものか、兵力構成はどういうものであるべきなのかということも考えみるべきでしょう。
 それから、田久保さんがおっしゃっている共通の敵とは何か、だれなのか。これについて意見の一致があるのでしょうか。だれも中国が敵だとは言っていない。でも、皆さんのおっしやっていることの裏に、中国は敵かもしれないという気持ちがうかがえます。
 この会議でも、ほかの会合でも、私はよく言ってきましたけれども、アメリカそしてアメリカの同盟国は中国を敵にすることもできるが、必ずしもそういう関係であるべき筋ではない。われわれが中国向けの政策をつくっていくとき、アプローチを作成するときに、中国は敵にならないという可能性を拡大するような政策をとるほうがいい。われわれは国際社会の責任ある市民です。トネルソンさんは、国際社会なんかないと思っていらっしゃるようですけれども、国際社会の市民としては、そのようにしたほうがいい。
 もう少し率直にディスカッションしたいのは、本当に共通の敵はあるのかどうか。それはだれなのかということです。
 そして、われわれは、日本の軍事力をどのように構築し、どのような構造を持ったものにし、どのようにして強化するのか。たとえば、空母も持って、マラッカ海峡にも攻撃能力を持っているような軍隊にするのか。長距離攻撃能力を持つ地上軍を持つのか。あるいは後続距離の長いような戦闘機を持つのか。空軍機を持つのか。そういうようなところをもう少しはっきりさせなければいけないと思います。
 それから、私が言ったように、テロに対して自分たちを守り、テロの根本原因を取り除くような作業をするような、テロに焦点を当てた兵力を持つのか。テロこそわれわれの共通の敵であるというのなら、敵と戦うために持つべき兵力の構成は、また違った構成になると思います。
 ですから、このパネルではもうちょっと具体的にディスカッションをしたいと思います。強化された日本の軍事力に何をしてもらいたいと思っているのかということを、もう少しディスカッションしたいと思います。
 
モデレーター: ちょうど志方将軍の番で、いまボイド将軍からいいテーマを出されたので、日本の軍事力構成の現状とか、こういう方向であるべきだというお考えを、当然、志方さんはお持ちだと思いますので、そういうことも含め、一言おっしゃっていただきたいと思います。
 
志方: モデレーターとして、日米安保の悪い面だけが強調されたからとおっしゃるけれども、私は、夫婦は仲良くなればなるほど本音で話すものだと思うんです。こういうシンポジウムが成り立つこと自身、日米安保がかなり成熟していることの証だと思います。
 人類の歴史をさかのぼりますと、二つの国が戦争して、勝った国が占領軍として来ますが、その占領軍におカネを払って「もっといてください。お願いします」というような同盟関係は、人類の歴史の中で現代の日本だけです。そういう意味では「奇跡の同盟」ということが言えると思うんです。そういうものをどうやってこれから続けるかということで、基本的な認識が一つ要ると思う。
 先ほどから米英同盟と日米同盟の差のことが少し出ましたけれども、いまの英国を見れば、英国の対岸にあるのは、ほとんど価値観を共有するドイツでありフランスであり、経済的にも政治的にも統合されている国であります。わが国は同じ島国であっても、対岸にはまったく価値観を異にする国があって、しかも、ときどき悪さもするし、将来、大きな軍事的脅威になる潜在能力を持っている。この違いをアメリカは理解しなければならないと思います。
 もう一つ、アメリカには、日本は同盟のくせにあまり頼りにならないという国民が少しいるようでございますけれども、私は、それはたいへんな間違いだと思います。太平洋を越えてアメリカがアジアに来た場合に、もっとも頼りになる国は日本だと思うんです。この狭い日本がたいへんなスペースを米軍基地のために提供し、そこに増収能力のある労働力、設備、それをメンテするおカネ、国民的なアクセプタンスを提供できる国は、アジア広しといえども、日本しかありません。
 また、そこにいる自衛隊という軍隊は、いつも共同訓練をして、ともに戦える体制をとっている。田久保先生は、先ほど、ソフトウェアが少し足りないと言われたけれども、それは間違いないことであります。
 先ほど、モース先生が、今回の9月11日以降、中国の貢献も大きいと言いましたけれども、中国がアメリカの行動に反対しないことをもって貢献だと私はとっているんですね。中国の軍艦がアラビア海でアメリカの軍艦に油をタダで注ぐようになったら、今のような発言をしていただきたい(笑)。
 それから、尖閣列島の領有問題ですが、アメリカはインターナショナル・テリトリアル・ディスピュートには口をはさまないと申しますけれども、尖閣列島は、アメリカが日本を占領したときにインパクトゾーンとして使っていた島であって、日本の領土と認めていたからそうやったと思うんですね。それを今は中立的な立場をとっている。最近少しずつ変わってまいりましたが、そういうことは日米同盟にとって、小さいことではありますけれども、非常に問題は大きくなると思います。以上でございます。(拍手)
 
モデレーター: ありがとうございました。それでは、ハリー・ハーディングさん、お願いします。
 
ハーディング: まず初めに、私は、日本の9月11日のテロに対する対応について、モースさんと意見が違います。信頼できるか、頼りになるかという問題ですが、それはどういうスタンダードを使うのか、どういう期待があるかという観点から考えなければならないと思います。このテロに関しては、米国は多くの協力体制を組みました。外交上の協力は期待がいちばん小さい。情報・諜報の協力、財務的な流れでテロに供給がいかないようにカットすることとか、軍事的な協力もありました。そのなかには戦闘もあるし、兵站的なものもあります。われわれは、現実的に日本はどこに協力できる余地があるのかということを考えるべきだと思いますし、リーズナブルなかたちでどうやって対応するのかということを考えるべきだと思います。リーズナブルなスタンダードといった場合、日本は非常によかったと思います。だから、ほとんどのアメリカ人は日本の貢献を非常に称賛して評価していると思います。
 ですから、私は、日本の対応の評価の仕方で、中国の対応と比較することに関しては、意見を異にしております。中国は予想どおりでした。つまり、外交的な協力、諜報的な協力に参加したのです。そして、米国のためにやっていることは日本より少ない。中国を同盟国と見なすことはできないけれども、日本は同盟国です。モースさんと私は、日本の9月11日のテロに対するレスポンスの評価は違います。
 次に、司会者が最初におっしゃった点、なぜ同盟は有益なのかということですが、同盟の新しいビジョンが必要なのではないかと思います。同盟は、従来、設計上、構造上、維持ということでは「共通の敵」を念頭に置いています。日米ともにたしかに共通の敵、あるいは潜在的な敵はあると思います。たとえば、テロリスト、それから北朝鮮も入ると思います。中国は、このカテゴリーには入れません。それはボイド将軍と同じ理由でありまして、そのカテゴリーに中国が入らないことを願っております。
 それから、共通の敵に加え、現代の世界においては同盟の目的として「共通の問題」に対処するということも考えられます。その問題とは、同盟のすべてのメンバーに影響を与えるということで、共同して対処したほうが、別々に対処するよりもよいという場合であり、私は、そこに多くのほかの国際的な問題を入れます。たとえば、超国家的なものとしては、麻薬、密輸、環境問題が挙げられますし、従来からの安全保障の問題として中国の台頭も入ると思います。
 中国を敵と見なさなくてもいいと思います。つまり、中国の力を日米同盟がとり上げる問題として考えなくてもいいと思います。問題は、中国の台頭という共通の問題に対して、われわれは同盟国として「共通のアプローチをつくれるかどうか」ということだと思います。ここにおいても、もっと細かい議論が必要だと思います。たとえば、共通の対中戦略に合意できるのかということです。最善のアプローチは、二国間・多国間の関係性の中に、あるいは制度の中に中国を関与させることで、これはグローバルなものもリージョナルなものも入ります。米国内においても、はたして同意があるかどうかわかりませんし、日本国内についてもわかりません。したがって、二国間で同意をするのは難しいかもしれませんが、しかし、中国に対処する共通の戦略が開発できれば、共通の問題ということになります。
 そして、「共通の戦略」に合意できるかもしれませんが、どうやってその戦略を実施するかという問題があります。たとえば、89年の天安門事件における人権問題について、中国をどれぐらいプッシュするかということに関しても違いがありました。したがって、中国の対処方は今後も変わっていくかもしれません。台湾に関しても立場は違うかもしれません。
 これはより広範な疑問ですが、グローバルな、そして地域的な制度に中国を入れたいということに関した合意がないかもしれませんので、中国の台頭の問題のマネジメントは、同盟にとって大きな課題になるでしょう。したがって、先ほど申しましたが、次のステップは何かということをリストに加えたいと思います。そして、東京財団のプログラムの中で、これから取り上げていただきたいと思います。
 ボイド将軍のおっしゃったように、日本が「普通の国」になるとか、日米同盟の再定義といったジェネラルな問題からもっと具体的な問題に移る時期ではないかと思います。日本の外交上、そして軍事的な役割や任務はどういうものであるべきか、具体的にどうやって両国は協力して、建設的なかたちで中国の台頭という問題に対処するのかということだと思います。
 
モデレーター: ありがとうございました。いまハリー・ハーディングさんは、中国の台頭に対して、同盟関係にある日米が共通戦略をつくれるのかどうか、もしつくれるのだったら、どういうふうにマネージしていくのかという問題提起をされたわけですが、このことは一巡してから、このお話の後半で具体的にもう少し深めていきたいと思います。よろしゅうございますか。
 これはまた福田さんの分野でもありますので、いまの問題に関連してでもいいですし、ほかの問題でもけっこうですが、ひとつご意見をいただきたいと思います。福田: まず最初に、第二部における、アメリカから来た皆さんの非常に友情と誠実さに満ちたコメントに感謝したいと思います。ハーディングさんは、日本が「普通の国」になるにあたって必要な一種の「自律性」があるのかどうかということを定義されました。あるいは、トネルソンさんは、日本がとくに軍事的な同盟をしたときに、「予見性」という言葉を使われたと思いますが、そこに一種の「信頼性」があるのかというお話をされました。あるいは、モース先生は、日本がずっと「自己欺瞞」を続けてきているとおっしゃって、これは、先ほど田久保先生がおっしゃったとおり、心ある日本人がみんな思い続けてきたことだと思いますけれども、それが本当に大きい問題であるというか、唯一の問題であるということは確かなことだと思います。
 しかし、私がまだ希望を捨てないのは、覚醒さえあれば日本はすぐにでも変わると思っているからです。日本は、アメリカから見ると、非常にゆっくりと少しずつしか変わらない国に見えるかもしれませんけれども、過去の歴史を見てみると、変わるときは非常に早く変わるという歴史を持っています。近代だけを見ても、ペリー提督が浦賀に来てから10年で国民国家をつくり、30年で中国と日清戦争を戦い、40年でロシアを敗りました。もちろん40年経ったら日本は軍事大国になると言っているのではなくて、日本は、そのときどきの国際社会なり環境においてダイナミックな適応ができる国だということを言いたいだけです。これは戦後も同じです。敗戦の焦土からわずか20年で世界第2の経済大国までになった。そういうダイナミックな力を持っている国であるということは、アメリカの方に申し上げたいだけではなくて、日本人全員に一度強調しておく必要があることだと思います。
 この場合、覚醒した日本が何を目指すのかということですけれども、このなかで非常に大事なことは、ボイド将軍が最初におっしゃった「より開発され、安定化された世界をアジアにおいてどういうふうに実現していくのか」ということだと思います。これはこれから議論しなければならないことだと思いますけれども、そのときに中国はそのような安定した世界にとってどういう存在なのかということにおいて、アメリカと日本とは、トネルソンさんがおっしゃったように、距離も位置も違いますから、感度が違う場合がある。
 日本人にとって非常に不安なのは、日本の中国政策も大変な誤りをしたわけですけれども、1930年代の、あるいは20年代からのアメリカの中国政策が、1950年代に、だれが中国を失ったかという議論になるようなかたちのコミットメントをした。日本人の目から見ると、アメリカの方の中国観は少しロマンティックあるいは楽観的だと思います。日本に対しては悲観的で、中国に対しては楽観的だというのが、近代以来ずっとある傾向であって、このことに非常に不安を持つことがあるわけです。
 先ほど、ハーディングさんが強調されたように、中国をどういうふうに扱うのかということは非常に大きい問題であります。中国を穏健な民主主義の国としてどういうふうにしていくのかということに関しては、かなり積極的なアプローチをしなければならないのではないかと思っております。その課題の中で日本が覚醒し、あるいは、日本がアメリカと新しい同盟を定義していくことは非常に大事なことだと思います。
 これはロマンティックな話になると思うんですけれども、もしもアメリカが日本ではなくて中国を同盟の相手に選ぶようなことがあるとすれば、日本にとっても大変な不幸ですけれども、アメリカにとっても1940年代の失敗をもう一回繰り返すことになるのではないかという危惧を持っているということで締めくくらせていただきます。
 
モデレーター: 福田先生、ハーディング先生、新しい同盟の定義を具体的に行うのに、中国問題はいちばん大きな問題の一つですから、この問題は、皆さん一巡してから、お二人はちょっとニュアンスが違いますので、最初にハーディングさん、次に福田先生に、自分の対中観、中国とどうやるかというお話をしていただいて、そのあと深めたいと考えております。
 では、トネルソンさん。
 
トネルソン: 指示に従わないのはよくないと思うんですが、なぜ日米同盟は重要なのかとか必要なのかということは言いにくいと思います。というのは、必要ではないし、総合的に考えて米国の国益にならない。非常に密接に関係しているので、日米同盟を対アジア戦略から孤立させて話すことはできません。日米同盟を支持しないのは、とくに冷戦後は、米国の東アジア戦略の土台が間違っていると考えるからです。東アジアに対する米国の戦略の想定としては、どこが東アジアを政治的に支配していても、米国がアジアでどの程度楽におカネ儲けができるかに影響する。冷戦後、イデオロギー的にグローバルなリージョンを持っているようなところを恐れなくても済むようになったときに、東アジアでは利益の出るかたちで貿易をして投資をしたいということが強調されたわけです。
 米国の東アジアとの現在の経済関係は、米国の観点から見て満足できるかどうかということは別にして、私の観点からいえば、今は満足できないものであって、完全に不公平なものになっています。それはちょっと別にして、今、米国が東アジアで軍部のプレゼンスを維持していますが、それがなければ東アジアでおカネ儲けができないとは思わないということです。
 もう少し別の言い方をしましょうか。米国が東アジアでおカネ儲けができることを保証するのは、前方軍事プレゼンスを置くことではなくて、いちばんいい保証として、日本を含めた東アジアとの経済的な関係を合理的なものにするには、最大限の経済力をこういった関係にもたらすことだと思います。つまり、東アジアヘの貿易投資は、われわれが技術力を最高に維持できたときだということです。ネットサプライヤーではないのですが、アメリカは東アジアにネットで資本を提供できる。ケース・バイ・ケースで見ますと、多くの国においてアメリカの投資は非常に重要であります。ですから、われわれが十分に繁栄して、輸出にとって重要なマーケットであり続けるかぎり、それで十分なレバレッジを効かせることができます。そして、公平な、相互に利益のあがる経済関係を東アジア地域と維持できると思います。
 ただ、一つポジティブなことが言えると思います。東アジアに対するアメリカのアプローチのポジティブな点は何かといいますと、アメリカの軍事的な前方軍事プレゼンスは地域の安定性に貢献していることで、これは認めましょう。どれぐらい貢献しているのかということは、だれもなかなか言えないと思いますが、東アジアの金融危機で一つ学んだのは、この貢献は過大評価してしまいがちなものであるということです。
 97年6月だったと思いますが、タイのバーツが国内的に破綻して、それがインドネシア等々に波及し、10万ぐらいの米軍がいて、地域経済が崩壊していったわけですけれども、そこからわかるのは、結局、地域の不安定性の源泉は軍隊とあまり関係なく、経済は仮に基地があったとしても崩壊しかねないということです。それは東京にも沖縄にもあるわけですけれども、結局、東アジアの安定性を重視するならば、10万人の米軍がいれば経済的な安定性が保てるというのはまったく不十分です。この地域はもっとも激しく変化している地域の一つで、経済的に前近代的なところからポストモダン的な地域になろうとしていまして、これが非常に不安定化の要因となっております。それが最終的には地域にとってうまく働くことを期待しておりますが、保証はありません。
 したがって、アメリカの軍隊が東アジアの安定化に貢献しているとは思いますが、それを過大評価すべきではないと思います。これはたんに外交のボイラープレートと言っていいかもしれません。もっとやることがあると思います。
 私は、現在の日米同盟は支持しません。なぜかといいますと、米国の東アジアのグランドストラテジーを支持しないからです。
 
モデレーター: ありがとうございました。僕は68歳で、25歳ごろから今日まで、日米関係は僕のサブのテーマだったのですけれど、これだけ率直なことを言っていただいたのは生まれて初めてです。トネルソンさん、本当にありがとうございました。日本人だと思うから、僕の喜ぶようなことばかり皆さんがおっしゃったので、びっくりしましたよ。アメリカは非常に言論の自由のある国で、学問研究の自由があることに敬意を表します。私は個人としてはたいへんおもしろく聞きました。あなたの率直さに感謝します。
 同時に、今の日米同盟は全員が賛成でなくてもいいので、反対の方も、次のテーマである日米中の三角関係についてお話しください。トネルソンさんも議論に参加してくださいね(笑)。ありがとうございました。
 それでは、モースさん。
 
モース: こういった全部の議論を通して、いちばん中心的なテーマとして流れていることは、一つ区別しなければいけないことがあると思います。一方では、いわゆる外交官、ハト派の多国間主義の人の意見があり、この人たちは日本を下請け業者、外注業者のようにしたい。「こういったことができますよ。環境問題を考慮してください。燃料のサプライはこちらからしますからね」というような外注業者として扱うといった一つのテーマがあります。多くの人は、サブコントラクターで、アメリカのグローバルな国益に対しての外注業者でいいと考える人もいるかと思います。
 これには小泉さんは関係ありません。ブッシュ大統領は、京都の環境問題は任せるというようなかたちにしています。そうすると外注したということになるわけですね。多くの人は、アメリカにとって日本はたんにこの地域で役に立つ国だと考えています。そして、アランのような人、また?コボソシュの人々もいます。軍事的なリアリストです。その人たちは「何かプレイしたいならば、それはかまわないよ。それは自分たちでやるから」と言うわけです。ですから、2月のペンタゴンの貢献のリストに日本は入っていなかった。つまり、軍事的な戦争への貢献ということでは、日本の貢献は上位25に入っていなかったということが現実だからです。ですから、軍事的な戦略家、リアリストのアランのような人にとっては、これはたんにアメリカの政策の現れで、コリン・パウエルも国務省も、こういった外交官の意見を代表しています。日本を必要なときにうまく利用し、軍隊を駐留させる国としてうまく利用していくといういき方です。そして、ランド研究所、ラムズフェルド国務長官などのいき方はまた違います。日本が軍事力をつくりたいならけっこうで、歓迎する。持ちたくないというなら、 それはかまわないが、そうでないのに軍事大国であるようなふりをすることはやめてくださいと言っているのです。
 そして、われわれが日米同盟を必要としているのかというと、先ほどの話がありましたが、われわれは強い経済を持っていますから、それを使って何でもやりたいことができます。もし日本がプレイしたいなら、それは日本の選択ですから、けっこうです。日本がプレイしたくないというなら、それもけっこうです。どちらにしても、われわれとしてはわれわれの国益を追求する義務があります。
 なぜ日米同盟が必要なのかという質問は、日本が答えなければいけない質問だと思います。というのは、アランの視点からいえば、日本は必要としていないのです。日米同盟の必要性というのは、心理的・社会的理由があるだけなのです。それ以外に、どこかに基地を持ったほうがいい、どこかに外注できるところがあったほうがいいと思う人もいるでしょう。それはそれで、そういう言い方、考え方もあるでしょう。日本がこれまでのところ、外注、下請けをする国であることを自ら選んできたのであれば、それはそれでいいわけですね。「普通の国」ではないわけですが。
 「普通の国」とはいったい何か。日本が「普通の国」になりたいならば、自分がどんなものになりたいのか、日米関係をどういうふうにしたいのか、自分で定義しなければいけません。外注業者であることでいいのならば、今うまく機能しているそれなりの同盟関係があります。ハト派なのか、タカ派なのか、リベラルな考え方をとるのか。田久保さんのお話でいけば、先ほど、非常に平和主義的な国、考え方ということがありましたが、それでいいということであれば、それでいいんです。こっちにとってはそれはかまわないのです。ですけれども、それならばそれ以上のことを期待しないでほしい。しかし、それ以上のことを期待するならば、ハードな部分の再定義が必要です。それについては、もちろん慎重でなければいけません。このディビジョンはアメリカの外交政策から出ているわけです。そして、日本に対して二つの違ったグループがありますね。「プレイするのか。邪魔をしなければ何でもやりたいことをやっていいよ」と言う人もいるでしょう。二つの違ったいき方があると思います。
 
モデレーター: 田久保さんが、トネルソンさんモースさんの意見におっしゃりたいことがあるでしょう。じゃ、ひとつお願いします。
 
田久保: 私が先ほど述べたことから、ボイド将軍、トネルソンさん、モースさん、ハーディングさんもそうですけれども、皆さんから、日本は何のために自衛力を持つのか、兵力の構成はどうするのか等々のご質問がありましたので、申し上げます。日本は、基本的には国益を守るために存在して、これからもその外交を続ける。そのために日米同盟が必要だから、アメリカと結ぶんだということに尽きると思います。
 中国ですけれども、ワシントンと北京と東京と3地点があって、ワシントンから北京と日本を並べてみる視点と、日本がオドオドしながら北京とワシントンを見ているのとは違いがあるんですね。たとえば、中間点の日本側に調査船が来ると、非常に神経質になるけれども、アメリカにとっては何でもないでしょう。何やっているんだということでしょう。それは、東京とワシントンとの間に、北京を見る温度差があるからです。これを調整しないといけないと私は思っているんです。
 アメリカは中国を敵視していないとハーディングさんは言われました。しかし、アメリカの対中政策はずいぶん変わっていますね。ニクソンは3分前に佐藤さんに連絡して、あっという間に中国に飛んでいってしまった。私は、ワシントンでこの人に直に取材していましたから、非常にインプレッシブです。それから、クリントンさんは中国を「戦略的パートナーシップ」と呼んだはずです。ところが、去年の1月20日に登場したブッシュ政権は「戦略的競争相手」と呼んだわけですね。二つの政権でこれだけ違っている。コンドリーザ・ライスさんは、官職に就く前に、彼女の論文で「潜在的競争相手」と明記している。だから、ワシントンの中国を見る目は信用できないんですよ。どういうふうになるかわからない。それは、ワシントンはワシントンの国益で行動しているから、当然であろうと思います。
 日米同盟は、その間の調整をしないといけないのではないか。いつヒビが入るかわかりませんねということになります。私は、先ほどから申しているように、日米同盟は必要欠くべからざるものだと思いますけれども、アメリカが必要だというので日米安保条約をやめて米中同盟に切り替えるならば、それはそれで仕方がない。われわれはわれわれで不退転の決意を固めなければいけないだろう。ここまで割り切っておかなければ、国際情勢は乗り切っていけないだろうと私は思っております。以上です。
 
モデレーター: またおもしろくなってきました。ハーディングさん、中国のご専門ですが、アメリカにとって中国とは何か。もう一つ、日米中と、3はとても不安定な数字で、2対1になりやすいんですよ。なにも日米がいつもワンセットで、中国だけ別ということはありませんから、理論的にはいろいろな可能性があるのです。正三角形はなかなか難しいんですよ。こういうバランス・オブ・パワーの状況は難しい。非常に変化しやすい数字が3なんです。こういうようなバランス・オブ・パワーの観点も含めて、ハーディングさんから中国問題についてお話をいただきたいと思います。とくに米国から見てどうかということです。
 
ハーディング: はい、ありがとうございます。まず初めに、三者の関係について話したいと思います。たしかに三角という関係はたいへん興味深い関係です。不安定であることもあれば安定的な関係であることもあると思います。安定であるという場合には、基本的には共通の利害が三カ国を通じてある場合です。あるいは、2対1という関係が成立している場合、一つとお互いの間にきちんとした同盟関係がある場合、三つがそれぞれお互いにライバルである場合とがあると思います。この将来を見通したジョージ・オーウェルの「1984年」という本があります。三つのライバルの関係も安定的になるかもしれません。それから、ロマンティックなトライアングルとして、一つの国が両方といい関係を持ちたいが、この二つはあまりいい関係ではないという場合もあります。ですから、三角といえども、安定的なものもあれば、不安定なものもあります。魅力的な関係であることは間違いありません。
 そして、アメリカが中国をどう見るかという問題ですけれども、先ほど、日本の友人の、アメリカが中国にロマンティックな感情を持っているという発言は、おもしろく聞きました。それについてはいろいろ変動もあります。それから、日本の方から、アイソレーションについてあまりにも過大評価しすぎである、気にしすぎであるという発言もあります。クリントン政権とブッシュ政権の間でそれほど大きな違いはないと思います。もちろん違いがあることは事実ですが、クリントン前大統領は、中国はアメリカにとって戦略的なパートナーだということは言っていません。これは基本的な誤解です。共和党がクリントン氏に対抗して出馬したときに、わざとこう言ったわけです。中国の首脳部に対して、二国の目標として「建設的・戦略的なパートナーシップを築くためにお互いに進もう」ということを言ったと思うのです。そういった関係をつくりたいと言ったわけで、すでに戦略的なパートナーシップが存在するというふうに言ったことはないのです。コンドリーザ・ライスさんが、ブッシュ大統領が就任前あるいは就任後に、中国を戦略的な競争相手であると言ったこともありません。これは、クリントン政権を攻撃するためのキャンペーンのスローガンだったのです。
 ですけれども、航空機の接触事故のあと、この戦略的な枠組みがはっきり出てきまして、そのことから「建設的・協力的な関係を中国とつくることが望ましい」と言い出したわけです。そこで気づいていただきたいのは、「戦略的なパートナーシップをつくりたい」ということ「戦略的・協力的な関係をつくりたい」ということは、言葉は違いますけれども、目的とするところは同じです。ところが、戦略的なビジョンをどうするかという戦術、方法が問題になるわけです。クリントン政権は最後のほうになって、中国に対してより融和的な態度をとりました。そして、ブッシュ政権は、それほど融和的な態度をとっていません。これは古典的なジレンマと言っていいと思います。関係を構築するうえで、交渉の中でアメとムチをどう使っていくのかという問題です。
 そして、日本の方々と意見が一致しているのですが、中国にどうアプローチしていくのか、そのうえでアメとムチをどう使っていったらいいのかというところが問題だと思います。非常に興味深い挑戦課題だと思います。ですけれども、私は、クリントン政権とブッシュ政権の違を誇張することはしたくないと思います。とくに、キャンペーンレトリックとしてブッシュ政権が言ったことに対する誤解に基づいて、それが誇張されているきらいがあると思います。
 
モデレーター: ハーディングさん、福田さんに中国問題をやっていただいたあと、もう一度、米中関係、日米中の三角関係についてのあなたの見解をお聞きします。
 では、福田さん、よろしくお願いします。
 
福田: 先ほどのトネルソンさんの話が、かなり問題点を明らかにしてくれたのではないかと思います。要するに、日米安保の基本になるものは、東アジアでどれだけ利益を得られるのかということだとおっしゃったのは、本当にはっきりしたことだと思います。では、これは日本もそうですし、ヨーロッパもそうですけれども、そのときにアメリカが投資した資本がちゃんと利益をあげるためには、保持されるためには何が必要なのかを考えた場合、非常に不安定な独裁的な国であっても、ある程度治安がよければ投資をしても大丈夫だという判断があるかもしれません。しかし、極端な例ですが、たとえばアレビのイランに大量の資本を投資しても回収できないのと同じことでしょう。
 これはハーディングさんやモースさんと見方が違うかもしれませんが、日本は中国の隣にいて、こちらもいろいろなことをしましたけれども、何回かこちらもされているような関係から見ると、今の中国の状況は非常に不安定なものに見える。朝のセッションで話させていただいたことですけれども、あれだけ経済的に開放して、商業経済を発展させながら、基本的な民主的なアプローチはまったくしていない。経済と思想や社会制度の乖離が非常に激しい。経済開放にしたがって、だんだん民主化してくるのかなという期待があったわけですが、いままでのところ、それは完全に裏切られています。
 いちばんわかりやすいのはホウリンコウの問題で、大して害があると思えない健康法のセクトの団体がちょっとした抗議をしたというだけのことで、何百万人が投獄されている。そういうことをやる政府だということがわかっているわけです。こういうところに投資していって、経済的利益が保持できるのか。これはやはり何らかのかたちで、ある種の安定性を持つようなかたちで考えていかなければならない。
 もし中国が、内乱が起こるなり何なりで破綻したり周りに影響を与えた場合、中国だけではなくて、日本の経済も韓国の経済も東南アジアの経済も非常に大きい影響を受ける。とすれば、経済的な利益だけに関しても、日米安保は大きい意味があると思います。
 もちろんアメリカがここまで大きい前線軍備を持たなければいけないのかということは,また別の問題だと思いますし、そのなかで日本がある程度のことを代替するなり、こんなに多くの人を常に前線に置かなくても、すぐ来てもらえるようなかたちに直すことはできるのではないかと思います。
 経済の問題でいいますと、モースさんも、アメリカの経済は非常に強いとおっしゃって、たしかに今は非常に強いと思いますけれども、しかし、本当に強いのかということは考えてみる必要があるのではないでしょうか。ニューヨーク・タイムズがついこの間、日本をくさしたわけですが、10年前、ブッシュ・シニアが来たときに、GM以下、自動車会社のトップを連れてきて、日本の経済を何とかしようとしたところ、日本の銀行家たちは一種の魔術師のように君臨していて「日本は10年後にどうしようもなくなって、世界は日本なしでもやっていける」と言ったけれども、それはたった10年前のことで、いつどうなるかわからない。実際、今、ビッグ3は非常に厳しい状況に置かれて、鉄鋼もどうのということがあるとすれば、日本とアメリカが緊密な関係を持っていくことは、アメリカ経済にとっても非常に必要なことではないかと思われます。
 
モデレーター: 一つの問題は、10年後、20年後の中国の姿をどう捉えるかという問題にかかっているわけです。福田さんは、中国の将来について、ややネガティブで、ダークサイドを非常に強く見ておられる。それが正しいのかもしれません。わかりません。もう一つ、ハーディングさんは、もちろんダークサイドも考えているけれども、福田さんほどではないように思われる。福田さんのように、中国の将来がダークだったら、アメリカの儲けのためには、トネルソンさんのおっしゃるように、中国と組んでもダメですよ、やっぱり日米同盟がいいんですよ、ということになる。
 そこで、トネルソンさん、どうぞ。
 
トネルソン: いま聞いたコメントは、アメリカの前方展開プレゼンスと、アジアの安定性に関して私が言った点を支持するものだと思います。韓国には3万7000の米軍兵士がいますが、1997年10月、韓国の経済が突然破裂したときも、それだけいたのです。ですから、韓国にアメリカの兵士がいたといっても、韓国の経済には何一つ影響を与えない。影響はゼロなんです。あの韓国の経済は、まるで地震のように崩落し、失業率があれだけ上がり、世界で10位といわれていた経済国家がIMFに救済策を求めなければいけなかったのです。そして、非武装地帯でアメリカの兵士は自分たちの任務を果していました。そういうようなアメリカの軍事政策に関して、だれも批判はしませんが、全然関連性がなく、影響力は持たなかったのです。
 そして、アメリカは日本に50年間も5万の兵土を駐留させていますが、アメリカにとっては、付加価値のついている輸出品を日本に輸出するのはとても難しい。大豆は輸出できますけれども、機械類は輸出できない。そして、日本の経済は、アメリカだけではなくて外国投資にとってはまだまだ閉鎖されています。それで日本の経済をやりたいとおっしゃるなら、それはそれで皆さんの決断でしょう。でも、5万人の兵士がいるのに、投資を許さないというのが日本の状況です。
 アメリカのプレゼンスは、日本の経済政策への影響はまったくゼロです。そして、日本との関係がアメリカにとって、どれだけ利点があるのかということに関してですが、アメリカはもっと繁栄しますけれども、それは日本と貿易しているからではありません。たしかに日本はわれわれにたくさん資本を出していますね。われわれが収入以上に支出していくためのおカネは日本からきているということも言えます。われわれは消費に迫いつくのに必要なだけの収入力がないのは、日本の通商政策により制限を受けているからなのですよ。ですから、われわれは日本からのおカネを得て、われわれはまるで麻薬中毒患者のように日本のおカネを使って、どんどん過剰消費をしている。ですから、日本の通商政策にはあまり感謝していません。アメリカがこのように借金づけになっているのは、借金に中毒になっているのは日本のせいとも言えるからです。
 しかし、アメリカの東アジアにおける軍事政策と、東アジアにおける経済的な成功は、もっと複雑なものなのです。われわれが通説で考えているよりもっと複雑な要素が絡んでいる問題です。
 
モデレーター: 日本の黒字と貯蓄率の高さが、アメリカの雇用機会を奪い、日本は対米輸出によって雇用機会を多くして、その代わりとして、日本はアメリカに資本を投下したということは、実際に客観的な事実ですが、その場合、アメリカが悪いのか、日本が悪いのかという問題ではないように思うのです。実は、私は、安全保障問題よりも経済の専門家なんです。そのことはいいんです。これはメインの論点ではありませんから。トネルソンさんのおっしゃることは、真理の一面を突く非常に鋭い指摘だと思います。
 それで、こういう順序にしましょう。ハーディングさんが福田さんとは違う中国像をお持ちになっているので、それをお話しいただいて、そして、志方さん、福田さんの順番でいきましょう。同意していただけますね。じゃ、それでいきましょう。
 
ハーディング: はい、そのようにいたします。でも、その前に、私の同僚、トネルソンさんの言ったことに関して、最初の部分には同意できません。日本の経済政策あるいは通商政策に関してはコメントはいたしません。でも、同盟のコメントに関しては、「失業したのに、あの警察官は何も手伝ってくれなかった」と言っている人を思い起こさせます。でも、二人には関連は全然ないのです。アメリカの多くの軍事プレゼンスは、金融危機の管理には何の関連性はない。手段とその目的を考えなければいけないでしょう。
 アランさんは、国際政治ではリアリストだとおっしゃっています。そして、彼は一貫性をもって国際的な制度には依存することはできない、あるいは、経済的な相互関連性に依存して安全保障を守ることはできない、安全保障のためには軍事が必要だとおっしゃっている。そして、アジアにアメリカの兵力があることは関連性がないとおっしゃるのは、もうリアリストではないですね。トネルソンさんはリベラリストに変わってしまわれたようです。どうぞわれわれの陣営に歓迎いたしますよ。
 中国に関してですが、中国が今後どの方向に行くのかは、私はわかりません。中国は非常にダイナミックな複雑な国です。中国は今、崩落寸前にあると信じている人もいるし、信じる寸前の人もいるし、中国は新たに非常に強力な経済力を持つ国になるということを信じそうになっている人もいます。その両方ともが正しいということはありえないでしょう。中国がどういう方向に行くのかということは予知、予測はできない。これは予知の問題ではなくて、危機管理の問題だと思います。予知、予測ができないのであれば、戦略を講じて、その不確実性に備えなければいけません。そのためには、この状況を形成していくのか、あるいは、不確実性に向けてヘッジング行為を行うか、どっちかです。
 福田さんがおっしゃったとおり、本当にもっと多くの人が注意を払えばいいと思います。われわれは、非常に弱い混乱した中国にも非常な脅威を感じるということです。強い中国ばかりをアメリカ人は心配していますけれども、弱い中国も心配すべきなのです。日本に来ると、私はいつもこう思います。日本にとって中国は非常に近いので、中国の強力なことを心配されるかもしれませんが、弱い中国も恐ろしい。どういうことを予見するかというよりも、何が起こってもいいように、その不確実性に備える戦略を講じることが必要です。
 
モデレーター: 志方さん、どうぞ。
 
志方: トネルソンさんから、前方展開戦力は経済とあまり関係ないというお話がありましたけれども、たとえば韓国がデフレーションになったときに、日本が緊急援助をして、墜落せずに、低空飛行で乗り切っていった陰には、そういう状態になっても、在韓米軍がいるから、北がその隙を突いて攻めてくることがなかったということがあるのです。在韓米軍がいるから、そういう最悪のシナリオを避けながら経済復興ができるのであって、経済と安全保障は表裏一体のものだと思います。どっちが関係ないというものではない。
 もう一つ、わが国では、在日米軍の存在は、たんに日本の防衛だけではなくて、東アジア全体の安定のための公共財だという意識があるからこそ、沖縄の島民は騒音にも堪え、日本の国民はその駐留を認めているわけです。そのことを考えますと、東南アジアの経済がおかしくなければ、直ちに安全保障にも関わってくることで、やはり米軍の前方展開は非常に効果があると思うんです。
 それから、ここでわれわれが中国がどうなるかということをいくら論じても、あまり意味がないと思うんです。中国人に聞いても、自分たちがどうなるかわかる人はほとんどいません。私はとくに軍人ですから、現実主義で、中国が大変な軍事大国に突っ走った場合と、いまおっしゃったように大乱の中国になった場合、政治的には民主主義、経済的には市場経済で、個人の権利を認める真の意味の大国になる場合と、この三つのコースを考えて、そのどれになってもいいように、あるいは最悪のコースを避けられるような日米の協調が必要なのであって、ここでわれわれは、相手の国がどうなるかということに賭ける必要はないと思うんです。どのオプションをとろうと、日米がやるべき共通項を見いだして、それを日米同盟の基礎に置けばいいと思います。
 
福田: 実は、申し上げたかったことは、先ほど、ハーディングさんがおっしゃってくださいました。トネルソンさんの論理は、私が申したことと逆転しています。要するに、経済破綻を防ぐために軍隊があるのではなくて、その地域の平和を守るためであって、非常に活発な経済があったとしても、そこで戦争なり紛争が起きたら、そこに投資したものが保全できないということを言ったのですが、そこが逆になっていたので、そこを申し上げたかったことが一つです。
 やはり、ハーディングさんがおっしゃったように、リスクヘッジをやるのか、寛容政策をやるのかということは、広い視野で、いろいろな選択肢を考えながら分析を重ねてやっていく。
 志方先生は、だいたい三つのシナリオを挙げられましたが、事態はもっともっと複雑で、いろいろなかたちの分析も情報も必要であるということで、アメリカの国益と日本の国益が微妙に違うとしても、複眼的な視点の中で中国を分析していくというアプローチの中で、中国を中心とするアジアの安定を守れるし、日米関係も新しくしていくきっかけになるのではないかと思います。
 
モデレーター: ボイドさんが先ほどからスタンバイされていますので、どうぞ。
 
ボイド: 待機しているというより、十分楽しんでいたんです。ピンポンを観ているようなもので、ボールが専門家の間を行き来しているという印象です。今朝初めて話したときには、日米の安全保障関係について不安定的という話もしたのですけれども、駐留軍の政治的な安定に対する影響については、私は、どちらかというと福田先生のほうに寄っていると思います。
 第二次大戦後、これは偶然だけではないと思いますが、日米は、もっとも繁栄する経済大国で、日本は、米国以外にいちばん米軍の駐留が多かった国であると言っていいと思います。90年代初め、米軍をヨーロッパに引き続き駐留させることをアメリカの政治家と議論することは、なかなか困難でした。私は、ドイツでの上級職にありまして、ほとんどの軍がそこに駐留していたのですが、訪問してくる政治家に常に攻撃されていました。そして、私がいる間に、ヨーロッパにおける米軍の数が25万から11万ぐらいに減りました。その5年前は32万5000でした。
 そのときに議論を展開しましたが、地理戦略的な配慮はもちろんあり、その話をし出すと、政治家はちょっとわからなくなってしまったようです。私はヨーロッパ大陸の地図を用意し、マクドナルドのお店のあるところに赤いマルをつけて示したのです。マクドナルドは1ヵ月前とか3ヵ月前よりどんどん増えていくので、地図もどんどんアップデートしなくてはならないのですが、最後に覚えている数は1950店だったと思います。しかしながら、ダルメーションコーストのほうにはありませんでした。クロアチア、アドリア海ですね。バルカンもありませんでした。戦闘があるところや、政治的に不安定なところにはマクドナルドはなかったのです。ですから、アメリカ軍のいるところは政治的な安定があり、政治的な安定が見られるところは、傾向として投資環境がよいということです。
 そして、長期的な地理戦略的な配慮に興味がないならば、支持者がどこに投資するかということを考えればいいと思います。地元の選挙区はどこに関心を持つか考えればいいと思います。米軍がある国に駐留したからといって、通貨が安定するわけではないと思います。財政や金融政策がまずければ決して役には立たないと思いますが、しかし、政治的には安定化の要素を提供し、安定化の難しいところでは貢献できると思います。
 われわれは新たな世紀に入り、いままでとは違う考慮をしなければならなくなっています。力の行使にあたって、テリトリーがどれぐらい効くのかはよくわかりません。この重要性はどんどん下がってきていると思います。
 私はここで止めまして、安定化とか駐留軍の議論を再び聞きたいと思います。最後にもう一回、力に関して21世紀は何が重要なのかということを述べたいと思います。
 
モデレーター: ありがとうございました。ここは話は本当におもしろいんですよ。それで、ここで何回か議論が繰り返されているんですけれど、アジア経済危機はマネーマーケットから起こったんですよ。国際資本の短期資本の移動から起こったので、これは違法でも何でもない。だから、そのことと米軍の存在が直接関係ないのは当たり前のことなんです。ただ、その国は米軍がいたからマネーマーケットを持てるようになったのかもしれないんです。なぜならば、安全保障が非常に不安定で、マネーマーケットとかストックマーケットとか経済が持てないということもあるわけです。したがって、米軍の存在がその国の安定をもたらし、その国の安定はネセサリーコンディションなんですよ。米軍の存在がネセサリーコンディションをつくったんです。十分条件は何かというと、さらにその経済が成熟したり、経済の国力がついて、短期資本にやられないとか、そういう話でありまして、もともとこれはアナザーアーギュメントなんです。
 ただ、トネルソンさんはとても雄弁な方で、すごく頭のいい方ですから、それで少しみんなの頭が混乱したんじゃないかと、私はエコノミストですから、そのように考えました。トネルソンさんがわれわれに与えてくださった刺激にとても感謝いたします。
 では、こういう順次でいきましょう。あと10分でクロージングリマークに入りますが、とくに私のまとめは要らないと思います。この討論自体がものすごくおもしろいんですよ。私がまとめると日本のつまらない新聞みたいなるからやめましょう(笑)。
 トネルソンさんとモースさんがお話しになって、その次に田久保さんのクロージングリマークとボイドさんのクロージングリマークで、この会議を終わることにいたします。
 
トネルソン: なるべく簡潔に申し上げたいと思います。どうもしゃべりすぎたような気もいたしますので。米国の軍事的なプレゼンスと経済的な安定性の関係について私が言っているのは、べつに米軍のプレゼンスが貢献しないということではなくて、安定は条件であって、これはいろいろな力とかイベントによって脅かされるかもしれない。軍部の存在、軍事力のプレゼンスは、最善のシナリオの下でも、様々ある脅威の中の一部しか守れず、ほかにもまだ残る脅威はあると思います。たとえば、四つ脅威があって、戦略がそのうちの一つしか扱っていないとしますと、定義上、これは戦略として失敗だと言っていいと思います。したがって、米軍に大きく依存して、この地域の安定性を確保しようという考え方は、私の議論でいえば不十分です。
 最初に申しましたが、東アジアで安定性を確保しようということは、それほどシリアスに考えているのではないかもしれません。少なくともそういうふうに見えます。一つの脅威にしか対処していないではないかと申し上げたいと思います。もしかしたら、これは外交のボイラープレートで、ある国が努力はしているけれども、うまくいかない。冷戦のポリシーの正当化をしようとしているのかもしれません。
 ハリーさんのポイントですが、経済的な相互依存に依存していると言ったのではなくて、われわれの期待を明確にしたいと考えています。いまあまりにも絡み合ってしまっているので、それを少し切り離したいと思ったのです。アメリカのレトリックはともかくとして、東アジアにおける米軍の存在は、経済的には実質的な影響を及ぼしていない。たとえば、アメリカの生産者にもっと機会が生まれているということはない。そして、公式なアメリカのレトリックは真剣に考えてはいけないのかもしれませんが、今だけは、これはジョークではないとしましょう。公式なアメリカのレトリックとは違って、軍だけで東アジアは安定したわけではないのです。ほかにはそれほど措置は講じてはいません。それが問題だと思います。
 それでは、アメリカの軍事プレゼンスはアメリカの国の安全保障に貢献しているのかどうか。経済的なことではなくて、軍部のほうです。冷戦時代にはそうだったかもしれませんが、冷戦後はもっと難しくなっています。そして、ネットで見れば、アメリカの軍事的なプレゼンスが米国を保護するよりも、もっと危険にさらしているように思います。いい例が、3万7000人の米軍のほとんどみんな、おそらく核兵器を持っていて、狂っているんじゃないかとみんなが合意しているようなところのそばに置いている。韓国は保護するかもしれませんけれども、アメリカはそれで安全になるわけではないように思います。
 
モデレーター: では、モースさん。
モース: ちょっと前にハンチントンさんと日本の話をしましたが、日本は一つの基本的な問題を有していると言っていました。日本は西半球に入っていないし、欧米の文明圏に入っていないし、キリスト教国でもない。ということで、世界をイスラム、中東、ヨーロッパ、アジアといった観点で見た場合、日本は地理的にも文化的にも歴史的にも中国の影響圏に入っている。そして、21世紀において日本にとってもっとも重要な問題は、何らかのかたちで中国との合意、妥協、融和を見いだすことで、これは日本の将来にとってクリティカルです。
 このロジックを少し拡大して、日本はなぜ中国とアコモデーションができないのか。日本の歴史を知っている人はわかるんですけれども、アコモデーションというプロセスは徳川時代からずっとやっていて、なかなかうまくいっていないんです。
 考えてみますと、日本には三つの問題があると思います。まず第1に「中国との融和」です。第2に「経済力を復活」させなければならないことです。第3に、田久保さんの表現でいえば、「普通の国」としての「ナショナルプライドを回復」しなければならないのです。
 この三つの問題をどうやって解決すればいいのか。この解決のいちばん大きなバリアーは日米関係だと思います。どの問題であっても、日本はアメリカのほうを見てしまう。安全保障面でも、外交面でのリーダーシップでも頼ってしまい、経済的な関係に関しても、どうしてもアメリカのほうを見てしまう。日米同盟がなかったならば、日本は中国との融和ができるし、日米安保がなければ、日本は自らを守らなくてはならない。
 これは簡単にできることだと思います。GDPの4%、土木工事でムダになっているようなものを軍事費に回せばいいのです。2000億ドルで10年の間に一級の軍事能力を身につけることができると思います。
 中国とのアコモデーションができたとして、こういった軍備施設に投資することによって景気を回復することができれば、日本はノーマルな国になって、日米関係は今よりもずっと改善しているはずです。したがって、日本の基本的な問題は日米関係ではないかと思います。
 
モデレーター: 日中関係でしょう。モースさんに一つだけ聞きたいのですけれど、日本がGDPの4%を軍事費に回す場合、核も入っているんですね。
 
モース: もちろん。
 
モデレーター: それだけ確認しておきます。
 
モース: 一言言わせてください。これはディスカッションの最初に戻ると思うんですけれども、現在の日本は民主主義国家です。日本は世界の中で最も先進国の一つです。日本人は基本的に平和主義の国民です。日本がもし兵器を持つとしても、心配する必要はないのです。日本が核兵器を持ったほうが、中国や北朝鮮が持つよりずっといいと思います。友人が強いほうが、敵が強いよりずっといいのです。今、問題なのは日本が弱いということで、それが不安定をもたらしているわけです。
 
モデレーター: 日下さん。
 
日下: はい。
 
モデレーター: スポンサーで主催者ですから、とくにネポティズムで発言をしていただきたいと思います。
 
日下: 本当に申し訳ありません。1分だけ言わせてください。この議論で出ていないし、これからも私が言わなければ出ないと思うことを一つ言っておきます。「日本は中国の一部である」(「スタディ・オブ・ヒストリー」)とトインビーも言いました。ハンチントンも言いました。しかし、横へちょっとのけてあるんですね。完全な一部とは認め難いと言う苦労はなさっていらっしやる。モースさんも、何で日本は中国の一部のように見えて、しかも、そうでないかと。
 私は、中国はおそるべき軍事力を持っていると思います。それは相手を腐敗させるという力です。エイズのようなものです。ですから、WTOに入ると、中国は行儀よくなるだろうというが、WTOが腐敗、堕落する。オリンピックもこれから恐ろしく腐敗、堕落する。そういう国際的な影響力を持っているから、日本はそれを遮断して独立を守ってきたんです。この努力を、たぶん欧米の人は見ていないんじゃないか。これだけです(笑)。
 
モデレーター: ありがとうございました。それでは、われわれは時間との戦いもしなければいけません、中国は敵ではないんでしょう。でも、時間はわれわれの競争相手ですから、時間と競争しましょう。いまはもう17時30分ですから、最後に田久保さんとボイドさんにクロージングリマークをしていただきます。
 まず、田久保さん、どうぞ。そのあとボイドさん。
 
田久保: 午前中からいろいろ申し上げてきましたけれど、私の見解をまとめてみたいと思います。日本は日米同盟を日本の国益のためにやっている。国益とは何かというと、独立と主権を守るという非常に専守防衛の立場ですよ。日本が侵略するとか軍事大国になるとか、アメリカの友人たちも、日本の形をきちっと示せとおっしゃったんですが、日本はサバイバルのために身を守る。今、それができないから苦労しているという話なんですね。何ということもない平凡なことです。
 日本の独立と安全を守るためには、いちばん近いところは東アジアで、その一方で朝鮮半島には3万7000人の在韓米軍がいて、一つの抑止になっている。それから、どなたもおっしゃいませんでしたけれども、台湾は朝鮮半島よりもっと近い国で、日本の与那国島の至近距離にあって、台湾海峡で問題が起こったら困る。その問題を起こす国は台湾ではなくて、大陸から起こすのではないかという不安があるのです。だからこそアメリカも台湾関係法を持って、ブッシュさんがここに来られたときも、台湾に対するコミットメントは守るとおっしゃったのでしょう。したがって、アメリカが日本と東アジアの平和と安定に共通の目標を持っていないということは言えないんじゃないかと思いますよ。
 私は、そういうことで、日米同盟は、経済だけではなくて、安全保障の面から見て、たいへん重要な関係ではないかと思います。
 それから、ボイドさんの非常に示唆的なご発言で、「開発」と「安定」ということがありました。これは二者択一ではないと私は思います。「開発」については日本は十分貢献する準備があるし、やってきたと思います。問題は、「安定」のほうをやらなさすぎたことです。「安定」をやるにも、モースさんはGDPの4%と言われましたが、それはハードの面で、目に見えないところでもっと重要なものがあると繰り返し繰り返し申し上げましたけれども、ここのところをきちっと整備するときに、アメリカのほうから「日本は危険だ」というような声をどうぞ出さないでほしい。これはお願いしたいと思います。
 われわれは、21世紀は、「開発」と同時に健全な「安定」の方向に乗り出さなければいけないのではないか。こういう観点から見ると、われわれだけが日米同盟を必要として、「お願いします、お願いします」と言い寄っているのではなくて、アメリカも日本の価値を認め、「強い日本」を支援することがアメリカの国益に合致するということを十分認識してほしい。そのためにきょうのディスカッションはたいへん実りがあったと信じております。以上でございます。(拍手)
 
モデレーター: それでは、ボイド将軍、お願いいたします。
 
ボイド: きょう一日、たいへん興味深い経験をさせていただきました。生まれて初めて、こうした会議にこの国で参加させていただきました。そして、この会議の中で、非常に刺激に満ちた知的な活動がありました。非常に合理的な、しかも感情にも訴えるような内容の議論がありました。私は大きな感銘を受けました。非常に挑発的な意見にも耳を傾けてくださり、しかも、腹を立てたり、感情的になったりしない方々で、非常にバランスのとれた客観的な見方をしてくださるということで非常に感銘を受けました。これは日本の大きな強みの一つだと考えます。
 私は、戦略的な環境が今の世界に存在すると思っております。この特徴は、私の国自体にも影響を与えています。より大きな意味で、先進国すべてに影響を与えていると思います。また、きょうの議論の中では、とくに後半、日米安全保障がどんな意味を持つのかという話し合いが多く持たれました。これについては、私としては、いろいろな議論が出されたことをもとに、われわれがこれからもずっといろいろな考察を続けていくたたき台になったと思います。
 私自身の考えとしては、トネルソンさんの意見に賛成する点があります。つまり、駐留軍の有用性が減ってきたということです。今、新しい世界への移行期にあると思います。まだわれわれ自身がその方向で変革したわけではありませんけれども、変革の必要性があると思います。
 これまで中国、北朝鮮、その他の国についてのいろいろな議論がありましたけれども、今後四半世紀にわたって北朝鮮が日本を侵略することはないでしょう。他国の領土を取ってしまうという潜在的な可能性は世界で減ってきていると思います。それを行ったところで、得られる価値が減ってきているからです。領土以外の、たとえば天然資源などについても異なってきています。
 実際、何が問題かというと、日本は世界の中でもいちばん重要性のあるパワーを持っていると思います。これからも重要になるインテレクチュアルパワーです。規律がとれ、組織化され、安定化した労働力、教育制度が優れているというパワー、技術的な先進性、コミュニケーションのパワー、通信のパワーといったパワーこそが今価値を持っていると思いますが、日本はそういったパワーを潤沢に持っていると思います。
 また、日本は、これからの世界の中でアメリカが負うのと同じリスクもあると思います。5万人の軍隊が安全保障をしてくれるのではなく、伝統的な軍事力が日本の安全を保障してくれるわけではないでしょう。これまでの同盟ということではなくて、これまでとは違った形態をとっていくことになるでしょう。900台の戦車があるとか、空母がたくさんあるとか、そういうパワーとは違ったかたちのパワーが重要になると思います。アメリカやほかの先進国と力を合わせていくことが必要になるでしょう。そして、その協力によって、そのような安定化に向けたこれまでの力を捨て、開発のプロセス、テロが発生するプロセスを根絶やしにするような方向での力の発揮ということになるでしょう。何らかの国際的な機関、あるいは同盟という努力で、これまでテロが生み出され、危険な成熟を見てきたような国々に働きかけて、そういった国々が、政治的・経済的・司法的な制度やプロセスでもって、国際的なコミュニティの中に一員として入っていけるようにする。グローバライズするというプロセスをぜひ手伝って貢献していただきたいと思うわけです。
 21世紀の安全保障の要件は、これまでの伝統的な一国の安全保障ではなくて、そういう意味での要件になってくると思います。
 私がこの会議にメッセージとして送るものがあるとすれば、今申し上げたことです。日本の方々は本当に合理的な精神に富んだ方々だということを知っております。本当に熱心に聞いてくださいました。こういった知的な活動については、たいへん尊敬の念を抱いております。私にとって、きょう参加させていただいたことは、たいへん名誉なことでありましたし、たいへん興味深い経験でした。ありがとうございました。(拍手)
 
モデレーター: これで終わりました。終わりにあたって、日本側を代表して田久保さんと、アメリカ側代表のボイド将軍と握手してください。私はもう消えます(笑)。
〔田久保氏とボイド将軍の握手。(拍手)〕
 会場の皆さん、ありがとうございました。(拍手)
 
進行役: 講師の先生方、本当にありがとうございました。また、会場の皆様、積極的なご参加、ありがとうございました。
 いくつかご案内をさせていただきます。この直後、記者会見を当ビル3階の東京財団にて行います。出席されるパネリストの方々、プレス関係の方々は3階のほうにお上がりくださるようにお願いいたします。
 レセプションは記者会見のあと、6時半ごろから行いたいと思いますので、皆様、どうぞご参加くださるようにご案内いたします。会場は同じフロアの奥のほう、コーヒーブレークをした部屋でございます。正式には6時半ごろからと思っておりますけれども、それより前でもいらっしゃっていただければ、ドリンク等、お楽しみいただけます。ここにおこしの皆様、時間の許すかぎり、どうぞご参加ください。
 それから、ご参考までに、本日ご出席いただいております日本人の先生方のご著書がございますので、ご紹介したいと思います。田久保先生の「新しい日米同盟」、志方先生の「最新極東有事」、福田先生の「新・世界地図・直面する危機の正体」です。これはレセプションの会場に置いておきますので、よろしければどうぞご覧ください。
 同時通訳のレシーバーは、そのまま椅子の上に置いていただければけっこうでございます。
 それから、最後になりますけれども、きょう、長時間にわたって通訳をしてくださいました方々、酒井伊津子さん、篠田顕子さん、鈴木宏子さん、平沢三紀子さん、本当にどうもありがとうございました。(拍手)
 以上をもちまして、本日のシンポジウムを終了させていただきます。ありがとうございました。








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