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そこで詳細解析によって、バルバスバウの外形状及び内部構造様式の相違が被衝突船の船側構造破壊に与える影響(緩衝効果)を把握した。代表シナリオとしては大型タンカー及び大型コンテナー船がダブルハルVLCCの中央に真横から輻輳海域での上限速度である12ノットで衝突するケースを想定した。その結果一般的に、外形状影響が最も大きく内部防撓構造様式影響がそれに次ぐ事(図2-10及び図2-11参照)、当該想定条件下でも緩衝型バルバスバウ(扁平な外形状+横防撓様式内部構造の併用)を採用すればVLCCの内殻破壊(油流出)を防げる可能性がある事、被衝突船の前進によって生じるバルバスバウの全体横曲げ影響が無視できない場合がある事及び、狭幅で尖鋭形状のバルバスバウ(高速船で標準的)の場合には、曲げが生じ易い横防撓様式の採用効果が顕著になる事(図2-12参照)、などが判った。また、尖鋭形状のバルバスバウの場合には防撓様式によらず(二重)船側構造の貫通を防護し難い傾向にある事、扁平型のバルバスバウの場合には横防撓様式の内部構造を採用すると船側外板上の破口発生をかなり遅延させる効果がある事従って、シングルハルタンカー(及びその他のシングルハル構造船舶)からの油・貨物流出確率の低下(衝突限界速度の絶対値は低いが)を期待できる事も判った (図2-13参照)。
 
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図2-10 尖鋭形状縦通防撓様式バウ(大型タンカー)の局所的圧壊と二重船側上の鋭利な深い破口
 
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図2-11 扁平形状横防撓様式バウ(大型タンカー)の全面的圧壊と二重船側上の広範で浅い破口
 
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図2-12 扁平形状横防撓様式バウ(大型コンテナー船)の全面的曲損と二重船側の変形(無破口)
 
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図2-13 衝突時抵抗力の履歴と内外殻破断時点の比較(衝突船:大型タンカー/大型コンテナー船)
 
 次に、船首構造の圧壊及び船側構造の引張/折畳み破壊現象を簡易的に扱う近似解析手法を用いて、各種サイズの船舶が各種サイズのダブルハルタンカーの各種位置に衝突するシナリオに於ける緩衝型船首構造の採用効果(被衝突船保護効果)を概略把握した。その結果、緩衝型船首採用時の総エネルギー吸収量の増加及び油流出をもたらす限界衝突速度の上昇が、それぞれ約1.5〜3倍及び、約1.2〜1.8倍まで期待可能である事、従って緩衝型船首の採用が有意義である事が示唆された。緩衝型船首の設計指針は以下であり既存の建造技術を用い且つ、特段のコスト増を伴わずに実現化が可能であると考えられる。
 
(1) 通常荷重に耐える構造様式・構造寸法にする。即ち原則的に、船級協会規則を遵守する。
(2) バルバスバウの単位断面積当たりの圧壊耐力(圧壊圧力)を可能な限り低下させる。
(3) (2)を満たす条件下で、バルバスバウ断面全体の総圧壊耐力を可能な限り増加させる。
(4) (1)から(3)の要件を最も容易に満たすのは、外形状を扁平大型化して被衝突船の船側構造との接触面積を大きくする設計である。特に先端部分を尖らせないのが肝要である。
(5) バルバスバウの内部構造に横防撓様式を採用して、面外強度を維持しつつ船長方向圧壊耐力の低下を図るのも現実的で有効である。
(6) 横防撓様式を採用する範囲では、横防撓材を支持する水平桁及び縦通桁を配置する必要が生じる。この場合、桁付防撓材は船幅方向に平行に配置するとの配慮が望ましい。
(7) 対象が高速船型などの理由で外形状の扁平大型化が困難な場合には、代替案としてバルバスバウ基部の幅或いは深さを絞る等、バルバスバウ先端から離れた位置での断面積の縮小と横曲げ剛性が低下する様な配慮が望ましい。基部の幅が絞られない場合でも、バルバスバウの突出長さが大きい場合には実質的な横曲げ強度の低下が得られる。
(8) 喫水線上の船首形状・構造様式についても、被衝突船の船側構造上部との接触が予想されるので、バルバスバウ同様に尖鋭形状で強固な構造設計は好ましくない。
 
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図2-14 緩衝型船首構造の例(大型タンカー)
 
 以上は、希な「衝突時の被衝突船保護」の観点を最優先した場合の設計指針である。現実には通常の航海時性能・オペレーションの便及び初期・メンテナンスコストなどを含む観点から総合的に最適化を図る必要がある。また、現時点での近似解析手法はバルバスバウの曲げ影響を織り込めないなど改善を種々要する段階にある。定量的で具体的な各種構造寸法・強度目標を具体的に確定するのは今後の課題である。








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