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2000年(平成12年)

平成11年門審第64号
    件名
引船雄邦丸作業船第十五清栄丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成12年3月15日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

供田仁男、宮田義憲、西山烝一
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:雄邦丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:第十五清栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
清栄丸・・・機関に濡損

    原因
雄邦丸・・・推進器流の放出状況監視不十分(主因)
清栄丸・・・海水の機関室内への流入防止措置不十分(一因)

    主文
本件遭難は、雄邦丸が、推進器流の放出状況の監視が十分でなかったことによって発生したが、第十五清栄丸が、雄邦丸の推進器流で上甲板上に打ち込んだ海水の機関室内への流入を防ぐための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年6月11日07時40分
鹿児島県志布志港
2 船舶の要目
船種船名 引船雄邦丸 作業船第十五清栄丸
総トン数 196トン 19.98トン
全長 32.83メートル 13.99メートル
幅 9.50メートル 4.40メートル
深さ 4.30メートル 1.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,353キロワット 404キロワット
3 事実の経過
雄邦丸は、コルトノズル付推進器2基から成るZ型推進駆動装置を装備し、主に志布志港における大型船舶の操船補助作業に従事する鋼製引船で、A受審人ほか3人が乗り組み、B指定海難関係人を乗せ、総トン数35,125トン、全長199.65メートルの貨物船ミシシッピー89(以下「ミ号」という。)の入港操船を支援する目的で、船首2.3メートル船尾3.8メートルの喫水をもって、平成10年6月11日06時15分もう1隻の引船浅香丸とともに志布志港港内の係留地を発し、港外で待機する同号に向かった。

A受審人は、自ら操船にあたり、06時40分漂泊中のミ号に到着してB指定海難関係人を移乗させ、トランシーバーによる同指定海難関係人との連絡を操舵室内で一等航海士に行わせ、入航を開始したミ号に同行した。
B指定海難関係人は、鹿児島水先区水先免状を受有し、しばしば同免状の区域外である志布志港に赴き、水先業務を行っていたもので、ミ号を第1突堤のC岸壁に右舷入船付けする予定で同号に移乗後、直ちに嚮(きょう)導を開始した。
第1突堤は、南西方に開口する志布志港の港奥部に築造された埠頭で、前川の左岸河口部から南東方に延び、長さ270メートルの南西面がC岸壁と称され、同岸壁の北西端付け根から南西方へ同岸壁と70度の挟角をもった通称2突F岸(以下「F岸壁」という。)が315メートル延び、第1突堤とほぼ平行して築造された第2突堤に続いていた。

06時55分B指定海難関係人は、沖防波堤の南西端付近に達したとき、ミ号の左舷船首部に雄邦丸の、同左舷船尾部に浅香丸のタグラインをそれぞれ取らせ、両引船の支援を得て港内を北上し、07時22分志布志港防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から193度(真方位、以下同じ。)905メートルの地点に至り、第2突堤の南東方に差しかかったとき、F岸壁に起重機船第18清海号(以下「清海号」という。)が係留し、その舷側に船首を南西方に向けた第十五清栄丸(以下「清栄丸」という。)が接舷しているのを視認した。
B指定海難関係人は、これまでに幾度かミ号をC岸壁に右舷入船付けさせた経験から、清海号及び清栄丸の存在がミ号の操船に支障を来すものではないことを認めて、操舵室内から右舷側ウイングに移動し、間もなくわずかな前進行きあしをもってC岸壁に並んだミ号の船首尾から同岸壁にそれぞれ係留索をとり、係留作業を開始した。

07時32分B指定海難関係人は、雄邦丸及び浅香丸に極微速力前進でミ号を真横に押すよう指示を与え、同時35分ほぼ着岸予定位置に達して行きあしを止め、両船に押え込みの態勢をとらせて係留作業を行ううち、ミ号を2メートル後退させることとなり、船尾索を巻き込んだところ、船首部が岸壁から離れたため、同時37分雄邦丸に対して「もう少し力をかけて押せ。」と指示を与えた。
一方、A受審人は、07時22分ミ号が第2突堤の南東方に差しかかったとき、清海号及び清栄丸を初めて視認し、同時32分C岸壁に並んだミ号に頭付けして、船首を057度に向け、極微速力前進で真横に押し始めたころ、自船の左舷船尾30度70メートルのところに清栄丸が位置しているのを認め、同時35分ほぼ着岸予定位置に達したミ号に対し、極微速力前進のまま、押え込みの態勢をとった。

A受審人は、B指定海難関係人からもう少し力をかけて押すよう指示を受け、機関回転数を上げることとしたが、これまでに推進器流による事故がなかったことから後方を確認しなくとも大丈夫と思い、強い推進器流によって高起した波が清栄丸に達して上甲板上に打ち込むことのないよう、操舵室内で水先人との連絡にあたっていた一等航海士に後方の見張りを命ずるなど、推進器流の放出状況を十分に監視することなく、直ちに機関を半速力前進に操作した。
A受審人は、機関回転数の上昇とともに雄邦丸船首部に取り付けられたタイヤフェンダーが変形する様子から、船首を抑えられた自船の船尾が左方に振れ始めたことを知ったものの、真横方向に押せとのB指定海難関係人の指示に反し、船尾が清栄丸の方向に振れるままにしてミ号を押し続けるうち、強い推進器流が清栄丸に向かって放出されるようになり、同推進器流によって高起した波が同船に達し、左舷側ブルワークの排水口を通して上甲板上に打ち込み、07時40分防波堤灯台から239度420メートルの地点において、清栄丸は、甲板室左舷側壁の機関室出入口から海水が機関室内に流入した。

当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期であった。
A受審人は、浅香丸船長からの連絡で事態を知り、ミ号の船尾方に移動して機関を極微速力前進に復し、間もなく係留支援作業を終えた。
また、清栄丸は、一層甲板型の鋼製交通船兼作業船で、やや大きな舷弧を有する上甲板下を船首から順に船首水槽、倉庫、長さ6.0メートルの機関室、燃料油槽及び空所と区画して、機関室内下部の両舷側に燃料油槽を配し、上甲板上には船首端から2.7メートル後方に長さ7.2メートル、幅2.5メートル、船体中央部における同甲板上の高さ1.3メートルの甲板室及び同室の前部上方に操舵室をそれぞれ設けていた。
甲板室は、前部を倉庫、中央部の5.0メートルを機関室囲壁、後部を燃料油槽とし、左舷側壁の船体中央部付近に高さ80センチメートル(以下「センチ」という。)、幅60センチの機関室出入口を備え、水密扉及びクリップで密閉できるようになっており、同出入口下端の上甲板上の高さが30センチであった。

上甲板は、全周にブルワークを有し、その高さは船首部で90センチ、これより後方が45センチで、船体の中央部及び後部のブルワーク下部に長さ90センチ、高さ10センチの排水口が各舷5箇所設置されていた。
清栄丸は、C受審人が1人で乗り組み、他の作業船と共に志布志港南埠頭南西方の港内における消波ブロック据付け工事に従事して、長さ42.0メートル、幅17.0メートルの箱形をした清海号の曳航業務に携わっていたところ、同月10日11時00分F岸壁に左舷付けで係留した同号の船首部右舷側にその右舷側を対し、船尾をC岸壁から約100メートル離した前示の地点において、いずれも直径4センチの化学繊維製船首索及び船尾索各2本を同号のボラードに取って接舷し、船首0.85メートル船尾2.50メートルの喫水をもって、船体後部付近における上甲板の最も低いところが海面から約10センチの状態で待機した。

翌11日07時00分C受審人は、甲板室左舷側壁の機関室出入口の水密扉を閉じたものの、クリップを掛けないまま、清栄丸から清海号に移乗し、同号船尾部に設けられた甲板室内で作業の打合せを始め、同時32分舷側付近に水音を聞いて甲板上に出たとき、雄邦丸が弱い推進器流を放出しながらミ号を押しており、同推進器流で生じた波の一部が清海号の右舷側中央部付近まで来ているのを知り、甲板上に立ってその様子を眺めた。
07時37分C受審人は、雄邦丸が推進器流の放出を強めるとともに船尾を清栄丸の方に振り始め、程なくして同船に船尾を向け、推進器流によって高起した波が清栄丸に達し、左舷側ブルワークの排水口を通して上甲板上に打ち込むのを認めたが、大声で合図をすれば雄邦丸が気付いて推進器流の放出を止めてくれるものと思い、直ちに清栄丸に帰船して甲板室左舷側壁の機関室出入口水密扉をクリップで閉鎖するなど、上甲板上に打ち込んだ海水の機関室内への流入を防ぐための措置をとることなく、清海号の甲板上から雄邦丸に向かって両手を振り、「ストップ、ストップ。」と叫び続けた。

清栄丸は、ブルワークと甲板室左舷側壁との間の上甲板上に海水が滞留し、左舷側に傾いたことから、同側壁の機関室出入口水密扉が自重で開き、前示のとおり海水が機関室内に流入した。
その結果、清栄丸は、機関に濡損を生じ、滞留水による傾斜の増大とともにブルワークを越えて海水が打ち込むようになり、水密扉を閉鎖することができない状態で機関室内への海水の流入が続き、雄邦丸が推進器流の放出を停止するのを待って、傾斜復旧作業が試みられたものの、08時05分接舷地点において沈没し、のち引き揚げられて修理された。


(原因)
本件遭難は、志布志港において、大型船の係留作業を支援する雄邦丸が、推進器流の放出状況の監視が不十分で、起重機船に接舷中の清栄丸に向けて強い推進器流を放出し、同推進器流によって高起した波を上甲板上に打ち込ませ、海水が機関室内に流入したことによって発生したが、清栄丸が、雄邦丸の推進器流で上甲板上に打ち込んだ海水の機関室内への流入を防ぐための措置をとらなかったことも一因をなすものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、志布志港において、大型船の船首部に頭付けし、極微速力前進で押しながら係留作業を支援中、機関回転数を上げる場合、左舷船尾方近距離に清栄丸が位置していたから、強い推進器流によって高起した波が同船に達して上甲板上に打ち込むことのないよう、操舵室内で水先人との連絡にあたっていた一等航海士に後方の見張りを命ずるなど、推進器流の放出状況を十分に監視すべき注意義務があった。しかし、同人は、これまでに推進器流による事故がなかったことから後方を確認しなくとも大丈夫と思い、推進器流の放出状況を十分に監視しなかった職務上の過失により、清栄丸に向けて強い推進器流を放出し、同船の機関室内に海水が流入して遭難を招き、機関に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

C受審人は、志布志港において、接舷している起重機船に移乗中、雄邦丸の推進器流によって高起した波が清栄丸に達し、左舷側ブルワークの排水口を通して上甲板上に打ち込むのを認めた場合、甲板室左舷側壁に機関室出入口があったから、直ちに清栄丸に帰船して同室出入口水密扉をクリップで閉鎖するなど、上甲板上に打ち込んだ海水の機関室内への流入を防ぐための措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、大声で合図をすれば雄邦丸が気付いて推進器流の放出を止めてくれるものと思い、上甲板上に打ち込んだ海水の機関室内への流入を防ぐための措置をとらなかった職務上の過失により、機関室内に海水を流入させて遭難を招き、機関に濡損を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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