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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年8月15日15時45分 沖縄県西表島西方沖 2 船舶の要目 船種船名
漁船第一福吉丸 総トン数 2.50トン 登録長 9.70メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
169キロワット 3 事実の経過 第一福吉丸(以下「福吉丸」という。)は、昭和54年3月に進水し、専ら一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、船体の中央部に機関室が、同室囲壁の後方に操舵室がそれぞれ配置され、機関室の中央部に、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社製の4CX−GT型と称するディーゼル機関を装備し、船首側右舷に発電機及びラインホーラ用ポンプが、同左舷に操舵機用油圧ポンプが据え付けられ、それぞれ主機の動力取出軸を介して駆動され、操舵室から主機が遠隔操縦されるようになっていた。 主機の冷却海水系統は、海水吸入コックから直結の冷却海水ポンプによって吸引加圧された海水が、主機及び逆転減速機用潤滑油冷却器並びに清水冷却器を順次冷却したのち、船外排出管から排出されるようになっていた。 ところで、海水吸入コックは、主機右舷側の船底外板に取り付けられ、菱形フランジを形成する上面に、ゴムシート製ガスケットを挟んで内径が44.5ミリメートルのゴム製の冷却海水ポンプ吸入管に取り付けられた管継手の菱形フランジが接続され、同フランジが2組のボルト及びナット(以下「締付ボルト」という。)で締め付けられていた。また、船底の海水吸入口には、異物が吸引されるのを防止する目的で、直径10センチメートルの目皿が設けられていた。 A受審人は、昭和59年9月に中古の福吉丸を購入して以来、自ら船長として乗り組み、操船のほか機関の運転管理にも当たり、これまで、前示目皿にビニールが引っ掛かって冷却阻害をきたし、港内で主機警報監視盤が警報を発したときに、潜水してビニールを取り除いたことがあった。 福吉丸は、A受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、平成11年8月15日08時00分沖縄県石垣島の登野城漁港を発し、11時30分同県西表島西方の外離島と内離島の中間地点付近において錨泊し、操業時に使用する石を採取し、13時30分同地点を発して15.0ノットの速力で同県仲ノ御神島へ向けて進行中、14時15分操舵室の主機警報監視盤が警報を発した。 A受審人は、どの警報が鳴ったのかを調べないまま、錨泊して目皿を掃除することとして、14時30分水深160メートル底質が岩の仲間港南防波堤灯台から真方位273度11.9海里の地点に錨泊したものの、港内でないことから、潜水して掃除することを断念し、機関室から冷却海水系統の閉塞の状況を点検することとした。 A受審人は、主機の冷機を行い、15時30分から機関室に赴き、海水吸入コックがあることに気付かず、今まで冷却海水の取水のために開放されていた同コックを閉鎖することなく、同コックに接続する冷却海水ポンプ吸入管のフランジを取り外しにかかり、締付ボルトを取り外したところ、機関室内の油の臭いで気分が悪くなり、締付ボルトをそのまま放置して甲板上に出たが、折から押し寄せた波を受けて船体が大きく動揺し、身体の平衡を崩して海中に転落した。 こうして、無人となった福吉丸は、前示フランジのガスケットが固着していてしばらくは漏水しなかったものの、その後、水圧を受けて同フランジが外れ、開放状態のままの海水吸入コックから多量の海水が機関室に流入し、15時45分前示錨泊地点において、機関室が浸水した。 当時、天候は晴で風力4の西風が吹いていた。 この結果、福吉丸は、機関室全体が浸水し、主機、補機及び各種電気機器等にぬれ損を生じるとともに、船体が振れ回り、いつしか外径8ミリメートルの錨索が切断して漂流し、浅礁に乗り揚げ、船尾船底外板に破口を生じた。 また、A受審人は、海中に転落後、自力で岸に泳ぎ着き、海岸沿いに歩いて福吉丸を探したものの、衰弱して歩けなくなり、同17日救助を待っていたところを発見され、病院に搬送されて治療を受けた。
(原因) 本件遭難は、海水吸入コックに接続する配管を取り外す際、同コックの取扱いが不適切で、配管が取り外され、開放状態のままの同コックから多量の海水が機関室に流入したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、海水吸入コックに接続する配管を取り外す場合、今まで冷却海水の取水のために同コックが開放状態にあったのであるから、同室に海水が流入することのないよう、同コックを閉鎖すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同コックがあることに気付かず、同コックを閉鎖しなかった職務上の過失により、配管が取り外され、開放状態のままの同コックから多量の海水が機関室に流入する事態を招き、主機、補機及び各種電気機器等にぬれ損を生じさせるとともに、船体の振れ回りによって錨索が切断して漂流し、浅礁に乗り揚げ、船尾船底外板に破口を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |