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開催レポート

日本財団セミナー

 

海、川、水が教えること

〜「総合的な学習の時間」への提案〜 第2弾

 

海と陸をむすぶ水と植物

西田治文 中央大学理工学部教授

 

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西田治文(中央大学理工学部教授)

千葉大学大学院理学研究科修了。理学博士(京都大学)。植物の系統進化を現在と過去の植物の比較から研究、南半球の調査によく出かけている。著書に『植物のたどってきた道』、『温暖化に追われる生き物たち』(共著)など。

 

「海、川、水」は私たちにとって身近で、生きる上で欠くことのできない重要な存在です。しかしながら、「危険だから」という大人の一言で、海、川で遊ぶ子どもが少なくなり、水道の蛇口をひねれば容易に得られる水は、当たり前のものとして認識され、学校教育等で省略される傾向にあります。子どもたちが触れ、知る機会の少なくなった海、川、水について、子供たちの豊かな発想で観察、体験する機会をどのようにしてつくっていけばいいのでしょうか。

2002年4月より、小中学校の教育課程に「総合的な学習の時間」が新設されます。日本財団では、「海、川、水」について子どもたちが学び、親しむ機会を創出するヒントを提供するため、小中学校の教諭、博物館の学芸員を対象に、8月31日に船の科学館(東京都)でオープンエンド型のセミナーを開催しました。今月号では、西田治文氏による研究発表の内容を報告します。

 

今日は、陸上の植物が地球の水の循環にどのようにかかわっているか、現在の生態系ができるまでにどのような変化があったのかという歴史的な側面という2つのテーマについて、主にお話しようと思っています。それからもう1つ、総合的な学習ということもテーマとなっています。

みなさんは、学校あるいは博物館などの現場のプロでいらっしゃいますので、私がこういう教え方をなんてことはとても申し上げることはできません。ただみなさんが、材料として使えるようなものということで、2つの実験を紹介しようと思います。

では、まず簡単に、植物の歴史からお話をしていきます。

 

陸と海の接点

まず写真をお見せします。アフリカのマダガスカルのマングローブ林です(図1)。マングローブは、もちろん日本の沖縄付近に行けばありますが、陸上の植物と海、あるいは水の世界が接する1つの接点でもあるわけです。陸に上がった植物が、また海の水に浸るような生活に戻ってきたという、進化の中で植物が新しいすみかを開発してきた1つの例です。水が蒸発して雨となって降り、そして川に流れて海に行くという大きな水の流れがありますが、植物がその中でどういう役割を演じることができるのか、あるいは演じているのかを考える上で、マングローブという陸と海の接点にあるものを象徴的に出したわけです。

私たちの生活に、植物も水も大きくかかわっていますが、陸の植物が海を育てるということがあちこちでいわれています。その例の1つを紹介します。1998年の朝日新聞に出た記事ですが、四国の四万十川流域のある町の人たちが、「山の幸でクジラを呼ぼう」という取り組みをしたものです。クジラが来るような豊かな海をつくるために、あるいは維持するために山を育てようという試みです。

同じようなことは、漁業関係の方々が、今、非常に興味を持っておられまして、その1つの例は、岩手県のカキの養殖業者の方々が、カキを育てるために植林するということを実際にやっておられて、効果を上げています。なぜ森が海を育てるのかということは、また後ほど土とのかかわりというところでお話をしたいと思います。

 

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図1:マダガスカルのマングローブ

 

炭素循環と生き物の役割

地球は、現在は陸にも海にも生物がいて、それがまた地球という惑星の特徴でもあります。

 

 

 

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