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2000年(平成12年)

平成10年広審第85号
    件名
漁船第二福昌丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成12年6月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

中谷啓二、竹内伸二、内山欽郎
    理事官
上中拓治、小寺俊秋

    受審人
A 職名:第二福昌丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大破、全損、同乗者が行方不明、のち遺体で発見

    原因
気象状況の把握不十分 

    主文
本件転覆は、低気圧による悪天候が予測される状況下、気象状況の把握不十分で、出航を中止しなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月22日16時00分
鳥取県網代港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二福昌丸
総トン数 0.6トン
登録長 6.09メートル
幅 1.55メートル
深さ 0.57メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 5
3 事実の経過
第二福昌丸(以下「福昌丸」という。)は、専らレジャーに使用されるFRP製漁船で、中央部に機関室を備え、甲板上には同室を覆うため、概略の長さ、幅及び高さがそれぞれ2.0メートル、0.9メートル、0.7メートルで天井部に蓋を備えた囲壁が設けられ、同囲壁船尾側にある60センチメートル四方の引き戸を開けた前面に機関始動スイッチが取り付けられていて、引き戸直下の機関室床には機関始動用のバッテリーが備えられていた。
A受審人は、例年、底引き網漁船船主としての業務が一段落する秋季に、福昌丸を使用して鳥取県網代港港界付近の釣り場で余暇に魚釣りを行っていて、その実施状況は、通常、雨天のときや同港沖合に暗雲がかかっているとき及び強風注意報が発表されているときなどを除いて、適宜日和の良い日を選んで出航し、水深約25メートルの付近で船首部から合成繊維製錨索に取り付けた手製の錨を投錨のうえ釣りを行うというもので、同人は、漁船船主であったものの操業には従事していなかったこともあり、海上経験も同地の気象海象についての知識も乏しかった。

ところで鳥取地方気象台は、平成9年11月21日21時30分鳥取県全域に対し、日本海南部を東進している低気圧の接近に伴い、雷・強風・波浪注意報を発表し、そのころ網代港付近は、低気圧の東南東方にあたり、南寄りの風が吹く範囲にあったものの、風は背後の陸地に遮られていてほとんどなく、海上も穏やかであったが、低気圧がさらに東進することにより風向が北寄りに変わると、日本海に面し北方に開いた海岸一体は、直ちに強風にさらされ、海象も急変する状況であった。
A受審人は、翌22日07時ごろ自宅にいてテレビによる天気予報で前示注意報を知ったものの、同日午前中、同注意報にもかかわらず曇天で風がほとんどなく、海上も静穏な状態が続いていたことから、いつもの釣り場で知人と共に魚釣りをすることを思い立った。
13時00分A受審人は、依然雷・強風・波浪注意報が継続中で、天候の急変が予想される状況の下、気象状況の把握が不十分で、出航して魚釣りを行っていると天候が急変してこれに対処できないおそれがあったが、このころ天候に変化がなかったことから、近場でもあり風が吹き始めたらそのとき帰航すればよいと思い、出航を中止することなく、福昌丸に1人で乗り組み、知人1人を乗せ、船首尾共0.3メートルの喫水をもって、網代港船揚場に隣接する係留地を発し、同時10分ごろ網代港第1防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から北方600メートルばかりのいつもの釣り場に至って投錨し、その後数回付近を移動して魚釣りを行った。

15時ごろA受審人は、防波堤灯台から332度(真方位、以下同じ。)650メートルの地点で錨泊して魚釣り中、雨滴と北風が吹き始めたことに気付いて沖合を見たとき、上空に暗雲が広がり海上に一面白波が立って迫って来るのを認め、急いで帰航することとし、同乗者に錨索を手繰り揚げるよう指示したうえ、機関を始動しようと機関室の引き戸を開けたところ、同乗者から錨が海底に引っ掛かって揚がらない旨の報告を受け、天候が急変したこともあり気が動転し、あわてて船首部に行って錨索を手繰り揚げる作業を手伝い始めた。
15時10分ごろA受審人は、なんとか揚錨を終え機関を始動しようとしたところ、揚錨中に高まった風浪のしぶきが連続して甲板上にかかっていて、開けていた引き戸部から海水が流入しバッテリーなどに濡損を生じており、ウェスで海水を拭き取るなどしたものの始動できず、福昌丸は、航行不能となって増大した風波により南方に圧流され始め、防波堤灯台を替わった付近で再度投錨がされたものの錨が効かず、圧流され続けて海岸に近づいた。

15時58分ごろ福昌丸は、海岸まで200メートルばかりになったとき錨が効き始め、北からの強風に立って振れ回りながら波浪にほんろうされ、危険を感じたA受審人と同乗者が、海中に飛び込むため右舷側甲板に座り雨具を脱ぐなどしていたとき、16時00分防波堤灯台から215度830メートルの地点において、高波に持ち上げられて大きく右舷側に傾き転覆した。
当時、天候は雨で風力6の北風が吹き、波高3メートルから4メートルの高波があり、潮候は上げ潮の初期であった。
転覆の結果、福昌丸は、漂流して岩場にぶつかるなどし、大破して全損となり、海中に投げ出された乗船者のうち、A受審人は海岸に泳ぎ着いたが、同乗者のB(昭和12年5月28日生)が行方不明となり、のち遺体で発見された。

(原因)
本件転覆は、鳥取県網代港において、日本海を低気圧が東進し、同県全域に対して雷・強風・波浪注意報が発表され天候の急変が予測される状況下、気象状況の把握が不十分で、出航を中止せず、同港港界付近に投錨して魚釣り中、気象海象が急激に悪化し、高波のため大傾斜したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、鳥取県網代港において、低気圧が接近中、雷・強風・波浪注意報が発表されている状況下、魚釣りのため出航しようとする場合、海上経験も同地の気象海象についての知識も乏しく、天候の急変に対処できないおそれがあったから、出航して天候の急変に遭遇することのないよう、出航を中止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、出航に際し、風がほとんどなく海上が穏やかであったことから、風が吹き始めたらそのとき帰航すればよいと思い、出航を中止しなかった職務上の過失により、気象海象の急激な悪化に遭遇して転覆を招き、福昌丸を大破させ、同乗者の死亡を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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