専門は地球流体力学、気象学(理学博士)。さまざまな室内実験を用いて、地球の流体現象を可視化する。「誰にでもわかりやすく楽しめること」がモットー。著書に『流れの科学』ほか学術書から児童書まで多数。日本流体力学会技術賞受賞。
「海、川、水」は私たちにとって身近で、生きる上で欠くことのできない重要な存在です。しかしながら、「危険だから」という大人の一言で、海、川で遊ぶ子どもが少なくなり、水道の蛇口をひねれば容易に得られる水は、当たり前のものとして認識され、学校教育等で省略される傾向にあります。子どもたちが触れ、知る機会の少なくなった海、川、水について、子どもたちの豊かな発想で観察、体験する機会をどのようにしてつくっていけばいいのでしょうか。
2002年4月より、小・中学校の教育課程に「総合的な学習の時間」が新設されます。日本財団では、「海、川、水」について子どもたちが学び、親しむ機会を創出するヒントを提供するため、小・中学校の教諭、博物館の学芸員を対象に、8月31目に船の科学館(東京都)でオープンエンド型のセミナーを開催しました。先月号に引き続き今月号では、木村龍治氏による研究発表の内容を報告します。
このセミナーの主題である自然の営みは、ゲームに似ているような気がします。ゲームには、いろいろな種類があります。スポーツのゲーム、トランプのゲーム、コンピューターを使ったゲーム、囲碁・将棋など、内容は千差万別ですが、どれも「ゲーム」と呼ばれるからには、共通点があるはずです。それは何でしょうか。(1)ルールがあること、(2)始まりと終わりがあること、(3)ルールにしたがって局面が展開することです。
一般に、面白いゲームほど先が読めません。意外なゲーム展開になる要素があるのです。それがあるからこそ、ゲームが面白いのです。自然の営みも、(1)自然の法則というルールがあります。(2)宇宙の始まりから自然の営みがスタートして、いつかは地球が消滅します。(3)宇宙の始まりから、さまざまな局面の変化があります。そこがゲームに似ていると思うのです。
西田先生(1月号参照)は、植物が陸地に進出してくるお話をされましたが、それは自然界のゲーム展開の姿と考えることができます。また、最後にスポンジを使った実験をされましたが、それは乾いたスポンジには水がしみこみにくいという、自然のルールを示されたものと考えることができます。実験的な方法は、歴史=ゲーム展開よりは、ルールに関係したものが多いと思います。私の話の主題は「地球の渦」ですが、この話はもっぱら、ルール=自然の法則に関係しています。
大きすぎる自然
海、川、水の中で、川幅は目で見てわかりますが、上流から下流まで一望に見るというわけにはいきません。海は、海岸にいけば見えますが、見える範囲はごく限られています。また、もちろん海中は見えません。海の上にある大気も身近な自然ではありますが、大気全体を見るというわけにはいきません。
一般に、自然のスケールは大きすぎて、地上にいては全体を見ることは不可能です。逆にいえば、私たちは海や大気に比べたら非常に小さいのです。
まだ記憶に新しいと思いますが、長崎の漁船の船長さんが、エンジンの故障から太平洋を1か月も漂流して8月末に救助されたというニュースが報道されました。