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川の向こうに護岸が見えますが、あれが緩傾斜堤(かんけいしゃてい)という護岸です。あれは大体4割勾配といって4m行って1m下がる勾配です。何のために造ったかというと、今、海釣りしているような人がいますが、護岸のてっぺんから水際線まで歩いて降りられるようにです。人のアクセスを保てるという理由で造っているわけです。一方で、こちら側の護岸を見てみましょう。こちら側は垂直護岸と消波ブロックの海岸で、もはや人が全く近寄れないような状態です。そう言うといかにも緩傾斜堤が良いように聞こえるかもしれませんが、よく見ていただくと護岸の最下段は波を直接かぶっていて、そこのところは海苔が生えていてヌルヌルになっています。だから実際はとても危険で、15年程前ここから数km離れた椎名内海岸というところでは、海に落ちた学生さんが滑って這い上がれなくて、4人も犠牲になるという事故が起きています。

 

それから環境面から見ても、陸と海の境目の一番ファジーで大事な部分がコンクリートの壁になっていて、水が浸透できないわけです。そうすると、今日最初に見た本須賀海岸とか堀川海岸の砂浜で行われている自然の浄化の営みは完全に失われるのです。その浄化効果を定量的に示せというのは難しいことですが、そうやって陸と海との境目を全部固めてしまうことは、その前面の水域の環境をかなり悪くしているに違いないと思います。

だから、そういう意味で、私はああいう形でつくる緩傾斜堤はやめるべきだと思っています。少なくとも水際線まで近づけるから親水性が保てるなどと言う人は、ここに来て見て大丈夫だと確信した上でやるべきでしょう。実際は確認もせずに、どこかのマニュアルに載っているから、そのとおり造るというのが今、はびこっていまして、私はそれには絶対に反対です。ここにある緩傾斜堤はその典型例です。あの緩傾斜堤の前に砂浜が広がっているのならばまだ良い思うんですが、この場所は殆ど絶望的なスタイルではないかと思います。

 

こうした海岸工事の担当者が必ずしも侵食の原理をわきまえているとは限らないので、このようにずっとブロックを並べさえすれば侵食が止まるから良い、といった具合に、誤った方向に工事が進んでしまうことも問題です。これでは日本中の海岸全部をコンクリートで囲わなければならなくなります。それで良い方向へ進めばいいのですが、実際はコンクリート護岸を造ることで侵食はとまるかというと、全然そのようなことはありません。ここを護岸で守ったら隣が侵食され、隣を守ったらさらにその隣の浜辺が変化するといった具合に、どんどん広がっていってしまうものなんです。外国ではこのようなことは全く行われていません。コンクリート海岸というのはいわば日本特有の海岸の景色です。

 

【質問】 ここに護岸を造ったときには、既に砂浜は無かったんですか?

 

【宇多】 ありませんでした。ですから「今さら何をやっているんだ?」というような感じだったんです。護岸を造ったから、砂浜がつくとか、つかないとか、そういう問題ではないというのはおわかりですよね。砂は海岸線に沿って左右に流れるわけで、あそこをコンクリートで固めようが、固めまいが、砂浜がつく、つかないのとはまったく無関係だったわけです。

 

それで、砂をつけようとする構造物はヘッドランドなのです。この北九十九里全体では、一宮と同じように10基のヘッドランドを造るという計画が進んでいて、それによって海の砂が幾分流れてくるのを堰きとめて、砂浜を維持しようというものです。向こうに見えるヘッドランドの付け根の部分に三角形状の砂浜が幾分か形成されているのが見えると思います。

 

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新川河口の北側には、緩傾斜堤が設置されている。水際は海苔などの生物付着で滑りやすく、親水性とは程遠い危険な状態である。

 

 

 

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