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2000年(平成12年)

平成11年仙審第60号
    件名
漁船第十八大成丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成12年2月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

上野延之、長谷川峯清、内山欽郎
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:第十八大成丸船長兼漁撈長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
沈没、全損

    原因
船体傾斜の防止措置不十分

    主文
本件転覆は、底びき網漁でえい網中、船体傾斜を防止する措置が不十分で、復原力を喪失したことによって発生したものである。
受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年3月5日11時40分
青森県小泊岬南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八大成丸
総トン数 32.92トン
全長 23.84メートル
幅 4.45メートル
深さ 1.63メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 183キロワット
3 事実の経過
第十八大成丸(以下「大成丸」という。)は、沖合底びき網漁業に従事する中央船橋型の鋼製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、氷1トンを載せ、操業の目的で、船首0.8メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成11年3月5日04時15分青森県鰺ヶ沢漁港を発し、小泊岬南西方10海里沖合の漁場に向かった。
ところで、大成丸は、上甲板上に船首から船尾に向かって船用品倉庫、操舵室、その両舷に各1個のワーピングエンドを有する1軸のウインチドラム(以下「ドラム」という。)、賄室、食堂、両舷に2台のロープリール及び船尾ブルワーク頂両舷に各1個の船尾ローラを備えた一層甲板型の漁船で、上甲板下に船首から船尾に向かって食料庫、第1及び第2魚倉、機関室、船員室並びに船尾両舷に漁具庫が設けられ、機関室前部両舷の二重底に第1、第2両燃料油タンク及び同室後部両舷に第3、第4両燃料油タンクが設置されていた。また、上甲板上ブルワークの高さは、約1.1メートルで、排水口が片舷に5箇所ずつ設けられ、上甲板上に打ち込む海水を排水し、海水が停留することはなかった。

第1魚倉は、容積が9.38立方メートルで氷を入れるのに使用されていた。第2魚倉は、長さ4.80メートル幅3.95メートル深さ1.10メートルであり、容積が20.86立方メートルで、長さ2.10メートル幅1.20メートル高さ0.45メートルのコーミング付きのハッチを有し、格納漁獲物重量12.52トンで、倉底から3分の2の高さの0.73メートルまで2列の仕切板で船首尾方向に3等分され、漁獲物の横方向移動を防止していた。
A受審人は、底びき網の操業をかけ廻し式の漁法で行っており、投網後直径35ミリメートルのコンパウンドロープ製の左右両舷の引き綱を平行に揃え、船を前進のまま引き綱を船尾ローラからドラムを介してロープリールに巻き取り、網が船尾後方に揚がってくると、船は揚網する舷の方に回頭し、網が舷側に移されたら漁獲物を大たもで汲み揚げて取り込んでいた。えい網中、緊急に引き綱を緩める必要が生じた際には、巻き込みをいったん中止し、同引き綱にストッパーを取ってロープリールのクラッチを切り、ドラムから同綱を外して緊張を緩めたのち、ストッパーを外して引き綱を緩めることができた。

A受審人は、発航から操舵室で単独の操舵操船に当たり、05時40分前示漁場に至り、第1回目の操業を始め、その後第3回目の操業終了時までに約10トンのたらを漁獲し、第2魚倉内に倉底から仕切板を越えて上方15センチメートルの高さまで積み、10時50分十三港南突堤灯台から268度(真方位、以下同じ。)11.2海里の地点で、樽を海中に投入して第4回目の操業を開始し、針路を231度に定め、機関を半速力前進にかけ、10.4ノットの対水速力(以下「速力」という。)で進行した。
A受審人は、引き綱を1,000メートル海中に投入し、10時53分針路を301度に転じ、更に同綱を600メートル海中に投入したのち、底びき網本体の投網を行い、同時55分針路を039度に転じて引き綱600メートルを海中に投入し、同時57分針路を109度に転じ、同綱を更に1,000メートル海中に投入し終え、11時00分前示地点に達し、樽を回収してそのまま網が海底に達するのを待ち、同時05分針路を080度に転じ、機関をえい網時の速力である極微速力前進にかけ、1.0ノットのえい網速力でドラムをゆっくり回転させて引き綱を巻き込みながらえい網を始めた。

11時15分A受審人は、ドラムの回転速度を最大にして引き綱を巻き込み始め、同時20分船体が後方に下がり始めたことから漁網に大量のたらが入ったことに気付き、その後左舷側の引き綱が張り出し、船首が左方に回頭し始めるとともに船体の左舷船尾側への傾斜(以下「船体傾斜」という。)が徐々に増すのを認め、ドラムを停止して引き綱の巻き取りを停止した。
A受審人は、引き綱の巻き取りを停止したので、そのうち船体傾斜が止まって元に戻ると思い、ロープリールのクラッチを切って回転を自由にし、引き綱をドラムから外して同綱を緩めるなど船体傾斜を防止する措置を十分にとることなく、機関を微速力前進としたものの、船体が後方に下がりながらえい網中、同時39分船体が左舷側に10度傾き、その後第2魚倉内のたらが左舷側に移動して急激に左舷傾斜が増し、復原力を喪失し、11時40分十三港南突堤灯台から268度11.2海里の地点において、原針路のまま、わずかな後進の行きあしをもって、左舷側に転覆した。

当時、天候は曇で風力4の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
転覆の結果、大成丸は、沈没して全損となり、乗組員は、全員が海中に投げ出されたが、付近の僚船に全員救助された。


(原因)
本件転覆は、小泊岬南西方沖合において、かけ廻し式の底びき網漁でえい網中、船体傾斜が徐々に増している際、ロープリールのクラッチを切って回転を自由にし、引き綱をドラムから外し、同綱を緩めるなど船体傾斜を防止する措置が不十分で、魚倉内の漁獲物が移動して復原力を喪失したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、小泊岬南西方沖合において、かけ廻し式の底びき網漁でえい網中、船体傾斜が徐々に増すのを認めた場合、同傾斜が増さないよう、ロープリールのクラッチを切って回転を自由にし、引き綱をドラムから外して同綱を緩めるなど船体傾斜を防止する措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、引き綱の巻き取りを停止したので、そのうち船体傾斜が止まって元に戻ると思い、船体傾斜を防止する措置を十分にとらなかった職務上の過失により、船体傾斜が増して魚倉内の漁獲物が移動し、復原力を喪失して転覆を招き、大成丸を沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。


よって主文のとおり裁決する。






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