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しかし、現在の海食崖は全部コンクリートブロックで守ってありますから、侵食はほとんどとまっています。これは何故か? 屏風ヶ浦の台地の上に煙突が見えますが、あれはゴミ焼却場です。侵食対策をしなければ、遅かれ早かれあの焼却場は崩れ落ちてしまいますから、公共物を守るためという理由で、海食崖の後退を徹底的に防いでいるわけです。ですから根本的に九十九里浜の砂が増えるということはあり得ません。

 

つまり、ここ屏風ヶ浦は、崖の侵食を防ぐためにコンクリート護岸で守る、九十九里浜のほうは砂が足りなくて侵食が進むからコンクリート護岸を造る、その途中にある漁港は不必要に砂が堆積するから防波堤を沖へ伸ばす、といった具合に、それぞれのバランスがうまく取れていないために、結果的にコンクリートの人工海岸ばかりが増える、といった構図になっています。

質問があれば、どうぞ。

 

【質問】 飯岡漁港前の砂浜は、まだ延びる可能性があるんですか?

 

【宇多】 延びる可能性はあると思います。

 

【質問】 屏風ヶ浦の侵食がとまったのにですか?

 

【宇多】 厳密にはコンクリート護岸が切れている部分で侵食が進んでいますし、また消波堤が透過性なので崖からの崩落部分はゆっくり運び去られているからです。

 

【質問】 そこから土砂が流れてくるんですね?

 

【宇多】 はい、流れてきます。

 

【質問】 ああやって砂が溜まっていくことは予想外のことなんですか?

 

【宇多】 いや、予想どおりです。だから、そこが最も難しいところです。では何故放っておくのかという疑問が湧くと思いますが、それは、今までの日本の行政の考え方が、自然に対して真っ向から挑むような策だったからです。溜まった砂は自然に溜まったのだから仕方ないので浚渫し、取り除いた砂は下流側に流せばいいという、自然に逆らわないやり方が日本ではなかなかコンセンサスを得られなかったんです。このような維持浚渫というものは、形として物ができない「賽の河原の石積み作業」のようなものですから、そういうことはムダ金遣いであって、むしろそれよりも、防波堤をガチッと造ってやれば50年は持ちますから、そういうもので対応しなさいと、国はやって来たわけです。

 

【質問】 海外では?

 

【宇多】 自然に逆らわない形で盛んにやっています。

ただ海外でも最近はお金が続かなくなって来て、「延々やり続けることは果たしていいのか」という疑問があ上がっている場所も随分とあります。ただ日本の場合は、自然に真っ向から挑んでしまって、数千年オーダーの地球レベルの地形学的な原理を理解しない傾向があります。

 

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1970年(昭和45年)頃の屏風ヶ浦と飯岡漁港

 

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現在の姿。漁港が大きく沖合へ拡張されている。

飯岡漁港の防波堤先端に白波が発生しているのが見える。これはこの場所の水深が浅いことを意味し、船の航行に障害となることは必至である。

海面の黒い帯は沿岸流に乗って流れる漂砂の帯で、上空から見ると防波堤が港を漂砂から守る役割を担っていることが把握しやすい。

 

 

 

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