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2000年(平成12年)

平成11年仙審第55号
    件名
漁船第三瑞寶丸爆発事件

    事件区分
爆発事件
    言渡年月日
平成12年6月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

根岸秀幸、上野延之、長谷川峯清
    理事官
山本哲也

    受審人
A 職名:第三瑞寶丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
高圧酸素ガス容器が破裂、船尾区画の前側仕切壁、右舷側ブルワーク、船尾倉庫差板壁及び洗濯機などが凹損あるいは破損、一等機関士が、左脇腹部などを負傷、のち約2週間の通院加療

    原因
高圧酸素ガス容器の腐食による爆発の危険に対する配慮不十分

    主文
本件爆発は、高圧酸素ガス容器の腐食による爆発の危険に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月15日05時10分ごろ
宮城県金華山南東方沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三瑞寶丸
総トン数 199トン
全長 46.15メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 691キロワット(計画出力)
3 事実の経過
第三瑞寶丸(以下「瑞寶丸」という。)は、平成2年9月に進水した、さんま棒受網漁業及び遠洋かつお・まぐろ漁業に従事する、船首・船尾楼付一層甲板中央船橋型鋼製漁船で、船首楼には船首倉庫が設けられ、また、船尾楼が上下2段に区画されていて、上段には、船首側から順に無線室、船員居住区及び機関室囲壁を配置していたうえ両舷に船尾暴露部の後部作業甲板兼船尾倉庫区画(以下「船尾区画」という。)につながる通路(以下「船尾楼通路」という。)を設け、下段には、船首側から順に凍結室及び準備室、機関室囲壁、船員居住区、舵機室並びに食料庫及び6番魚倉を配置していた。

船尾区画は、長さ約5.7メートル幅約8.2メートル高さ約2.0メートルの直方体を成していて、船首側が鋼製の隔壁(以下「前側仕切壁」という。)で、天井側が航海船橋甲板でそれぞれ仕切られており、また、左右両舷及び船尾側が高さ約80センチメートル(以下「センチ」という。)のブルワークで囲われていて同区画の前部中央に長さ約3メートル幅約4メートルの船尾倉庫が設けられ、同倉庫の左右壁及び後壁の出入口部分以外には、船尾楼甲板から天井まで取り外しの可能な差板が施されていた。
また、船尾区画の前側仕切壁には、船尾楼通路に通じる水密扉が両舷にそれぞれ設けられており、船尾倉庫右舷側の差板壁と水密扉との間の同仕切壁に沿って酸素及びアセチレン両ガスの高圧ガス容器各1本が格納され、また、両容器の船尾方の差板壁沿いに、船首側から順に洗濯機、用具を入れた木箱(以下「用具箱」という。)が置かれていた。

瑞寶丸は、高圧酸素ガス容器の弁保護キャップを装着したまま頭部をカンバスで覆い、同容器を前側仕切壁に立て掛けた状態で船尾楼甲板上の敷板に載せ、同甲板上から約65センチの胴部の位置に鉄製バンドを施し、ボルト及びナットで同仕切壁に固定させ、その左舷側に置かれた高圧アセチレンガス容器に並べて保管していた。
ところで、高圧酸素ガス容器は、エルハルト式と称する方法で製造されたクロムモリブデン鋼製円筒型の継目なし圧力容器で、標準の寸法が、胴部の長さ約1,400ミリメートル(以下「ミリ」という。)外径約230ミリ肉厚約6ミリとなっていて、酸素ガスを充填するときには、容器の内部圧力が摂氏35度において150キログラム毎平方センチの高い圧力となっており、容器表面の腐食の進行によって肉厚が耐圧限度以下に減少すると、破裂・爆発するおそれがあった。

A受審人は、同5年12月8日から1年間余り一等機関士として乗船した経歴を有し、また、同7年9月25日から再び一等機関士として乗り組み、翌8年8月17日付で機関長に昇格して機関部の安全担当者を兼務していたもので、高圧酸素ガス容器が予備の容器であり、また、最初に乗船して以来一度も使用されない状態のまま、前示場所に保管されていることを認めていた。
ところで、A受審人は、船尾区画で漁撈作業を行うとき及び洗濯機を使用するときなどに、開放されたままの右舷側の水密扉を通過する潮風や波飛沫(しぶき)に曝された高圧酸素ガス容器胴部の下部あたりの表面が発銹(はっしゅう)して腐食していることを認め、また、ガス溶接を伴う機関部の整備作業も少ないことから、予備の容器を保有する必要もないことを認めていたものの、まさか爆発することはあるまいと思い、定期的検査の入渠時及び帰港時などに圧力容器専門業者に確かめるなどして、高圧酸素ガス容器の発銹・腐食による爆発の危険に対する配慮を十分に行うことなく、同容器の肉厚が耐圧限度に減少して爆発のおそれのある状況になっていることに気付かず、速やかに陸揚・処分の措置をとらないまま保管を続けていた。
こうして、瑞寶丸は、A受審人ほか16人が乗り組み、船首2.80メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、同10年11月14日13時40分宮城県気仙沼港を発し、17時00分ごろ福島県沖合の漁場に至ってさんま棒受網漁を開始したのち、同漁場から北上しながら操業を繰り返し、翌15日早朝魚群探索中、A受審人が船尾区画内の船尾左舷側にある6番魚倉用ハッチ蓋上で、一等機関士Bが用具箱上で、及び、その他の乗組員数名が船尾倉庫付近でそれぞれ腰を下ろして休息していたところ、高圧酸素ガス容器胴部の右舷側正横の底部から約40センチ付近の肉厚が耐圧限度以下となり、05時10分ごろ北緯37度45分東経141度41分の地点において、高圧酸素ガス容器が一気に破裂・爆発した。
当時、天候は曇で風力1の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
その結果、高圧酸素ガス容器は、胴部右舷側の頂部から底部まで直線的に裂ける状態で口を開き、鉄製バンドを引きちぎって左舷方の船尾倉庫側に吹き飛ばされ、また、瑞寶丸は、船尾区画の前側仕切壁、右舷側ブルワーク、船尾倉庫差板壁及び洗濯機などが凹損あるいは破損した。さらに、B一等機関士は、船尾方に吹き飛ばされるとともに洗濯機のプラスチック破片によって左脇腹部などを負傷し、のち約2週間の通院加療が必要と診断された。


(原因)
本件爆発は、船尾楼甲板の暴露部に保管してある予備の高圧酸素ガス容器が発銹・腐食した際、同容器の腐食による爆発の危険に対する配慮が不十分で、高圧酸素ガス容器の肉厚が耐圧限度以下に減少したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、船尾楼甲板の暴露部に保管してある予備の高圧酸素ガス容器の発銹・腐食を認めた場合、爆発のおそれがあるかどうかを判断できるよう、圧力容器専門業者に確かめるなどして、同容器の腐食による爆発の危険に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、まさか爆発することはあるまいと思い、圧力容器専門業者に確かめるなどして、同容器の腐食による爆発の危険に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、高圧酸素ガス容器の肉厚が耐圧限度に減少して爆発のおそれのある状況になっていることに気付かず、速やかに陸揚・処分の措置をとらないまま保管を続けて爆発を招き、船尾区画の前側仕切壁、右舷側ブルワーク、船尾倉庫差板壁及び洗濯機などを凹損あるいは破損させ、また、乗組員1人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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