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5. 今後の展開
(1) SMSとの連携と具体的なACT
 今回は主にパッセージプラン、機関運転・保全プランの運用案を提示した。
 本研究では実際の運航経過に伴うデータの蓄積がないことから、現実的なACTの検討にいたることができなかったが、実績データの記録をシステム側で自動的に実施し、陸上FMSにて分析する例を示すことができた。FSSが実用的に稼動すると、これまでとは異なった、より定量的な分析を行うことができ、問題個所の特定が容易になると示唆された。
 今回の成果を踏まえると、陸上では複数船に対応するため、業務の半自動化、スケジューリング、パッセージプランの確認を要する船舶の特定などの機能が求められる。また、船上にあっては船舶単位での実績ではなく、個々の乗組員の業務履行状況と作業量とを計測する機能が求められる。このような機能は、船上、陸上各担当者に一つずつ割り当てられ、各員の業務を管理し、実行を促し、実施結果を記録する。
 このような機能によって集積された個人レベルの実施記録を分析することにより、業務の不履行、作業集中の有無などを確認することができ、業務計画(PLAN)の見直しをより具体的に実施できる。
 これら個人レベルの実績データの蓄積は、業務の見直しだけではなく、個人スキルの評価にも利用することができ、ひいては船員管理業務に対して有用な情報源となる。
(2) モニタリング機能とTSSへの展開
(i) 現場現況データの集約
 陸上にて各管理船からの現場現況データとして海潮流データ、気象海象データを集約するものとした。本研究では、この作業はFMS、すなわち船舶運航管理会社が行うものとしたが、これらのデータはサンプル数が多いほど信頼性が向上し有用となる。
 現場現況データの集約と状況の特定に関しては複数のFMSからアウトソースしたTSSの出現が望まれる。FMSは傘下の管理船から現況データを集約し、これらをTSSに転送する。TSSはこれらの現況データを吟味して海潮流の分布、気象海象の現状と今後を推定し、FMSにフィードバックする。
 現在のところこのようなTSSとしての機能を期待できる団体として、(財)日本水路協会、(財)日本気象協会、(株)ウェザーニューズなどがあげられる。
(ii) モニタリングとパッセージプランの検証
 海潮流分布と気象海象状況を提供するTSSの他にさらに、各船舶運航管理会社からの委託を受けて、モニタリングとパッセージプランの検証までを実施するTSSを考えることができる。
 このTSSは、船舶運航管理会社から、各船のパッセージプランを受け取り、船舶運航管理会社の変わりに上記(i)のTSSからの情報提供を受けながらモニタリング、パッセージプランの検証を行う。このTSSは委託元の船舶運航管理会社に対して定期的なレポートの他、緊急時の連絡などを行う。
(3) FSS Glossaryの整備
 FSSがSMS業務の実施を支援する際、船陸の連携、陸上各業務部門間の連携が生じる。また、前述したTSSなどが現れた場合には、これらTSSとの連携も生じる。
 これらの連携を円滑に実現するためには、いわゆるプロトコルと用語を規定する必要があるが、現在のところXMLによる定義が有用であると思われる。つまり、情報伝達の一経路につき一つのXML定義(DTD:Data Type Definision)を与えることにより、そこで流されるデータの構造(プロトコル)とデータの意味(用語)を規定する。
 FSSは海運業界内だけではなく、造船会社、舶用機器メーカ、情報提供サービス、船級協会、など海事社会に広く関係している。これら相互の連携において「共通言語」を持ちえることができれば、円滑なFSS運用と機能改善、新規参加を促すことになる。
 船陸、陸上部門間、対TSS,TSS間の情報伝達に対してXMLの定義を進め、FSS Grossaryとして整備、大系化してゆく必要がある
 航海関係システム、船体関係システムにて指摘された監視ロジックの分離・単体化にあたっては、システム内の他機能との連携はFSS Grossaryの中で規定される。
(4) 機関関係システムの実用化
 今回試行したライナ温度、筒内燃焼圧のデータ計測を標準機能として整備する。
 その他機関管理システムの未整備部分の開発を進める。
 システムとしての完成をみた後は、システムのハードを搭載する船舶(VLCCなど高付加価値船とその他船種のサンプル船)、ソフトウェアのみを搭載する船舶に分けて運用するPDCAスタイルを策定する。
(5) 機関運転状態の診断技術に関する開発
 主機関の燃焼状態をより的確に診断するためには、
[1] 実船データの蓄積と診断技術の開発
[2] 燃料噴射圧計測と燃焼状態診断への適用
[3] 主機関掃排気系の汚損診断と燃焼状態診断への適用、保全計画への反映
 などについて検討を進める必要がある。今後の研究開発課題として適当である。
 
 最後に、本研究の実施にあたりましては、日本財団より多大なご支援いただいたことに対し深く御礼を申し上げるとともに、終始積極的に研究に取り組んでいただいた委員各位に感謝する次第である。








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