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2000年(平成12年)

平成10年函審第66号
    件名
漁船第三十一惣寶丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成12年6月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、酒井直樹、古川隆一 参審員:瀧澤武正、烏野慶一
    理事官
千手末年、東晴二、熊谷孝徳

    受審人
A 職名:第三十一惣寶丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第三十一惣寶丸漁労長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
転覆、沈没、機関長が溺死

    原因
作業場の浸水防止措置不十分、ビルジポンプの取扱い不適切

    主文
本件転覆は、作業場の浸水防止措置が不十分であったことと、ビルジポンプの取り扱いが不適切であったこととによって発生したものである。
受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Bの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月10日00時30分
北太平洋択捉島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十一惣寶丸
総トン数 125トン
全長 35.90メートル
幅 7.20メートル
深さ 2.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
(1) 受審人及び指定海難関係人
ア 受審人A
A受審人は、昭和43年沖合底びき網漁船に甲板員として乗り組み、同46年三級海技士(航海)免状を取得したのち北転船の航海士となり、同53年株式会社S(以下「S社」という。)に入社して沖合底びき網漁船の船長となり、平成9年7月中旬R株式会社(以下「R社」という。)で建造された第三十一惣寶丸(以下「惣寶丸」という。)を受け取って同造船所から八戸港に回航し、その後引き続き同船の船長の職務を執っていた。
イ 受審人B

B受審人は、昭和35年さけ・ます延縄漁船に司厨員として乗り組み、同38年甲板員となり、同43年北転船の一等航海士となり、同46年三級海技士(航海)免状を取得し、同47年沖合底びき網漁船の船長となり、同50年S社に入社してからも沖合底びき網漁船の船長の職務を執り、同56年漁労長となり、平成9年7月から惣寶丸の漁労長の職務を執っていた。
ウ 指定海難関係人C
C指定海難関係人は、昭和41年いか一本釣り漁船に甲板員として乗り組み、その後まぐろ延縄漁船の甲板員となり、同50年S社に入社して沖合底びき網漁船に甲板員として乗り組み、同56年甲板長となり、平成9年7月から惣寶丸に甲板長として乗り組んでいた。
エ 指定海難関係人D
D指定海難関係人は、昭和42年さけ・ます流し網漁船に甲板員として乗り組み、同43年まぐろ延縄漁船に乗り組み、同48年沖合底びき網漁船の甲板長となり、同50年S社に入社して先代の第三十一惣寶丸の甲板長となり、平成5年同船の冷凍長となり、同9年7月から惣寶丸に冷凍長として乗り組んでいた。

オ 指定海難関係人E
E指定海難関係人は、R社に入社後、主として設計を担当し、平成8年営業副部長として在職中、同年10月惣寶丸の建造契約に立ち会った。
R社は、同9年4月T株式会社(以下「T社」という。)を設立し、同社に新造船の設計業務を移管し、惣寶丸の設計を行わせた。
E指定海難関係人は、惣寶丸の契約当事者であることから、同船の設計についてT社から相談を受けると、同船が北方海域での操業に使用されるということを考慮し、船幅を広くし、上甲板上方の軽量化及び同下方の重量化を行うことで、極力船体重心の安定を計らせ、所要の乾舷及び復原力を確保することを努力させ、また、水産庁の漁船建造許可の交付を受ける際、重心試験成績表中に含まれていない甲板上の漁獲物の重量についても、約20トンの漁獲物入り袋網が漁労甲板に引き揚げられても復原力が確保されるという前提で設計させた。

(2) 第三十一惣寶丸
ア 建造の経緯
S社は、青森県八戸市大字鮫町字下手代森2番地1に所在し、主たる業務は、いか一本釣り漁業、まき網漁業及び沖合底びき網漁業等であるが、全盛時には6隻所有していた沖合底びき網漁船の減船が続き、沖合底びき網漁船が船齢10年の第六十八惣寶丸1隻となったことから、北洋水産操業の同船の能力不足を補うということもあり、その代船を新造することとし、沖合底びき網漁船建造の実績を有するR社に平成8年10月惣寶丸を発注した。
惣寶丸を受注したR社は、その基本設計をT社に行わせ、翌9年4月に起工し、同年5月進水、同年7月に竣工し、海上公試運転を行ったのち、同船をS社に引き渡した。
その後S社は、惣寶丸を八戸港沖合においてかけ回し式沖合底びき網漁業に、択捉島南方沖合においてかけ回し式沖合底びき網漁業及びオッタートロール式沖合底びき網漁業に従事させていた。

イ 計画主要目
主要目は、前示のほか次のとおりであった。
登録長 29.00メートル
垂線間長 28.90メートル
深さ 2.75メートル
計画満載喫水 2.519メートル
規定乾舷 0.238メートル
イニシャルトリム 1.000メートル
従業制限 第2種
漁業種類 沖合底びき網漁業
主機関 ダイハツ6DKM−26FL
推進器 かもめCPP4翼
ウ 船体の構造
惣寶丸は、船首楼及び長船尾楼を備え船首尾楼付一層甲板型の鋼製漁船で、船首楼甲板の後部に船橋を、その後部の長船尾楼前部との間長さ5.5メートルをトロールウインチ甲板とし、トロールウインチを船横に2基設け、その後部の長船尾楼上部が漁労甲板となっており、その前部にトロールウインチのえい網索のワイヤーシフターを設け、その後部から5.5メートル後方までが木甲板の網寄せ場になっており、その中央部に2.2メートルの正方形の荷役ハッチを設け、網寄せ場後部の両舷側に門型マスト及び漁労ブームを立て、マスト基部前方に漁労ウインチを配置し、マストの後部両舷側にコンパニオンを設け、両ウインチの前部と内側を囲んで船尾方のスリップウエー前部ガイドローラーに延びる高さ約50センチメートル(以下「センチ」という。)長さ約11メートルのインナーブルワークを立てて、その内側の幅約2.8メートルの漁労甲板に木甲板を張って網の通路とし、同通路内の門型マスト横に長さ1.5メートル幅2.0メートルの下開きの油圧開閉式フイッシュハッチ1個を設けて下部の魚溜りに袋網の漁獲物を落し込むようになっており、スリップウエー後部の両舷側甲板に門型ギャロースを立てていた。
船首楼甲板下は、船首から甲板長倉庫、前部居住区となっており、長船尾楼甲板下は、前部から順に、作業場、機関室囲壁、その右舷側に機器室、左舷側に通路を設け、その左舷側を浴室及び空調室などとし、その後部に後部居住区、舵機室、その左舷側に食料庫及び漁具庫、同右舷側に漁具庫を設けていた。
上甲板下は、船首から順に船首燃料油タンク、1番燃料油タンク、魚倉、機関室、左右清水及び雑用水タンクで、両清水タンク間に電話室があり、最船尾が左右5番燃料油タンクとなっていた。

船底部は、魚倉前端から機関室の後部付近までが二重底となっていて、船首から順に2番燃料油タンク、3番中央及び左右燃料油タンク、右舷側が4番燃料油タンクとスラッジタンク、左舷側が油圧作動油タンクと潤滑油タンクとなっていた。
エ トロールウインチ甲板の構造
船首楼後端から船尾楼前端までの長さ5.5メートルの間をトロールウインチ甲板(以下「ウインチ甲板」という。)とし、その両舷側の前後に船首楼甲板後部と船尾楼甲板前部に接続する高さ約2メートルのブルワークを設け、両舷側ブルワーク基部に高さ42センチ、長さ75センチの放水口を各5個ずつ開口し、それぞれに外舷側には開くものの、ストッパーにより船内側には開かないフラップ式の蓋を取り付け、ウインチ甲板の中央部を30センチ隆起させてその上部にトロールウインチの台座を設けて船横に2基のトロールウインチを取り付け、隆起甲板の両舷側とブルワークの内側との間の幅約1メートルの上甲板を船首楼後部と船尾楼前部との間の通路とし、両舷のブルワーク上縁から約70センチ間隔で、高さ1.1メートルの支柱6本を立て、その上端に前後が船首楼甲板ブルワーク上縁と船尾楼甲板ブルワーク上縁に接続する手すりを設け、幅0.5ないし1メートルの縞鋼板を取り付け、船首楼甲板と漁労甲板の通路としていた。
オ 作業場の構造
船尾楼前端から船尾方へ7.1メートルまでの間が漁獲物の選別、箱詰めなどの作業を行う作業場となっており、作業場の後部中央に漁労甲板のフイッシュハッチから落し込まれた漁獲物を受ける長さ4.4メートル幅2.4メートルの船首方に傾斜した魚溜りを設け、その両舷側及び前部に天井付近まで差板を入れて魚溜り全体を覆うようになっていた。
魚溜りの右舷側には、漁獲物と一緒に落し込まれたゴミなどを海中投棄するため、その中間付近から船首方向へ作業場前端近くまで、更にそこから船横方向へ右舷側壁近くにまで達する2段に分かれたベルトコンベアーを設置し、ベルト面の床上高さは最も低い最船尾部で45センチとなっていた。

カ 作業場内の雑用海水管の配置
作業場左舷側漁労甲板裏に、機関室内左舷側前部の雑用海水ポンプから上甲板を貫通して立ち上がる呼び径80ミリメートル(以下「ミリ」という。)の雑用海水管が前方に延び、その前部及び後部に右舷側に延びる呼び径50ミリ及び40ミリの枝管を接続し、前部の枝管の中央部に2個、右舷側の物捨ベルトコンベアー下部に1個、左舷側に1個、魚倉ハッチの右舷側に1個の呼び径32ミリの玉形弁を取り付け、魚倉ハッチの右舷側及び後部右舷側の枝管に取り付けた玉形弁のカップリングに蛇腹式ビニールホースを取り付け、その先端を両舷側ビルジウエルに差し込み、ビルジポンプ始動時の呼び水として使用できるようにしていた。
キ 作業場内のビルジ排出装置
作業場のビルジ排出装置として、後壁寄りの両舷側端に縦93センチ、横50センチ、深さ50センチのビルジウエルを設けていて、その底部に定格電圧220ボルト、出力2.2キロワットの3相誘導電動機駆動で定格吐出量毎分1.0トンの回転カッター付の渦巻式水中ビルジポンプ(以下「ビルジポンプ」という。)を取り付け、呼び径100ミリの排水管がその上方の外板に配管され、その上部にバタフライバルブ1個を取り付け、漁獲物処理作業中に使用した雑用海水と作業場甲板上に散乱した雑魚を砕いて船外に排出するようになっていた。

ビルジポンプの発停スイッチは、それぞれ魚溜り寄りの作業場後壁に取り付け、運転中は緑色のランプが点灯するようになっており、電源は、機関室の主配電盤から供給していた。
ク 作業場前部及び後部の開口部とその閉鎖装置
作業場には、前壁に両舷端からそれぞれ31センチのところを外端とするコーミング高さ48.5センチで幅57センチ、高さ1.0メートルの開口部を各1個、後壁に両舷端からそれぞれ94.5センチのところを外端とするコーミング高さ38.5センチで幅62センチ、高さ1.27メートルの開口部を各1個設け、開口部の閉鎖装置として、それぞれ鋼製風雨密扉を取り付けていた。
ケ 機関室囲壁左舷側通路及びその他の開口部とその閉鎖装置
作業場左舷側後部の鋼製風雨密扉開口部の後方の機関室囲壁左舷側通路右舷側後部には、機関室への出入口として同囲壁後部に通路に面してコーミング高さ38センチで幅50センチ、高さ1.4メートルの開口部を設け、鋼製フラッシュ扉を取り付けていた。そして、通路の後端右舷側にコーミング高さ20センチで幅65センチ、高さ1.6メートルの開口部を設け、木製扉を取り付けて居住区への出入口としていた。

作業場の魚溜りの前部には、魚倉に通じ共に高さ45センチのコーミングを持つ幅1.73メートル、長さ2.02メートルの魚倉ハッチを、その前方に幅93センチ、長さ96センチの作業用ハッチを船体中心線上に設け、魚倉ハッチは2枚割の、作業用ハッチは1枚物のアルミ製の上蓋を被せてそれぞれ閉鎖するようになっていた。
船首楼後壁の中央の少し左舷側のところには、コーミング高さ38センチで幅55センチ、高さ1.0メートルの開口部を1個設け、閉鎖装置として鋼製風雨密扉を取り付けていた。
(3) 完成時の復原性能
惣寶丸は、R社が計画し、建造許可を得ていた仕様書のとおり建造され、平成9年6月25日及び翌26日に海上公試運転が実施された。
R社は、傾斜試験及び動揺試験を行った結果をもとに、船長の為の復原性資料として、重心試験成績表、軽荷状態、満載出港状態、満載漁場着状態、夏期漁場発状態、冬期漁場発状態及び満載入港状態の各航海状態における重量重心トリム計算書並びに復原性能計算書を作成して乗り出しの船長に手渡した。

冬期漁場発航状態の復原性能では、オッタートロール式沖合底びき網漁具の重量11.82トン、燃料油15.58トン、漁獲物58.96トン、着氷20.88トンとして排水量358.48トン、平均喫水2.51メートル、乾舷0.25メートル、GM1.10メートル、最大復原梃子(てこ)0.621メートル、復原力滅失角55.00度と算出しており、125トン型の漁船の復原性の規定値を充足していた。
(4) R社作成の船長の為の復原性資料
R社は、冬期の択捉島付近海域における船体着氷などの気象、海象の特殊性を考慮し、船長の為の復原性資料の中に荒天時にはハッチの閉鎖、出入口の鋼製風雨密扉の閉鎖を常時行うこと、急旋回及び急転舵をなるべく避け、特に漁労中の急旋回に注意することなどの注意事項を記載していた。
E指定海難関係人は、惣寶丸の作業場前部左舷側の開口部が前部居住区と作業場及び後部居住区との船内通路として使用されることに配慮し、引渡しの前にT社に対し、乗り出しの船長以下乗組員に対する説明会を行わせ、開口部の鋼製風雨密扉を荒天航行中に開放しておくと、ウインチ甲板に滞留した海水が開口部から作業場に流入し、転覆のおそれを生じることを周知させていた。

(5) 発航時の積込品と満載発航状態
ア 漁具として、えい網索13.96トンをトロールウインチの両舷側ドラムに巻き取り、オッターボード3.04トンを船尾端のギャロースに固縛し、網完成品6.17トンをインナーブルワーク後部に積み付け、その合計重量は23.17トンであった。
漁具付属品として、網ペンネント、遊びワイヤー、ハンドロープ、オッターペンネント、三ッ目鉄板、シャックル類及び滑車合計1.08トンを、漁労甲板後部の両舷に均等に積み付け、漁具予備品として1.93トンを、船体中央右舷側に0.31トン、同後部右舷側に1.62トンを積み付け、漁具の合計重量は26.18トンであった。
イ 食料・倉庫品0.85トン、燃料油・その他の油73.06トン、清水・雑用水7.08トン、合計重量80.99トンはそれぞれ所定の場所に積み込んだ。
ウ 魚箱1.12トンのうち、発泡スチロール製700個0.21トンと木製445個0.68トンを魚倉一杯に、木製150個0.23トンを作業場右舷側のベルトコンベアーの横にそれぞれ積み付けた。
砕氷7.00トンは、差板で縦約1.5メートル横約2メートルの区画に仕切った魚倉の中央部に積み込み、これらの合計重量は8.12トンであった。
エ 乗組員及び携帯品が2.25トンであった。
前示の積込品を載せた惣寶丸の満載発航状態における乾舷は、別表1のとおり0.265メートルとなり、規定の乾舷を充足していた。
(6) 本件発生に至る経緯
惣寶丸は、A及びB両受審人、C及びD両指定海難関係人ほか11人が乗り組み、船首2.00メートル船尾2.98メートルの喫水で、オッタートロール漁法による操業の目的をもって、平成10年3月8日08時45分八戸港を発航し、択捉島南方沖合漁場に向かった。
こうして、惣寶丸は、翌9日14時ごろ択捉島南方沖合漁場に至り、水深600メートルばかりのところで操業を開始し、18時過ぎに取りかかった2回目の操業のころから、北海道東方沖合から千島列島北部付近に進んだ発達した低気圧の影響で次第に北北西寄りの風浪が強まって風力5となり、更に荒天となることが予想されたこと及び漁獲が2回の操業できちじなど約0.2トンと不漁状態であったことから、避難を兼ねて択捉島寄りに移動して操業することとし、19時00分北緯43度56.0分東経148度01.0分の地点を発進した。

ところで、A受審人は、作業場を無人にして漁場移動航行するにあたり、作業場前部両舷側開口部が鋼製風雨密扉により閉鎖されていないことを認めた。しかし、同人は、両開口部を鋼製風雨密扉により閉鎖すれば船内の通行が不便になるものと思い、両扉の閉鎖をB受審人に指示して作業場の浸水防止措置を十分に行うことなく、漁場を発進した。
また、B受審人は、作業場を無人にして漁場移動航行するにあたり、作業場前部両舷側鋼製風雨密扉開口部から打ち込む海水量と呼び水の注水量とを2台のビルジポンプを運転してその排出量と釣り合うようにしたが、同ポンプが故障停止すると、呼び水と打ち込み海水が作業場及び後部居住区内に滞留して船体が大傾斜するおそれがあった。しかし、同人は、漁場移動の短時間内なら大丈夫と思い、ビルジポンプの運転停止及び呼び水の注水中止などの適切な同ポンプの取り扱いを乗組員に指示せず、呼び水を注水して同ポンプをかけたままにし、乗組員を休息させて作業場を無人にして自らも休息した。

A受審人は、漁場発進時から単独で船橋当直に就き、発進地点において針路を000度(真方位、以下同じ。)に定め、機関回転数を毎分500にかけ、プロペラ翼角を前進12度とし、左舷前方からの風浪を受け、南南西の弱い潮流により左方へ2度圧流されながら8.9ノットの対地速力で北上していたところ、風浪が次第に強まり、気温が急速に低下したことで、波しぶきをかぶるようになってそれが船体着氷になったが、減速することなくそのまま進行した。
20時00分D指定海難関係人は、漁労甲板で行っていた網の修理がほぼ終わるころ作業場に赴き、同時20分箱詰めされた漁獲物を魚倉に積付けたのち、荒天下の航行となっていたことから、作業場に浸入した海水を排出するため作業場後壁寄り両舷側のビルジウエルの各ビルジポンプを運転状態とし、雑用海水玉形弁を全開して呼び水用の海水を注水した状態にして作業場を離れ、船員室に退いて休息した。

A受審人は、更に風浪が強まり、波しぶきをかぶる回数が増えてきたので20時30分プロペラ翼角を前進7.5度に下げて5.0ノットの対地速力で続航した。
20時50分C指定海難関係人は、漁労甲板での作業を終え、雑用海水管内部の凍結防止のため船首楼甲板後部両舷端の雑用海水玉形弁各1個及び漁労甲板前部右舷寄りの雑用海水玉形弁1個を半開状態、同甲板両舷端のやや船首寄りとやや船尾寄りの雑用海水玉形弁各1個を全開状態とし、海水を甲板上に放出させて漁労甲板を離れ、船員室に退いて休息したところ、気温の低下により、同甲板上で放出中の海水が同甲板上で氷結するようになり、また、船体着氷が更に進み、やや頭部過重の状態となった。
その後、惣寶丸は、23時50分運転中の作業場右舷側のビルジポンプが故障停止し、左舷前方からの風浪で右舷側に傾斜気味であったことから、雑用海水管からビルジウエルに注水中の海水と開口部からの打ち込み海水が作業場の右舷側に滞留を始め、滞留量が徐々に増加し、海水の滞留による影響で徐々に船体が沈下して乾舷が減少するとともに復原性が低下し、右傾斜量が次第に増加していった。

こうしているうち、惣寶丸は、傾斜により海面下となっていたウインチ甲板右舷側の放水口からも海水が浸入して同甲板上に滞留した海水の水位が、作業場前部の右舷側開口部の下縁を越え、開放していた同開口部から海水が作業場に浸入するようになり、右舷側への傾斜が更に増していった。
翌10日00時10分甲板員Fは、自室で休息中に目覚め、左舷側コンパニオンの便所に入って小用を済ませたとき、右舷側に約7度傾斜していることに気付き、不審に思って漁労甲板を見渡したものの何ら異常を認めず、上甲板に下りて作業場に行ったところ、右舷側に大量の海水が滞留しているのを認め、作業場の左舷側からウインチ甲板左舷側を経て操舵室に赴き、A受審人にそのことを報告したあと、後部居住区に戻って休息中の乗組員を起こした。
このころ右舷傾斜のため作業場前部左舷側の開口部から打ち込んだ海水が作業場左舷側のビルジウエルに入らなくなったことと、右舷傾斜により同ビルジウエルの水位が下がったこととにより、左舷側のビルジポンプが空転して排水しなくなり、同ビルジウエルからあふれ出た注水中の海水が、作業場左舷後壁と油圧ハッチ斜路の両側に張った鋼板の区画に滞留し、やがて同後壁の開口部から通路を経て後部居住区に浸入し、船員室の通路を通って同居住区の右舷側に滞留するようになり、右舷への傾斜が一段と強まった。

D指定海難関係人は、F甲板員の知らせで、作業場に急行したところ、大量の海水の滞留とともに右舷側の水中ポンプの運転状態を示す緑色のランプが消えているのを認め、同ポンプ発停スイッチを押したものの、ランプは点灯せず、起動しなかった。
00時12分A受審人は、F甲板員から報告を受けてようやく傾斜が異常であることに気付き、作業場に赴いてその様子を確かめようとしてプロペラ翼角を0度とし、漂泊状態として操舵室を離れたことから、船首が右方に落されて北西寄りの強風浪を左舷正横付近から受けるようになり、右舷側への傾斜が一層増した。
00時15分B受審人は、操舵室下の自室で休息中、騒ぎ声で目覚めたところ、右舷側に傾斜したまま左に戻る揺れが全く感じられないことから、不審に思って昇橋し、A受審人と交代して操舵操船に当たり、同時20分同人の指示により、8海里ばかり前方を同航していた僚船の第51みつ丸に異常事態の発生を連絡したのち、同時24分同人に対し退船に備え、作業用救命衣の着用と膨張式救命いかだの投下を助言し、同人が乗組員数人と共に同いかだの投下作業を開始した。そして、同時26分B受審人は、乗組員の悲鳴に近い声を聞き、効果は期待できなかったが船体を引き起こすため右舵一杯をとり、機関を回転数毎分560に上げプロペラ翼角を前進17度の全速力としたところ転舵による内方傾斜で右舷傾斜が更に増大したあと、旋回による遠心力と風浪を右舷側から受けるようになって船体は徐々に起き上がったものの、滞留水が左舷側に移動してそのまま左舷側に大傾斜していった。
こうして、惣寶丸は、左舷側に大傾斜したことにより、ウインチ甲板左舷側の放水口から浸入した海水が、開放されたままの作業場前部左舷側鋼製風雨密扉の開口部から作業場に浸入して注水中の呼び水と加わり、更にそれが開放されたままの作業場後部左舷側鋼製風雨密扉の開口部から機関室囲壁左舷側の通路に流れ込むようになって同通路にいた乗組員数人が同扉を閉鎖しようとしたが、同扉のハンドルに巻いて収納していたビニールホースが開口部のコーミングと同扉の間に挟まり、約15センチの隙間を生じて密閉することができず、船内に浸入した海水で左舷傾斜が更に増加するなかで、機関室囲壁左舷側の通路に流れ込んだ海水が後部居住区及び機関室に浸入するようになった。

その後、惣寶丸は、大量の海水の浸入により船体の沈下とともに左舷側への傾斜が増大し続け、00時30分北緯44度27.7分東経147度59.0分の地点において、南西方に向首しているとき、復原力を喪失して左舷側に転覆した。
当時、天候は雪で風力7の北西風が吹き、波高は4メートルで、気温氷点下15度、水温氷点下0.5度で、南南西方に流れる弱い潮流があった。
(7) 乗組員の救助模様及び惣寶丸の沈没
乗組員は、凍結のため操舵室上部右舷側の膨張式救命いかだの投下に手間取っているうちに惣寶丸が転覆して海中に投げ出され、転覆した際に同いかだが自動展張したことから、機関長Gを除く14人が同いかだに乗り移って漂流しながら、同いかだ備品の落下傘付信号を発射して救助を求め、惣寶丸は間もなく転覆地点付近において沈没した。
漁場移動航行中の第51みつ丸の船長は、惣寶丸から異常事態発生の第1報を受けたあと反転して同船に向かい、00時30分レーダー画面から同船が消えるのを認めて第六十二新生丸に惣寶丸の事故発生を八戸漁業無線局に通報するよう依頼した。そして、02時20分漂流中の膨張式救命いかだから打ち上げられた落下傘付信号を認め、同いかだに接近して惣寶丸の乗組員14人を船上に収容した。

その後、僚船9隻で行方不明となっていたG機関長(昭和24年3月16日生)の捜索を行っていたところ、06時30分第六十五甚宝丸が同人を発見し、船上に収容したが、すでに溺死していた。
(8) 原因に対する考察
ア 荒天準備の状況
航行中に荒天が予想されたので使用中の漁具については、オッターボード2個をそれぞれギャロースの左右舷にあるトップローラーで吊り上げたあとストッパーを取り、更にオッターボードのブライドルチェーンに門型マストに取り付けた滑車を介してワイヤーを連結しウインチのワーピングドラムに巻き締め、えい網索をトロールウインチまで巻いて袋網をスリップウエーから船首方に約2メートルのところに置いたので、網部のほとんどが幅約2.8メートルのインナーブルワーク内に収まり、大傾斜してもインナーブルワーク船首端から船首方にあった袖網とグランドが少し移動する程度であった。また、漁労甲板右舷側の前部と後部に置いた予備網を、着氷防止のために覆ったビニールシートの上からロープで固縛した。魚箱は、発泡スチロール製のもの700個と木製のもの450個を魚倉にできるだけすき間なく積み付け、木製のもの150個を作業場のベルトコンベアー横の右舷側に積み付けた。
イ 漁獲物の積付け状況
約0.2トンのきちじを砕氷とともに発泡スチロールの魚箱約25個に入れ、差板で縦約1.5メートル、横約2メートルに仕切った魚倉の最前部の区画にすき間がないように積み付けていた。
ウ 燃料消費量
燃料消費量は、船長の為の復原性資料中の計算式により、往航中1時間当たり0.1455トン、航海中1時間当たり0.1283トンで、発航時から5.68トン消費していた。
使用したのは、3番燃料油タンク(右舷側)で、残量が0.45トンであった。
エ 船体着氷の状況
漁場移動開始時は、船橋上部のマスト上部や中央部門型マスト上部に着氷している程度であったが、時間の経過とともに気温が低下し、風波が強まるにつれ、左舷船首方から高く打ち上がる波しぶきにより、船体着氷が進み、船橋上部マスト、中央部門型マスト、ギャロース、左舷側の外板、ブルワーク、手すり、船首楼甲板及び漁労甲板のほぼ全面に数センチの厚さで着氷し、本件発生時、合計10.44トンの船体着氷があり、復原性が低下してやや頭部過重の状態となっていた。

オ 船体着氷による重心の上昇

カ 作業場浸水発見時の船体傾斜模様
作業場の浸水が発見されたとき、船体が右舷側に約7度傾斜し、作業場左舷側に浸水していないところが1.8メートルの幅であったことから、滞留海水を容積計算によって求めると、別表3(1)のとおり作業場には14.48トン、ウインチ甲板には3.85トンが滞留していたことになる。

キ 呼び水の注水量とビルジポンプの吐出量

一方、ビルジポンプの吐出量は、定格で毎分1.0トンであるが、実効吐出率を80パーセントとして毎分0.80トンとなり、呼び水の注水量毎分0.58トンと作業場前部開口部の打ち込み海水量毎分0.22トンとの合計毎分0.80トンの浸入海水量とがほぼ釣り合っていたものと推定される。
以上のことから、作業場前部左右側端各開口部の鋼製風雨密扉を閉鎖せず、開口部から打ち込む海水を排水するため、大量の呼び水を注水しながらビルジポンプを無人のまま運転中、同ポンプが故障停止して大量の呼び水と開口部からの打ち込み海水が作業場に滞留したことが本件発生の原因と考えられる。


(原因)
本件転覆は、冬期、荒天模様の択捉島南方沖合において、夜間、船体着氷によりやや頭部過重の状態で漁場移動航行中、作業場の浸水防止措置が不十分で、作業場前部両舷側開口部の鋼製風雨密扉が閉鎖されなかったことと、ビルジポンプの取り扱いが不適切で、無人のまま大量の呼び水を注水しながらビルジポンプを運転し、両扉開口部から打ち込む海水を排出していたこととにより、右舷側ビルジポンプが停止した際、大量の呼び水と打ち込み海水が作業場に滞留したのち後部居住区内に浸入して船体が大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、冬期、荒天模様の択捉島南方沖合において、夜間、作業場を無人にして漁場移動航行する際、作業場前部両舷側開口部の鋼製風雨密扉が閉鎖されていないことを認めた場合、両扉開口部から海水が作業場内に打ち込むことのないよう、両扉の閉鎖を漁労長に指示して作業場の浸水防止措置を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、両扉を閉鎖すれば船内の通行が不便になるものと思い、両扉の閉鎖を漁労長に指示して作業場の浸水防止措置を十分に行わなかった職務上の過失により、閉鎖されなかった両扉開口部から作業場内に海水を打ち込ませ、ビルジポンプが停止したため、これを作業場に滞留させ、惣寶丸を大傾斜させて復原力の喪失を招き、転覆させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

B受審人は、冬期、荒天模様の択捉島南方沖合において、夜間、作業場を無人にして漁場移動航行する場合、作業場前部両舷側の鋼製風雨密扉開口部から打ち込む海水量と大量の呼び水の注水量とを2台のビルジポンプを運転してその吐出量と釣り合わせておくと、同ポンプが故障停止した際、大量の呼び水と打ち込み海水が作業場に滞留し、これが後部居住区内に浸入して船体が大傾斜するおそれがあったから、同ポンプの運転停止及び大量の呼び水の注水中止などの適切なビルジポンプの取り扱いを乗組員に指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、漁場移動の短時間内なら大丈夫と思い、同ポンプの運転停止及び大量の呼び水の注水中止などの適切なビルジポンプの取り扱いを乗組員に指示しなかった職務上の過失により、右舷側ビルジポンプが故障停止した際、大量の呼び水と打ち込み海水を作業場に滞留させ、これを後部居住区内に浸入させ、惣寶丸を大傾斜させて復原力の喪失を招き、転覆させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
D指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
E指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。

別表1 満載発航状態




別表2 作業場浸水発見時の状態




(1)傾斜角7度における滞留海水量とこれが傾斜角0度になったときの重心の位置


(2)作業場の滞留海水の傾斜角7度における横移動モーメント(比重1.025)


(3)トロールウインチ甲板滞留海水の傾斜角7度における横移動モーメント(比重1.025)






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