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2000年(平成12年)

平成11年那審第24号
    件名
交通船真優III遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成12年3月7日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

花原敏朗、金城隆支、清重隆彦
    理事官
寺戸和夫

    受審人
A 職名:前真優III船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:真優III船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
プロペラ軸及びプロペラが曲損、V型ブラケットの張出軸受付け根に亀裂

    原因
フランジの溶接不十分

    主文
本件遭難は、舵軸と舵板を水平フランジ継手で接合する際、フランジの溶接が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月6日11時00分
沖縄県渡名喜島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 交通船真優III
総トン数 6.68トン
全長 14.97メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 257キロワット
3 事実の経過
真優III(以下「真優」という。)は、昭和57年1月に進水したFRP製交通船で、平成8年1月からA受審人が船名を日吉丸として所有し、自ら船長として乗り組み、運航していたものを、同9年12月にB受審人の父親であるCが購入し、専らダイビング客の交通の目的で運航されていた。
真優は、直径710ミリメートル(以下「ミリ」という。)プロペラピッチ690ミリの3翼一体型固定ピッチプロペラを装備し、直径60ミリ全長3,180ミリのプロペラ軸が船尾後方の張出軸受で支持され、同軸受の上方が長さ約420ミリ厚さ約20ミリのV型ブラケットで船尾外板に、また、同軸受の下方が長さ約380ミリ厚さ約35ミリのブラケットで船尾船底から舵軸の下端まで延びたシューピースと称する部材(以下「シューピース」という。)にそれぞれ固定されていた。

真優の操舵装置は、油圧で駆動され、外径60ミリのステンレス製の舵軸と幅360ミリの鋼板製舵板が一体になっていて、舵軸の上端が舵駆動用油圧シリンダに連結し、また、シューピースの先端が舵板の底部のラダーピントルを支え、舵の重量を支持するようになっていた。
A受審人は、同9年6月、台風の接近に伴い、真優を上架した時、船台にシューピースを当て、プロペラ軸及びシューピースに曲損を生じさせ、その影響で舵軸の軸心にも狂いが出たことから、プロペラ軸を新替えし、船尾船底から張出軸受下方のブラケットの間で曲がりが生じたシューピースは、その部分を切断して取り外し、舵軸を舵板上端の上方で切断してフランジを溶接し、舵軸と舵板を水平フランジ継手(以下「継手」という。)で接合するようにして軸心を合わせ、さらに、舵板の後端縁に80ミリの鋼板を溶接して舵面積を大きくするなどの修理を行うこととした。

ところで、舵軸は、航行中に繰り返しねじり及び曲げモーメントを同時に受けることから、繰返し応力が発生して疲労を生じ、強度が低下するおそれがあり、舵軸にフランジを溶接して継手にするに当たっては、溶接部の疲労強度を考慮し、舵軸に挿入したフランジの内外面の両方から全周にわたって肉盛するなど溶接を十分に行う必要があった。
A受審人は、以前に鉄工所を経営していて、溶接作業に従事したことがあったので、舵の溶接修理の経験はなかったものの、前示修理を行うに当たり、溶接を自分で行うこととし、アーク溶接で舵板側の舵軸にフランジを取り付けたが、舵軸端面とフランジの内側を仮付けしてフランジの外側から全周にわたって溶接したものの、溶け込みが不良で、また、仮付けした面については、全周にわたって肉盛を行わず、航行中の溶接部に作用する応力に対する疲労強度を考慮して溶接を十分に行うことなく、舵を復旧した。

真優は、引き続き、A受審人が運航し、運転時間が約300時間に達していたが、航行中、舵軸の継手の溶接部には舵面積の増加によってねじり及び曲げモーメントが以前より過大になって繰り返し作用して疲労強度が低下していたところ、前示のとおり所有者が変わり、Cの所有のもと、B受審人が船長として乗り組むようになった。
B受審人は、真優の購入時に、船体の整備を行い、舵軸について、前示修理が行われていたことを知らされていなかったことから、舵の塗装をして舵軸の継手を外観検査したものの異状を認めなかったので、継手を開放するなどの点検までは行わなかった。そして、同人は、平成10年7月に上架して舵の塗装を行ったが、それまで運航に支障がなかったこともあり、継手については注意を払って点検を行わなかった。
こうして、真優は、B受審人が1人で乗り組み、ダイビング客10人を乗せ、船首1.1メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成10年9月6日09時00分那覇港内の泊漁港を発し、沖縄県渡名喜島のグルクノ埼に向かった。

B受審人は、10時05分渡名喜港灯台から真方位113度20.6海里の地点で、針路を真方位288度に定め、12.5ノットの速力で進行中、同時59分右舷船首45度300メートルのところに同航する貨物船を認め、これに追尾してうねりをかわそうとして速力を8.5ノットに減速し、右舵20度をとって同船の航走波を正船首から受けながら続航した。
真優は、航走波が遠ざかったところで、舵を中央に戻そうとしたところ、11時00分渡名喜港灯台から真方位118度9.2海里の地点において、舵軸の継手が、疲労強度がさらに低下して切損し、操舵不能になった。
当時、天候は曇で風力4の南西風が吹き、海上はやや高い波があった。
B受審人は、機関を停止して舵を点検したところ、前示損傷を認め、脱落しかかっていた舵を船上に引き上げ、携帯電話で救助を要請した。
真優は、来援した漁船にえい航されて渡名喜漁港に入航し、のち沖縄県糸満漁港に回航され、精査の結果、プロペラ軸及びプロペラが曲損し、V型ブラケットの張出軸受付け根に亀裂が生じているのが判明し、のち損傷部品の取替え修理が行われた。


(原因)
本件遭難は、舵を修理するに当たり、舵軸と舵板を継手で接合するよう舵軸にフランジを溶接して取り付ける際、溶接が不十分で、航行中、継手の溶接部が繰返し応力を受け、疲労して切損し、操舵不能となったことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、舵を修理するに当たり、舵軸と舵板を継手で接合するよう舵軸にフランジを溶接して取り付ける場合、舵軸には、航行中に繰り返しねじり及び曲げモーメントが作用することがあるから、継手の溶接部に繰返し応力が発生して疲労破壊することのないよう、フランジの内外面の両方から全周にわたって肉盛するなど継手の疲労強度を考慮して溶接を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、継手の疲労強度を考慮して溶接を十分に行わなかった職務上の過失により、継手の溶接部の疲労強度が低下し、航行中、同溶接部が繰返し応力を受け、疲労して切損する事態を招き、操舵不能の状態を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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