SR500「船舶技術の創造的展開に関する調査研究」
第502分科会「高速船技術の創造的展開のための調査研究」
要 約
SHIP RESEARCH PANEL 502
Research for Development of Large Fast Ship Building Technology
Many large fast ships built in Australia and Europe are in service. In Japan, no large fast ship is and it seems that our fast ship building technology is inferior to Australia and Europe. In the future needs, all large fast ships will be supplied by such imported technology and no fast ship building technology will remain in Japan. Consequently, the technology shall be leveled up. For this purpose, data of fast ships were collected and analyzed. In the result, it is appeared that the propulsive performance depends on the displacement and no hull form. Trial- preliminary design is carried out on actual mono hull ferry TMV114 and catamaran INCAT96 to compare with between the released and estimated value about ship's weight. It was showed that the released value is much lighter in both of mono hull and catamaran than estimated one.
1. 研究の目的
船舶の高速化を実現するため、世界中において、高度な造船技術を結集することにより様々な研究開発が行われてきた。我が国においても、TSLを始めとして、各種の高速船開発が行われてきている。しかしながら、実用化されているものは、殆どが、外国のライセンスによるものであり、独自に開発されたものは、水中翼双胴船や半没水型双胴船等、いずれも小型で特殊な高速船であり、数隻に留まっている。一方、豪・欧州では、最近になって、従来存在しなかった通常型の大型高速船が、多数建造されており、我が国においても、豪州デザイン会社のライセンス建造例、更には、船自体の輸入が行われるケースも出てきている。その結果、大型高速船の建造例が皆無に等しい我が国との間には、高速船技術において大きな差が生じていると考えられ、将来、我が国においても大型高速船の需要が生じた場合、多くが外国技術で賄われることになり、高度な造船技術と言える高速船分野における我が国の開発・設計・建造技術力の空洞化を招く恐れもある。従って、高速船技術を支える人的資源等を維持し、その展開を図るには、豪・欧等のレベルに追いつき、追い越して、一般船におけるような国際的競争が可能な領域に達することが望まれ、このために必要なブレークスルー技術の検討を行う。
2. 研究の目標
我が国では、大型高速船の実績が殆ど無いため、豪・欧と比較し、その技術力において相当の開きがあるように思われ、技術の向上には、その差異を明らかにし、その上にブレークスルー技術を構築していくこととなる。そのためには、大型高速船の文献調査に加え、実船調査を行い、できるだけ広範囲の高速船データを収集する。適当な船を対象に試設計を行って実際の性能と比較し、軽量化技術・船型技術等、基本的なレベルを分析・評価する。即ち、代表的な単胴及び双胴型各1隻を対象に、要目、船級、基本配置、載荷条件、主機関出力を同じとして、一般配置、中央横断面図等の基本図を作成し、艤装品等を想定して、我が国の高速船技術による試設計を行う。これらの調査・分析結果を基に彼我の差について、規則、海象の関係等を含めた総合解析・評価を行い、更に、大型サーフェスプロペラ等の高効率推進装置及び乗り心地に関わる船型・船体運動制御装置の評価等を加えた総合的な高速艇技術について検討する。
3. 研究の内容
3.1 高速船技術資料の収集と分析・評価
3.1.1 高速船関係データ集
高速船技術の検討には、広範囲で詳細なデータの収集・評価が基本であり、文献に加え、殆どの大型高速船が就航している欧州において乗船調査を行った。また、将来の高速フェリー動向を見極めるため、在来型フェリーの要目も収集し、船型要素等を比較した。最も重要な「長さ排水量比」は、値が大きく、7〜9に分布していることが示された。その他、高速船に関連した船級規則等の比較・評価、ウォータージェット推進器についてもデータ収集を行った。
3.1.2 船型と推進性能の分析・評価
大型高速船は、速力の絶対値は高いが、単胴・双胴共全て半滑走領域にあり、船体抵抗に及ぼす滑走揚力の比率が低い。従って、船体抵抗は、模型試験データ等を基に排水量型船と基本的に同様の手法で推定できる。そこで、彼我の速力性能の差と船型との関係を検証するため、性能及び船体重量データが明確な船について、所要出力を推定し、公表値と比較した。
図3.1.2-1及び3.1.2-2に示すように、単胴船は勿論のこと、船型がユニークな双胴船についても、公表値と推定値は殆ど一致しており、この種大型高速船においては、推進性能は船型に依存せず、長さ排水量比、即ち要目が類似であれば、船体重量によって決まることが検証された。従って、彼我の性能差は、全て軽量化技術の差によるものと言える。
図3.1.2-1 単胴船型出力の公表値と推定値の比較
図3.1.2-2 双胴船型出力の公表値と推定値の比較
3.2 大型高速船の試設計による重量推定と評価
軽量化手法を検討するためには、まず、彼我の技術レベルの差を把握することが基本であり、基本データが公表されており、乗船調査も行ったイタリア製単胴船のTMV114、豪製最新最大の双胴船INC96m型を対象に、主要目、船級等、明らかになっている要目は同じとし、不明な艤装品等は想定して、一般配置図の復元、中央横断面図の作成等、試設計を行い船体重量を比較した。対象船の主要目を表3.2に示す。図3.2-1及び3.2-2に中央横断面図を示す。公表値は軽量であり、推定値は、両船型共、相当重い結果となった。この種の船では、載貨重量が軽荷重量の20%程度しかなく、我が国の現状レベルでは、同一条件で設計した場合、十分な載荷重量が確保できず、燃料費等の運行費が悪化する。即ち、現状レベルでは、通常の船舶が保持しているような国際競争力の確保は困難であり、将来、我が国においても大型高速船の需要が生じた場合においても、輸入される可能性が高い。従って、軽量化手法について検討を行う必要がある。
表3.2 主要目の比較
  |
TMV114 |
INCAT96 |
船体材料 |
高張力鋼/軽合金 |
全軽合金 |
全長x幅(m) |
113.45X16.5 |
96.0X26.0 |
載貨重量(t) |
547 |
800 |
最大搭載人員 |
729 |
755 |
車両搭載数 |
200 |
230 |
速力(ノット) |
40 |
38 |
主機関(kW) |
6,000X6基 |
7,080X4基 |
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図3.2-1 単胴船TMV114型中央横断面図
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図3.3-2 双胴船INCAT96m型中央横断面図
3.3 高速船の性能向上に関する検討
3.3.1 船体重量の軽量化
豪・欧実績と我国現状推定結果との重量差は大きく、軽荷重量の60%以上になる構造重量即ち構造設計の考え方に差があるとも思われる。例えば、就航海域は、波狼中と定義された外洋であるが、実際の海象が穏やかであれば、規則を斟酌して適用している可能性がある。従って、最も軽くなるケースとしてNV平水中規則(R5)による構造設計を行ってみた。96m型双胴船の場合、構造重量は、469.5tであり、波浪中規則(R1)による571.2tに比べ、100t以上も軽減した。実際には、この中間にあると考えられるが、このことは、規則の算式に拠らず航行海域の海象に適合した構造設計を行えば、相当の軽量化が可能であることが示している。
船体・機関・電気各艤装重量についても、簡潔で狭い操縦室、ウイング無しブリッジ等、我が国には無い合理的設計により、軽減されていると考えられ、今後の指針を得ることが出来た。
3.3.2 推進性能の向上
キャビテーション性能や配置の面より、大型高速船は、全てウォータージェット推進である。サーフェスプロペラは、大型船には採用できないとされてきたが、推進性能の向上を図るため、上記試設計対象船に対して大型サーフェスプロペラを試設計し、配置の検討等を行った。表3.3.2にに要目を示す。プロペラ効率は0.64〜0.65であり、ウォータージェット推進器と同等であるが、船体重量低減により、総合効率は、優位にある。
表3.3.2 大型サーフェスプロペラの要目
項目 |
TMV114 |
INCAT96 |
主機関/軸数 |
6機3軸
12,000kw/軸 |
4機2軸
4,160kw/軸 |
直径(mm) |
3,200 |
3,800 |
ピッチ(mm) |
3,680 |
4,020 |
ピッチ比 |
1,150 |
1.0579 |
展開面積比 |
0.85 |
0.90 |
翼数 |
5 |
5 |
3.4 気象・海象条件の調査
合理的な軽量構造設計を行うには、就航海域の気象・海象データが重要である。近年、風や波浪の数値モデルによる海上風と波浪の推算データベースが構築されており、任意の海域、日時のデータ抽出が可能である。そこで、全球波浪推算データにより、乗船調査を行った欧州フェリー航路及び日本沿岸海域の気象・海象条件を調査した。日本沿岸については、日本沿岸波浪推算データベースによる推算も行い、比較した。両者の差は小さく、全球波浪推算データベースでも十分な推定精度を有しており、設計波浪荷重として使用できる可能性を示した。
3.5 高速船の船体運動制御装置
乗り心地の面より、高速船技術の中で、耐航性の向上は極めて重要な課題である。Wave Piercing CatamaranやHSS1500のセミSWATH等、耐航性向上を狙った船型について調査すると共に、殆どの高速フェリーが装備している船体運動制御装置(ライドコントロールシステム)についても調査した。今後も一層の改良が続くものと考えられる。
4. 得られた成果と今後の課題
(1) 高速船に関する広範囲なデータ集を構築した。技術検討の方向付けに有用である。
(2) 推進性能は、単胴・双胴を問わず、船型に関係無く、主要目と船体重量に関係することを明らかにし、先行している豪・欧との性能差は、軽量化技術であることを示した。
(3) 乗船調査した114m型単胴船TMV114及び96m型双胴船INCAT96について、要目、船級等を同一とした試設計を行い公表重量と比較した。両船型共、推定値は、公表値より相当重たい結果となり、豪・欧との性能差は、船体重量差に起因していることが示された。
(4) 海象条件と規則、構造重量の関係等について検討した。海象条件に合った合理的な軽量構造とすれば、相当の軽量化の可能性があり、海象条件の推算が重要であるため、波浪推算データベースによる方法について調査し、実用に供し得る可能性を検証した。
(5) 大型サーフェスプロペラについての概略検討を行い、全推進効率では、ウォータージェットを凌駕しており、高効率推進装置として実用化の可能性があることを示した。
(6) 乗り心地と船型、船体運動制御装置について調査した。今後、一層の高速化により、制御装置の必要性は益々増加するものと思われ、我国においても、独自技術による運動制御装置の開発・実用化が望まれる。
(7) 豪・欧の軽量化は、多数の建造実績による習熟度によって実現しているものと考えられ、当面、多数の実船建造が期待できない我が国では、対象船を設定した具体的構造様式の検討、救命・防火用軽量材料の実験研究、軽量係船装置の開発等、各構成要素についての軽量化の推進が今後の課題である。