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2000年(平成12年)

平成11年長審第70号
    件名
漁船第十八泰洋丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成12年3月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、保田稔、坂爪靖
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:第十八泰洋丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
主機、発電機、発電機駆動用ディーゼル機関、ビルジポンプ等の濡損

    原因
船内を無人にする際、機関室ビルジの点検不十分

    主文
本件遭難は、船内を無人とするにあたっての機関室ビルジの点検が不十分で、舵室から機関室への浸水が放置されたままであったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年1月8日09時ごろ
長崎県奈留島港
2 船舶の要目

3 事実の経過

ところで、舵軸管の封水装置は、同管の内面に密着させた内径101ミリの黄銅製のブッシュ、グリースを浸透させた幅19ミリの綿糸製角編みのパッキン4本、黄銅製のパッキン押さえ、ステンレス鋼製のパッキン押さえボルト3本及び2個一組としたステンレス鋼製の同ボルト用ナットから構成されていたところ、経年により、徐々にブッシュが磨耗するとともに、パッキンが劣化しつつあった。
また、舵室にたまったビルジは、同室最前部隔壁の下端近くに開けられた直径19ミリの2個の穴から、船員室床板の下方船首尾線沿いに設けられた長さ約1.4メートル幅約0.7メートル深さ0.1ないし0.2メートルのビルジ溝に入り、同隔壁から約0.3メートル前方の間仕切り板に開けられた直径38ミリ及び同19ミリの穴を通り抜けて同溝の最前部に設けられた直径50ミリのビルジ落下口に至り、これからFRP製の船尾管の上に落ちて機関室最後部のビルジだまりに導かれるようになっていたが、舵室の前示架台内部は狭くて調理室の上からではほとんど点検できなかったうえ、船員室内に人がいても、ビルジ溝の上に敷かれた床板によってビルジが流れる様子は見えず、停泊中の主機や発電機を停止した状況でなければ、ビルジが流れる音は聞こえなかった。

一方、A受審人は、平成2年3月本船に船長として乗組み、甲板員ら3人とともに日帰り操業に従事しながら、定格出力0.08キロワットの電動機駆動のビルジポンプの自動運転によって機関室ビルジの排出を行い、停泊中に船員室で休息した乗組員からの通報などによって舵軸管封水装置からの水漏れが多くなったことを知った際には、パッキン押さえボルト用ナットを増締めして漏水量を減じていたところ、同10年6月の船底掃除のための入渠時と同年10月の停泊時とに漏水量が多くなったことを知って同ナットの増締めを行ったのち、正月休みとこれに続く船底掃除のための入渠に備え、同年12月30日長崎県奈留島港に入港した。
翌11年1月7日10時ごろA受審人は、乗組員とともに、それぞれの自宅から本船に赴いて主機、発電機等を始動し、港内を約200メートル移動して造船所の前の岸壁に至り、船首を北北東に向けて左舷付け係留としたのち、入渠準備を済ませて入渠時刻を翌朝と定め、乗組員全員が離船して船内を無人とすることにしたが、すべての機器を停止したのみで、機関室ビルジの点検を行うことなく、港内移動中、舵軸管封水装置において、パッキンの経年劣化に加え、8日ぶりに舵軸を作動させたことにより、パッキン押さえの締付けが著しく緩くなって異常な水漏れを生じ、舵室から船員室を経て多量の海水が機関室に浸入するようなったことに気付かないまま、13時ごろ空船で船首0.7メートル船尾1.5メートルの喫水となった本船を乗組員とともに離れ、船内を無人として自宅に戻った。
こうして本船は、船内が無人となったまま造船所の前の岸壁に係留中、舵軸管封水装置から漏れた海水が機関室に浸入し続け、同月8日09時ごろ奈留島港泊A防波堤灯台から真方位320度450メートルばかりの地点において、帰船したA受審人により、船尾が著しく沈下し、機関室に多量の海水が浸入しているのを発見された。
当時、天候は雪で風力3の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、港内は穏やかであった。
A受審人は、直ちに関係先に救助を求め、来援した消防自動車によって排水を行い、後日、濡損を生じた主機、発電機、発電機駆動用ディーゼル機関、ビルジポンプ等の修理を行うとともに、舵軸管封水装置のパッキンと蓄電池を新替えした。


(原因)
本件遭難は、長崎県奈留島港内を移動したのち、船内を無人とするにあたり、機関室ビルジの点検が不十分で、舵軸管封水装置の異常な水漏れによる舵室から機関室への浸水が放置され、船内を無人として岸壁係留中、多量の海水が機関室に浸入したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、長崎県奈留島港において、入渠のため、港内を移動して造船所の前の岸壁に係留したのち、乗組員とともに離船することにした場合、離船すると船内が無人となって異常事態に対応できず、以前にも舵軸管封水装置からの水漏れが多くなったことがあったから、舵室から機関室への異常な浸水を見逃すことのないよう、機関室ビルジの点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船内のすべての機器を停止したのみで船内を無人とし、機関室ビルジの点検を十分に行わなかった職務上の過失により、舵軸管封水装置の異常な水漏れによる舵室から機関室への浸水に気付かないで、機関室への多量な海水浸入を招き、主機、発電機、蓄電池等に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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