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日本
 先ず、最初に造船産業の全般的状況と海事産業における国際協力についてお話したいと思います。舶用工業課長も出席しておりますので、その分野については舶用工業課長がお話いたします。先ず現在の造船政策と現状について申し上げますと、日本には大中手の造船事業者30社、中小造船事業者約100社があります。データや統計はすでに資料をお配りしましたので、ご参照下さい。
 造船設備につきましては、表I-1をご覧下さい。能力500総トン以上の建造設備は180基ありまして、うち100,000総トン以上の大型のものは11基です。また修繕船設備につきましては、修繕ドックは192基うち13基が能力100,000総トン以上の大型の設備です。
 次に造船労働力については、表I-2をご覧下さい。2000年4月1日現在、造船所本体の従業員と下請従業員を含めて約81,000名おります。これはピーク時の1974年と比較して30%の減少を示しています。ピーク時と比べて30%減です。
 次に需要についてお話いたします。これは2000年の受注状況です。約1,200万GTを受注し竣工量は約1,220万GT、また手持工事量は約1,700万GTで新規受注は前年度より約30%増加しました。
 次に表I-6をご覧下さい。これはロイド統計によるもので総トン・べースで新造船工事状況を示しています。2000年の日本の実績は受注量で1,347万総トンでシェアは29%、建造量では40%のシェアまた手持工事量のシェアは25%となっています。
 ここで日本の造船政策についてお話したいと思います。皆様よくご存知のように、1970年代に多数の船を建造しましたので、その代替時期が来ようとしています。特に米国経済が繁栄していた1990年代には、世界経済全体もきわめて好調でした。従って、過去20年間に大型外航船の建造は最高水準に達しました。しかし新規受注の数は減少するものと見られ特に新興造船国がわが国などに追いつき、また市場に提供される供給能力も増大に向かいます。そこで恐らく今後は需給ギャップが拡大し船価競争も激化するものと思われます。そこで、この状況に鑑み日本の国土交通省は昨年6月に造船業構造問題研究会を発足させました。この研究会は現状を分析し将来に向けての計画を策定することになっております。そして、国際市場において特に激しい競争にさらされている大手造船事業者に対しては何か有効な助言をしなければならないと、この研究会は考えております。この研究会とは別個に日本政府としては、国内の不況にさらされている中小造船事業者に対して措置を検討しております。日本経済はきわめて厳しい状況にあります。従って国内の中小企業対策を考えなければなりません。また技術革新も日本政府の政策のもう一つの大きな柱であります。
 そこで、先ほども申しましたように第1に大手造船事業者に対する施策があります。研究会は答申を出しましたが、それはコスト競争力を高め市場を拡大することが非常に重要であるという見地に立っております。この二つの目標を達成することは、きわめて難しい課題でありまして営業・生産両面でスケール・メリットを強化することが必要で、そのため事業の統合が奨励され昨年秋からそういう動きが始まっております。日本の大手造船事業者は、他社との合併も含め統合の可能性を検討しております。そしてわが省としましても、その実現、統合の努力を注視してまいりました。
 次に技術開発についてお話いたします。日本では大口の貨物を通常の2倍の速度で輸送する必要性が生じていまして、これはテクノスーパーライナー(TSL)によって実現されます。これを実現すれば経済効果が大きいばかりでなく災害救援などにも役立ちます。そこで我々としてはTSLが日本造船業に明るい未来を開くものと期待し恐らく今年末までには、TSLの保有管理会社が発足し、2004年以降にTSLが実際に就航することになると思います。
 次は中小造船業対策であります。日本政府としては直接助成を行うことは大変難しいのですが、中小企業の活性化を支援するための法律がありますので企業活性化支援法制の一環として造船を援助することもできます。非常に重要なことは新規需要を開発することで、そこで官公庁船の建造促進という方策があります。また中小企業は経営基盤が非常に弱いので雇用の安定を確保し、そのために従業員の教育訓練に力を入れるよう奨励しなければなりません。
 日本政府の政策にはもう一つ大きな柱があります。それは世界の他の造船国との国際協調であります。共通の目標を追求できるように、特にOECDを通じて他の造船国との共通の問題を討議することができるような多角的な場を持つことができます。そして最近では環境問題に関する人々の意識が、ますます高まってきましたので造船業でも船舶から生成される汚染物質について懸念を抱いております。そこで、将来における汚染防止のため今年から将来の世代のためにスーパーエコシップすなわち環境にやさしい船の建造に取り掛かりました。造船業については以上です。
 ここで日本の船舶解撤業について簡単にお話したいと思います。日本の船舶解撤業は、非常に古い歴史のある産業です。当初は80年程前にサルベージ業として発足し、1950年代から60年代にかけて一時は活発な活動を行っていました。しかし事業環境の悪化により企業数は減少し現在では、船舶解撤事業者十数社が解撤を実施しているに過ぎません。船舶の安全航行を考えると老朽船を次々と解撤し、技術的に進んだ船舶に代替する必要があります。そこで解撤業が重要になってきます。最近では、解撤の重要性が広く認識されるようになり1978年に当時の運輸省は船舶解撤事業促進協会を設立し、船舶解撤促進助成基金を設けました。政府はこの基金から船舶解撤事業に対し助成金を交付しております。
 最後になりましたが、造船における国際協力について簡単にお話したいと思います。第3章をご覧下さい。日本は国際協力事業団(JICA)を通じて無償資金協力や技術協力を実施しております。JICAは窓口機関です。日本政府は、また有償資金協力も行っています。借款の方は国際協力銀行(JBIC)が扱っています。この銀行は以前には海外経済協力基金(OECF)という名称の機関でした。現在ではJBICという名称で、フェリー、内航貨物船等の船舶について無償供与を実施しています。フェリーの需要や修繕・新造用造船所建設の需要が高い国を対象に無償供与の他、借款も供与しています。さらに詳細については、お配りした資料に添付されたデータをご参照下さい。
 また、開発調査の実施、技術指導のための専門家派遣や研修員の受入れ等も実施しています。研修員の受入れについては、JICAが窓口になっていますが、造船関係分野の受入先としては、海外造船協力センター(OSSC)という専門機関があります。研修やコンサルタント業務を行っている機関です。
 以上、造船業について全般的な状況を、かいつまんでお話申し上げました。ここで舶用工業について田中舶用工業課長から説明いたします。11ぺージ以降の、日本の舶用工業についての記述をご覧下さい。また16ぺージもご覧下さい。先ず、このグラフ特に白いバーについてご説明したいと思います。図II-1は生産額を示しておりますが、2000年の生産額は7,220億円でした。このグレーのバーは輸出額を示し1,950億円、黒いバーは輸入額で250億円となっています。図II-1です。この数年間に生産量の著しい落ち込みが見られます。次のぺージの図II-2「舶用工業製品の生産額シェア」をご覧下さい。一番下に各年の事業所数が載っています。現在、約700の工場があり30,000人強の従業員がそこで働いています。それからこの状況をご覧下さい。輸出総額は1,950億円です。それからこの地図、図II-3は、アジア・中東市場経の輸出額が711億円と、かなり大きいことを示しています。
 前のぺージに戻って下さい。業界の状況についてご説明しますとグラフでお示ししましたように価額べースでの生産額はここ数年かなり落ち込みましたので、各企業とも体力が弱っております。それと同時に、未来に向けての投資意欲も減退しています。また労働者の高年齢化も進んでいます。ですから、日本の舶用工業が弱体化していることを認めざるを得ません。この観点から、日本政府は各種の支援策を講じております。その第1として舶用工業を活性化するために産業基盤の整備を図っています。政府はこれが生産関連作業の効率化にきわめて重要と考えておりまして生産方法のモジュール化あるいは標準化によりその実現を目指しています。
 その他にも施策を講じております。情報技術の導入や研究開発の活性化も、舶用工業整備を目指した、政府の施策の重要な側面であります。
韓国
 私は韓国造船工業会のSeok Joo Chungと申します。韓国政府に代って、造船産業についてお話する機会を得まして、大変嬉しく存じます。
 カントリーぺーパーの内容に入る前に、国内事情から韓国政府の職員が欠席していることをお断りしておきたいと思います。
 では韓国造船産業について、簡単にご説明申し上げます。本日の私のプレゼンテーションは基本的に3部に分かれております。最初に、わが国の造船産業の概略をご説明いたします。次に韓国の舶用工業について簡単にお話いたします。最後は、現在の造船問題をめぐる紛争についての部分でありますが、しかしぺーパーのこの造船紛争に関する部分は読み上げません。従って、皆様にお配りした資料をお読み頂きたいと思います。
造船産業
(序論)
 2000年末現在、韓国内で操業中の造船企業の数は中小企業も含めて約61社に上ります。うち9社が現在、韓国造船工業協会(KSA)に加盟しておりますが、このKSA会員企業だけで韓国の総建造量の95%を超えるシェアを占めています。これ以外の10,000 DWT未満の船舶を建造する能力をそなえた小型造船所は韓国造船工業協同組合に属しております。
 続いて、次の部、新造船関係データに進みたいと思います。第2表をご覧下さい。
 KSAが発表した統計によりますと6月末現在で韓国の大手造船所が確保した本年の新規受注量は約420万CGT、前年同期の660万CGTに対して36.9%の減少を示しています。
 次に、船種別の内訳を見ますとタンカーが2,545,000 CGTで全体の60.9%を占め、以下、コンテナ船が1,474,000 CGT,35.3%、撒積船が320,000 CGT,0.8%となっています。
 竣工量については第3表をご覧下さい。
 生産性の向上と十分な工事量の確保により、2001年前半の竣工量は340万CGTと2000年同期に比べて4.5%の増加を示しています。
 そして船種別の内訳では、タンカーが1,212,000 CGTで全体の35.5%を占め以下、撒積船が540,000 CGT,15.8%、コンテナ船が1,196,000 CGT,35.0%、その他はわずかで8,000CGT,0.2%となっています。
 さらに遅れることがないように工事量についてお話しましょう。第4表と次のグラフに示されています。
 本年6月末の手持工事量は1,700万CGT,2000年6月末の1,570万CGTに対して8.1%増となっっています。これは2年分以上の工事量に相当する量です。
 次に6月末現在、いや2000年末現在における韓国内の造船業の雇用について触れたいと思います。2000年末現在、KSA会員企業だけで造船部門の従業員総数は54,500名に上っています。次の第5表と第2図をご覧下さい。これらの図表では、ホワイト・カラーには技術職と事務職が含まれブルー・カラーとは工員のことです。
 続いて舶用工業についてご説明いたします。2000年末現在、韓国では韓国舶用機器工業会会員べースで総計171社の舶用機器メーカーが操業中で総雇用人員は約60,800名に上っています。韓国の舶用機器メーカーは機関、艤装品、甲板機械、電気・電子機器など多様な製品を生産しております。韓国で製造された舶用機器の総価額は、1999年には約23億米ドルに上りました。
 第6表をご覧下さい。
 前にも申し上げましたように、韓国とEUの間で現在進行中の造船紛争に関する部分は読み上げません。どうぞ資料をお読みください。
マレイシア
 本題に入ります前に日本政府及び国土交通省並びに日本中小型造船工業会また、この第25回アジア太平洋造船専門家会議の事務局の皆様にマレイシアとして感謝の意を表明させて頂きます。
 私はマレイシア造船工業会の財務担当理事を務めまたロイズ船級協会にも属しております。ロイズではカントリー・マネジャーを務めております。
 では、マレイシア造船業に関する本日のプレゼンテーションに入ります。造船はわが国が先進国の仲間入りをするための戦略産業であります。わが国には2020年に向けてのビジョンがあります。政府は、近年の経済不振にもかかわらず2020年までに工業国、先進国の仲間入りするという目標を今なお維持しております。
 過去20年間にマレイシア籍の船舶は、1982年の約400隻から99年には3,000隻強と飛躍的に増加しました。2000年にはこのデータにあまり変化がなかったので敢えて数値を更新していません。最近の経済不振により、マレイシア海運の発展のぺースは若干鈍化しています。
 主な船種は撒積船、油送船、ガス運搬船、コンテナ船、一般貨物船などであります。今日、マレイシアの海運会社であるMalaysian International Shipping Corporationが世界最大のキャリアーとなりまして我々は大変喜んでおります。
 マレイシアにおける船腹需要は、基本的には老齢船の解撤による代替需要、一般的な貿易の伸び貿易パターンの変化、防衛関連の需要、主として石油・ガス産業の海洋開発関連の支援サービスなどが要因となっています。ただ今申し上げたうち最初の3要因に対応するための造船活動は、国内造船能力の制約から国外に依存する傾向が強くなっています。しかし防衛関連と海洋開発支援サービス関連の対応では、マレイシア国内の造船業が役割を果たしています。防衛関連は主として巡視艇、巡視船などで、これらは国内で建造されています。海洋開発支援サービス関連は補給船、タグ、母船、調査船などが需要の対象になっています。
 マレイシア国内の造船所で、5,000トン級より大型の船舶を建造可能な大規模造船所は3ヵ所しかありません。しかし政府登録べースでは、これは財務省の管轄ですが能力600トン以上をA級と区分していて、このA級に属する造船所は6ヵ所あります。400から600トンのクラスもやはり6ヵ所、200から400トンの造船所は14あります。すなわち造船活動の大部分は、200から400トン級の造船所に集中しているということになります。因みに、マレイシア造船業では、わが国で在来型船腹と呼んでいる499総トン以下の船舶の比重が高くなっています。これらを合計して、わが国には39の造船所があります。
 マレイシア造船業の能力についてですが、先ほども申し上げましたように、能力は限られています。造船業の成長を妨げるもう一つの要因は、造船所間の調整あるいは集約が欠けている点であります。例えば午前中のお話で、中国の造船所について興味深い事実を伺いました。中国では協業が進んでいるようです。これは一面で造船所の市場競争力を強化することになるでしょう。わが国の造船所は一般に国内指向で、輸出指向があまり強くありません。マレイシア造船の輸出市場はある程度まで東南アジア地域に、それも実際にはシンガポールだけに限定されています。
 次に運賃ですが現状では運賃が非常に低迷しています。これはある程度、船主の船隊増強意欲を弱めるもので、すなわち新造船活動を停滞させる要因です。
 人件費も考慮すべき要因です。造船は労働集約的産業で、労働者は重労働を強いられます。マレイシアでは、好調な製造業部門でも、かなりの数が電子産業に転換しています。電子産業では労働環境は空調完備など、きわめて良好です。労働者は一般に良好な環境を好みます。ですから質の高い労働力の確保がわが国の問題です。
 わが国の造船所を制約している大きな要因は戦略の問題です。明確な戦略というものがありません。基本的に言えば、何か特定の船種に特化するというのでなく市場で受注できる船なら何でも造るというに過ぎません。
 マーケティングについては、今も申し上げましたようにマレイシア造船業の市場を絞り込むために造船所の集約がわが国の課題です。
 人員の訓練が目下の大問題で、恐らく他にも同じ問題を抱えておられる国がいくつもあるのではないかと思います。先ほども申し上げましたように労働者は空調完備の環境で働くことを好むので、人員を訓練しようとしても造船所という環境では一般に定着率がよくありません。他の、もっとすぐれた労働環境に移ってしまいます。
 次に資機材調達についてですがマレイシアにおけるバックアップ活動、主として機器の調達ですが、この面が後れています。機器は他国からの輸入に依存しています。ここで本当に問題になるのが為替の変動です。これは自力ではどうにもならないもので、造船業の成長は他国から調達する物資に大きく左右されてしまいます。
 効率面について申し上げますと、国内の各造船所は効率増進を目指しておりまして、嬉しいことに主要造船所の大半が国際的に認められた品質管理制度、ISO 9001あるいは2の実施に向けて努力しております。これはある程度まで、造船所の効率改善にも役立っています。かなりの数の造船所がすでにISO 9000の認定を取得しました。先ほど申し上げたA級造船所のうち少なくとも3造船所はISO 9000認定を受けています。
 もう一つ触れておきたい領域がありますが、それはマレイシアの各造船所あるいは業界全体の設計能力です。わが国の設計能力はかなり制約されていまして、それは一面ではリピート受注が不足しているためです。受注は特定の設計1件だけに限定される場合が多く、その船を造ってしまえば、それで終りです。ですから設計技術者にしてみれば自分たちの仕事をもっと伸ばそうとするインセンティブが大してありません。そしてもちろん、マレイシアでは船舶設計という仕事自体が新しい分野です。経験を積んだ専門家が不足しているためにバックアップのサポートもありません。そのため、間接費も高くなります。設計技師を抱えて行くことは高くつくものですから。
 ここで関連工業について見てみましょう。造船活動の影響で嬉しいことに、マレイシア国内に工場を持っている国内塗料メーカーが多角化を進めて舶用塗料も生産するようになってきました。著名な塗料メーカー3社が国内に舶用塗料生産設備を開設しましたが、うち1社は実は日本の中国塗料で同社の進出は関連工業を分化させる刺激になりました。
 その他に調度品や艤装品の生産という部門もあります。
 救命器具、絶縁材、溶接用電極、小型の鋳造プロペラ、推進軸などが生産されています。
 そして最近、マレイシアの海事産業に役立っているのがエネルギー源ガス用の箱型断熱タンクです。この箱型断熱タンクでは、日本の造船企業2社、三菱と三井と提携して生産しています。箱型タンク本体をマレイシアで生産し、それを日本に輸出というか発送して艤装工事が行われます。
 政府の支援という面では、海運業に対する政府の支援は非常に積極的です。政府の工事の発注ではすべて国内造船所が優先されます。工事はすべての造船所に公平に配分されます。
 国内船主を対象とした船舶基金について申し上げますと政府はごく最近、10億リンギットの追加拠出を発表しました。造船所は現在、政府が主催する海外視察団に参加するよう奨励されています。これは新しい試みです。以前には海運ばかりが支援され、造船は無視されていました。これは非常にプラスになることです。造船事業者はさらに、2億6,000万米ドルのリボルビング基金を利用することもできます。先ほど10億リンギットの海運基金について触れましたが従来は、この基金は全面的に船主が利用できるようになっていました。それが今年の9月以降、この基金は造船所運営のための運転資金として造船所も利用できるようになりました。海運基金からの借入は、事業活動を刺激するために無利子とされ船主は船価の75%まで融資を受けることができます。ただ、この基金を利用できる会社はマレイシア法人でなければならないという条件があります。株式を公開している企業の場合は、株式の70%をマレイシア国民または企業が保有し、残りの20%を外国人または外国企業が保有を認められています。
 最後に一つ付言したいと思いますが海運、さらに言えば造船はマレイシアにとって死活的に重要な産業で、その市場は非常に多岐にわたるものであります。研究開発は是非推進しなければならない分野です。人員を配置し訓練した以上、造船産業の労働力を維持しなければなりません。これは常に留意していなければならない問題です。どこの国でもそうでしょうが海運は他の関連工業の発展をもたらします。ですから造船についても、造船だけに注目するのでなく、他の関連事業にも注目しなければなりません。政府が海運、造船の繁栄のために財政援助を続けてくれることを期待しています。
 ご静聴ありがとうございました。
フィリピン
 日本政府、特に国土交通省の皆様に厚くお礼を申し上げます。
 私はProceso Maligaligと申しまして退役海軍大佐、現在はBataan Shipyard and Engineering Companyの社長を務めております。本日はフィリピン造船工業会のManualSandoval氏さらにフィリピン海運を監督する政府機関を代理して、このぺーパーを読み上げさせて頂きます。
 私のプレゼンテーションは、概略次のような内容で進めたいと思います。先ずフィリピンの修繕船・新造船業界の背景を概観し、その後で業界のプロフィルをご紹介します。次いで造船業に対する政府の政策と計画をご説明し、また造船の民間部門についてお話いたします。最後に、フィリピンの修繕船・新造船業界の今後の見通しと予測について述べます。
 背景の概観として、先ずフィリピンは地域の他の大抵の国と同様、島国でありまして、そのため経済の大きな柱として海上輸送に大きく依存しております。フィリピンでは貨物輸送、旅客輸送とも、その大きな部分が列島全体にわたって海路を利用しております。そういう国情でありますから修繕船、新造船とも膨大な需要があります。ただし、フィリピンでは島嶼間の航路、外航航路とも使用船腹の大半は中古船を購入していることを指摘しておかなければなりません。新造船として購入する船舶では、非常に小型の漁船が大きな比重を占めております。そういうわけで、島嶼間航路に就航する船腹が増大するとともに修繕船需要も増大するものと一般に見込まれています。同様に、他の諸国におけると同様、1997年から今日までの一般経済情勢により新造船・修繕船ともに厳しい状況に置かれました。これまた他国でも見られることですが、公共・民間両部門間の調整が時に齟齬をきたすこと近代的なインフラ、機械、時には技術ですら、アクセスが不可能なことなど当業界を悩ませる諸問題を経験しております。またマレイシアと同様、熟練労働力が他の部門に流出してしまいます。国内での移動というよりも、おそらく世界の他の地域に流出してしまうのでしょう。
 では業界の現在のプロフィルはどうなっているのでしょうか。新造船・修繕船設備の数は、フィリピンのぺーパーの1ぺージ、第1図でご覧頂けます。国全体では341という非常に多数の新造船・修繕船企業がありまして、これが地理的にはルソン島に142社、43%、ビサヤ諸島に131社、38%、ミンダナオ島に67社、20%という風に分布しております。繰り返しますが、341というのはたしかに大きな数です。しかしこれは公式数値で他の多くの国でもそうでしょうが、これらの企業の多くは設備というほどの設備もない零細企業でありまして、そういう零細な修繕船施設は先進国でいう意味での立派な設備には程遠いものです。
 設備能力について申しますと、このうち111ヵ所、34%がshipyardとして分類されています。これは新造船、修繕船、その他の入渠工事が可能な設備という意味であります。うち本当に大型のものは11に過ぎず、16が中型、73は小型の設備であります。小型といいますのは小型漁船のみを建造するヤードと専ら修繕船に特化している11のヤードであります。うち141ヵ所、41%は実際に物理的設備を持たない修繕設備であることにご留意下さい。これは請負方式で修繕船工事を行うフィリピン独特の企業体であります。さらに、先ほど申しましたように主として漁船と小型艇の建造に特化している造船事業者が88社あります。これら大小のヤードすべてを合算して新造船能力は130万重量トンほどと見られます。
 次に設備のプロフィルはどんなものでしょうか。先ほど挙げました企業体総数のうち、slipwayを保有しているものが117社、shipbuilding wayを保有しているものは僅か32社で、また実際に新造・修繕船台を保有しているものは52社、1aunching padを保有しているものが37社であります。主要な設備能力について見れば、graving dockは7基、浮ドックは10基、liftdockは2基に過ぎません。
 労働力のプロフィルについては、最新の報告時点で、新造船・修繕船産業が雇用している従業員は合計38,662(38,667?)名で、幸いなことに熟練工の数は、その82%に相当する32,707(31,707?)に及びます。技術職は全体の6%、2,000名強、驚くべきことに事務職、管理職を合わせると技術職よりも多く7%を占めています。残りの5%は未熟練工です。
 建造量を見ますと前回の報告時点で、あるいは1997年から前回の報告までに、わが国の業界は479隻の船艇を建造しました。うち396隻は、また強調いたしますが小型漁船です。比率にして83%です。その他では7%が旅客フェリー、2%が島嶼間航路用のタンカーやバージ、残りの7%は撒積船、その他です。
 幸いにして、この報告期間の最終局面にかけて23,000DWT以上の船舶9隻が建造されました。建造はフィリピン国内ですが輸出市場向けです。これを建造したのは合弁会社のTsuneishi Heavy Industries of Cebuです。同社はこの9隻以外にも、今年以降の納期で同型の撒積船6隻を受注しています。他にも国内の大手造船所が高速艇5隻を建造し、さらに今後2年間の納期で5隻を受注しています。
 修繕船の工事量については、合計隻数が986、うち869隻、88%が国内船隊、島嶼間航路用船舶やバージ等で117隻、12%がフィリピンに寄港した外国船でした。すなわち前期の修繕隻数は986でした。
 ところで、業界すなわち新造船と修繕船に関する政府の政策がどうなっているかといいますとフィリピン政府海事産業局、略称MARINAが海事産業の創設、発展の責任を負っています。MARINAの政策環境について特筆すべきことは、最近、マレイシアと同じようにフィリピン籍船はMARINAの免許を受けたヤードでしか修繕を受けられないように定められたことであります。これは登録だけの問題でありまして所有関係は問題になりません。すなわち合弁企業であれ外国企業であれ、MARINAに登録された企業でさえあれば国内向け輸出向けにフィリピン国内で修繕船・新造船事業が認められるということであります。MARINAについてもう一つ特筆すべきことは、フィリピンを東アジァにおける信頼し得る新造船・修繕船センターに変貌させようとする中期国家発展計画に基づいて策定された戦略であります。この戦略の注目すべき点は先ず、政府がイニシアティブを取って、新造船・修繕船事業の成長と持続的発展を図るための政策を公布、あるいは立法措置を講じるというところにあります。すなわち、インセンティブの供与などの措置が行政レベルで策定されるということであります。立法府でも、立法措置を求める請願が出ていることを我々は承知していますが、同じような構想が推進されています。すなわち国内投資家であれ外国人投資家であれ新造船・修繕船事業に投資する者にはインセンティブを提供するという構想であります。
 第2に、市場の要請と自国の海事産業の現在から将来にわたるサービス需要に応えるため海事産業団地の開発を促進することであります。これは恐らく、諸外国におけるクラスター戦略のようなものを導入すべき時期が来たという発想によるものでしょう。一つの地区に新造船・修繕船事業を支援する施設を集中すれば、相互補完的効果が上がるという発想です。
 第3の戦略は、有利な政策環境を整備して外国投資家とフィリピン国内造船所との合弁事業を奨励することであります。これについては、後ほど詳しくお話します。要するにインセンティブの制度と協力の制度です。
 第4に、すでに触れましたが業界のために総合的なインセンティブを提供することであります。
 第5に、投融資に有利な環境整備を促進することであります。
 海事産業事態の枠組みを越えて、金融とか規制とか環境問題とか対応すべきいくつかの政策課題があります。これについても好ましい方向に対応が進められています。
 次に、関連工業など支援産業の発展を図ることであります。どこの国でもそうでしょうが、わが国では造船と関連工業との下流あるいは上流指向の統合を図っています。つまり必然的に新造船・修繕船に必要な資機材、例えば鋼板等を供給する基幹産業、下流側では一定の支援サービス、例えばマレイシアの報告にありましたように鋳物の製造ですとか、その他、新造船・修繕船に必要とされる品目を供給するサービスを求めています。
 さらに、研究開発の振興も図っています。これは概して、すでにその成果が上がっている国からの協力に頼ることになるでしょう。
 そして最後に、総合的マーケティング・プログラムと情報キャンペーンネットワークを確立する、すなわち地域内外に顧客層を確保することであります。MARINAの活動の一部は投資委員会と通商産業省にも支援されていまして、これは私がすでに強調した二つの主要な側面に該当いたします。すなわち、第1に新造船・修繕船事業に参入しようとする企業にインセンティブを与えることであります。これは、優先投資計画と呼ばれるフィリピンの中核的戦略の一環でもありまして修繕船、新造船などへの産業投資を対象に、適格な投資には税制上の優遇措置や関税免除などを与え投資を誘致しフィリピン国内での操業を認めようというのが、その趣旨であります。
 もちろん、政府以外でも国内の民間部門が、新造船・修繕船に関する戦略の開発と支援に積極的に取り組んでいます。第1にSandoval氏が率いる団体、フィリピン造船工業会があります。これは国内造船事業者間の協力の場、また私共がこの会議に出席するなどの他国との国際的ネットワーキングの場を提供する団体であります。私共がこの会議に出席して、いろいろな関係を確立し協力、技術援助、さらには投資についても今後の見通しを得ようとするのは、こういう観点からであります。
 もう一つ、フィリピン造船工業会が大きく依存している民間団体としてフィリピン造船技師・舶用機関技師協会があります。この団体は、安全性、設計、海洋環境保護に関する基準の策定について調査、研究を行ってフィリピンの新造船・修繕船産業の近代化に資することを、その目的としています。
 民間部門の第3の団体は、フィリピン船級協会であります。
 では、フィリピンの新造船・修繕船産業の今後の見通しはどうでしょうか。域内のどの国でもそうですが、1997年の経済危機の後で、新造船、あるいは船腹そして修繕船、いずれの需要も高まっております。幸いにして、この数年間これらの事業に対する需要は拡大しています。そしてフィリピンでは、自国船隊の近代化と拡張ばかりでなく今後数年間に増大が見込まれる解撤の需要にも注目しております。これは、先ほど申しましたようにフィリピンの船腹には中古船として購入された船舶が多いことから、そして島嶼間航路および国際航路向けの船隊近代化が進むとともに解撤も重要性を増してきます。同様に、海事工業団地の計画も進められています。現在、公共部門すなわち政府及び民間部門ともにフィリピンの新造船・修繕船環境に目を向ける合弁事業のパートナー、投資家、参入企業を求めています。
 結びとしまして私共フィリピン新造船・修繕船業界関係者は、諸条件の改善を期待して明るい将来を見込んでおります。この会議を通じまして、他の諸国の造船工業会とのネットワークを作りたいと望んでおりまして、またこの協力の環境、特に日本、中華人民共和国、韓国、シンガポール、マレイシアなど先進諸国との関係を通じて技術援助、投資へのアクセスそして全般的には、アジアの新造船・修繕船産業がともに将来に向けて前進できるような環境の成立を期待しております。








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