光合成がありますから。ところが、植物が体をつくっていく過程で足らないものがまだたくさんあります。例えば、窒素は、光合成では取り入れることができません。海の中の栄養、水に溶けているものを使わなければなりません。窒素がなければタンパク質ができないわけですから、これは絶対まずいわけです。それから、リンはDNA、遺伝子の材料になっていますし、その他いろいろな物質に使われています。鉄は、呼吸や光合成のときに使われるエネルギーをとるための酵素に使われます。
そういう生物の体の基本的な働きにかかわる元素が、実は海の中に非常に足らないわけです。それを補っているのが陸であるということは、このころからはっきりしてきます。逆に、陸の植物ができることで、そういう元素がどんどん供給される。それにしたがって、海の中も大型の脊椎動物などが誕生できるような豊かさを持ってきます。
さて、海が豊かになったので、今度は陸に上がりましょうというわけで、脊椎動物も陸に上がったのがデボン紀の終わりごろ、3億7000万年前です。このころに陸上では森ができています。森ができることは、それだけ陸上での生産量が上がるということですし、土壌も立派なものができるということにつながります。さらに、空間ができることで、陸にすむ生物のすみかが増えるわけです。昆虫は、空間を移動するなら飛んだほうがいいだろうということで、羽を持つようになっただろうといわれています。陸上の豊かさが、森林ができることで深まったわけです。
最初のころの森林をつくってきた植物の1つとして、アルカエオプテリスという傘のような格好をした植物があります(図9)。この植物は専門用語では「前裸子植物」といいます。遠目には針葉樹みたいな形をしていますが、実はシダと同じで、胞子で増える植物なんです。針葉樹はもちろん種で増えますが、まだこのころの植物のほとんどは、種はつくれず、こういう胞子で増える木があったわけです。
その後、陸上が多様化することで、おそらく海もどんどん豊かになってきたと考えられています。中生代の白亜紀になりますと、さらに豊かな海がつくられたわけです。
図:9最初に森をつくった植物の1つ、デボン紀のアルカエオプテリスArchaeopteris。
木の吸水力
さて、森の話が出ましたが、ここで木の吸水力について考えてみましょう。木は一体どのぐらい水を上まで上げるのでしょう。一番大きな木としては、140メートルにもなる木が記録として残っています。そこで、人間が水をどこまで吸い上げられるのかという実験をやってみました。学校でこういう実験をやりますと、水を上げるのは大変なんだということが体験できますし、楽しめると思います。
中央大学の構内で、ボート部の体力のありそうな男子学生を使って、ビニール管で水を吸わせました。10メートル以上もある長い管を建物の上から垂らして、下にペットボトルなどに適当な、コーヒーなり何か色のついたものを入れて吸わせます。4階の窓ぐらいから垂らすと10メートルほどになりますので、そのあたりから吸わせてみます。
今回はジュースを使ったので、黄色い液体が上がっているのがわかります。(編集部注:会場では、実験の模様を撮影したビデオが流れた)今、4メートルのところをずっと上がっていきます。街路樹として植えられている木はだいたい4〜5メートルの高さですね。今、7メートルまで上がってきたところです。窓からある程度身を乗り出して吸う場合がありますので、安全面の配慮が必要かもしれませんが、作業としては単純なものです。管には10センチおきにビニールテープを巻いてあります。ようやく8メートルですね。どんなに屈強な男の人が吸っても、9メートルまで、たぶんいかないかもしれません。