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2000年(平成12年)

平成11年神審第76号
    件名
プレジャーボート春昌丸転覆事件

    事件区分
転覆事件
    言渡年月日
平成12年4月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

西田克史、須貝壽榮、工藤民雄
    理事官
橋本學

    受審人
A 職名:春昌丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
転覆、のち沈没、機関に濡損等

    原因
気象海象に対する配慮不十分

    主文
本件転覆は、気象海象に対する配慮が不十分で、発航を取り止めなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月4日12時30分
若狭湾
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート春昌丸
総トン数 0.9トン
全長 8.13メートル
幅 2.12メートル
深さ 0.68メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 44キロワット
3 事実の経過
春昌丸は、周囲が高さ約30センチメートルの舷縁に囲まれた全通の甲板を有し、船尾寄りに機関室区画を配置した船内外機付きのFRP製小型遊漁兼用船で、魚釣りの目的をもって、A受審人が所有者である父親から借り受けて1人で乗り組み、知人2人を乗せ、船首0.25メートル船尾0.30メートルの喫水をもって、平成10年10月4日06時00分京都府栗田湾の湾奥西側にある小田宿野の係留地を発し、若狭湾沖合の釣場に向かった。
ところで、栗田湾は、東方に湾口を開いて、若狭湾南西部の湾奥部に位置しており、若狭湾の湾口が北方に大きく開いていることから、北寄りの風が連吹すると、そのうねりや波浪が湾奥部に侵入し、栗田湾湾口付近の浅海域ではしばしば大きな波が発生することがあった。

一方、同月1日から翌2日にかけて、台風から変わった低気圧が日本海側を通過後西高東低の気圧配置となり、若狭湾沖合では連日北寄りの風が連吹していたことから、波の高い状態が続いていた。
A受審人は、これまで若狭湾における釣りの経験や長い漁師経験を有する父親から受けた指導により、栗田湾湾口付近に高波が発生しやすいことを知っており、前夜及び当日早朝の電話で入手した気象情報や新聞の天気予報により、天候が悪化するおそれのあることを知るとともに、父親からも天候が悪くなるので沖合に出ないよう忠告されたが、まさか転覆するような事態にはならないと思い、気象海象に配慮して発航を取り止めることなく、離岸したものであった。
離岸したとき、A受審人は、はるか東方沖合にやや大きな波を認めたため少しばかり不安を感じながらも、京都府鷲埼南方約2.0海里に設置された魚礁に向かって北上したところ、目的の魚礁を見つけるのにもやがかかって山を立てることができず、また、魚群探知器でも探知できなかったことから釣場を変えることとし、波高約1メートルの北寄りの波を受けながら、更に北東方沖合の冠島の北側近くで通称立神グリと呼ばれる瀬に移動し、10時ごろ同瀬に至って投錨のうえ釣りを始めた。

ところが、間もなくA受審人は、突風を伴う強い北風が吹き出してきて白波が立ち始め、波が舷縁を越えて打ち込むようになってきたことから帰航することとし、11時ごろ同瀬を発して陸岸の陰に入るつもりで西行したのち、鷲埼に近づいたところで陸岸に沿って南西方に進路を転じ、12時08分宮津黒埼灯台から040度(真方位、以下同じ。)1,100メートルの地点に達したとき、針路を151度に定め、機関を微速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
そして、A受審人は、波高約3メートルに増勢した波を後方から受け、大きく横揺れを繰り返しながら同じ針路、速力で続航し、12時30分わずか前、波が一層高まった海域の若狭湾南西部に至り、無双ケ鼻に1,400メートル隔てて並航した辺りで、栗田湾に向けようと右舵10度をとって右回頭を始めたところ、12時30分宮津黒埼灯台から138度2.5海里の地点において、春昌丸は、船首が160度を向いたとき、著しく高起した波を受けて船体が持ち上げられ、右舷側に大傾斜して転覆した。

当時、天候は曇で風力5の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、付近には波高約5メートルの波があった。
転覆の結果、春昌丸は、船底を上にしたまま漂流して南西方の陸岸近くに打ち寄せられたのち沈没し、機関に濡損等を生じたが、のち他船に引き揚げられて修理され、A受審人ほか同乗者2人は海中に投げ出されたが、しばらく船体につかまって漂流したのち、いずれも自力で陸岸に泳ぎ着いた。


(原因)
本件転覆は、若狭湾において釣りを行うにあたり、天候の悪化が予想された状況下、気象海象に対する配慮が不十分で、発航を取り止めず、高起した波を受けて船体が持ち上げられ、右舷側に大傾斜したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、若狭湾において釣りを行うにあたり、事前に入手した気象情報によって天候が悪化するおそれのあることを知った場合、船体等が危険な状態に陥ることのないよう、気象海象に配慮して発航を取り止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか転覆するような事態にはならないと思い、発航を取り止めなかった職務上の過失により、沖合から帰航中、高起した波を受けて船体が持ち上げられ、右舷側に大傾斜して春昌丸の転覆を招き、機関に濡損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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