よほど大規模な災害で、特別の配慮をする必要があるということであれば、皆の税金でカバーをする、という考え方が採用されることもありますが、ほとんどのものはどこで線を引くのかは、非常に難しい話になるわけです。
そうすると、海岸で侵食された人だけがそういうことでいいのかという話になって来るでしょうし、色々なケースを考えて、なおかつ、制度が組めるかどうかというのは、ちょっとにわかには判断し難いと思います。所有権というか、財産というのは、その財産の形であることに意味があるのではなくて、「金銭的にどう評価されるんだ」というところに、基本の意味があるわけですから、そういうものがカバーされれば、必ずしも物理的に守る必要がないというのはおっしゃるとおりです。そのシステムを新しく作ろうと思った場合に、他のそういう自然の力によって何か変動が加わる、ということとの区別がうまくつくかどうかという問題がありそうですが、そこをうまく整理すれば、新しいシステムをつくる可能性はありそうだな、と直感的には思います。
【参加者】 個人の財産の件で言えば、まだ色々あるかもしれませんが、やはり国民の国土を守って行くという観点からすれば、国有地化というものがまずできないだろうか?そうして、ここはやむを得ないとするか、ここはもう少し抑えた方がいいか、といったように、そこは国が考えていけばいい。それを国有化するにはお金がかかりますが、全国的に危険個所、例えば地震で崩れるようなところが色々な地域にあるかもしれませんが、そういう方法はとれないだろうかな、という気がしています。
それから、港とか護岸を造るに当たっては色々話し合わなければいけないという話が出ていますが、特に行政の中で建設省と運輸省は国土交通省になり、ここは風通しがよくなったから、うまくいくとは思います。問題は農水省と国土交通省の関係で、ここはよく話し合って、専門家がいるわけですから将来的にどうなのかということを、両方で話し合うということは、本当に大事になってくるんではないかなと、今回見て、そんな気がしました。
【宇多】 私は、国土交通省を代表しているわけではありませんが、おっしゃる通りだと思います。
2つ、追加意見を申し上げると、車が追突した場合は、ぶつけた者と、ぶつけられた者が逆さまになることはないでしょう。追突した者は、間違いなく前がへこんで、追突された方は後ろがへこむ。だから、損害賠償は非常に明確にできますが、海岸の場合、厄介なのは、全部国有地ですよね。そのときに、侵食される側は、原因が100%わかっているのです。例えば、どこに砂が行ったというのは全部わかっている。しかし、「それは言ってくれるな」となるわけです。お互い国と国だから、「国が国を訴えることはできない」となります。だから、「それは災害だと思って我慢して、予算をつけてやるから復旧しなさい」となるので、原因論について踏み込んで言わないんです。天変地異で無くなった、だから護岸を張れよと。しかし、そのために何十年間にわたって積もり積もった言葉の裏に秘めているものがある。それが省庁対立の根源だから、何十年間にわたって、そのことは触れたくないということでずっとやって来たので、なかなかパッとは調整が難しいのです。
しかし、やっぱりおっしゃる通りなので、新しい世の中を目指すには、相互の話し合いが大事でしょう。
それから、国土交通省になったから、港湾と建設がすっと滑らかに行って、農水省はだめなんじゃないだろうかというのはむしろ逆で、水産庁にしてみれば最終的には豊かな漁場があった方がいいに決まっています。むしろ、水産の保護と言った方が、旧建設としては、私は建設省ですが、理解がしやすいのです。つまり、「やたらにコンクリートの護岸をやらないで、浜辺があって、豊かなシラスが獲れる漁場があった方がいいよね」と言うと、双方なるほどそうかというふうに理解しやすい。それに対して、開発して埋めてしまう、これまた大事な作業なので、それがだめだというわけじゃないんです。価値観がちょっと違うところで議論をするというのは、やっぱりなかなか大変ですが、最終的には、人間が食べるためのものは必要で、話し合って相互理解をして行くというのが大原則だろうと思うんです。お互い言い合っても、やっぱり相互理解をしていかなきゃ先へ進まないわけです。