2000年（平成１２年）

号	平成11年長審第46号
件名	漁船一幸丸遭難事件
事件区分	遭難事件
言渡年月日	平成12年2月25日
審判庁区分	地方海難審判庁
	長崎地方海難審判庁
	（原清澄、安部雅生、坂爪靖）
理事官	畑中美秀
受審人	A　職名：一幸丸船長　海技免状：一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
損害	舵とプロペラに曲損、船底全面にわたって大小無数の破口、機関室と魚倉に浸水、船体が2つに折れ、のちその場で解体、船長が打撲傷
原因	圧流防止措置不十分

主文	本件遭難は、圧流防止措置が不十分であったことによって発生したものである。 受審人Aを戒告する。
理由
	（事実） 1　事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年6月21日01時00分 長崎県福江島東端沖合 2　船舶の要目 船種船名 漁船一幸丸 総トン数 2.44トン 登録長 7.77メートル 機関の種類 ディーゼル機関 漁船法馬力数 20 3　事実の経過 一幸丸は、昭和50年2月に進水し、船体中央やや後方に操舵室を設けたFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、あじの一本釣りなどを行う目的で、船首0.40メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、平成10年6月20日16時00分長崎県五島列島福江島の崎山漁港を発し、同漁港南方2.5海里ばかりの漁場に向かった。 16時20分A受審人は、水深が70メートルばかりの漁場に至り、錨泊して操業を始めたが、釣果が少ないので17時ごろあじ釣りを中止し、集魚灯を点じていかを釣り始めたものの、釣果が全くなかったので、19時ごろ操業を一時中断し、集魚灯を点灯したまま、居住区に入って休息をとった。 23時50分ごろA受審人は、起き出して再びあじ釣りを始めたが、依然として釣果がなかったので、翌21日00時20分操業を切り上げて帰港することにし、同時38分臼岳125メートル頂（以下「臼岳山頂」という。）から140.5度（真方位、以下同じ。）2.0海里の地点で、揚錨を終えて機関回転数を毎分1,000にかけ、針路を000度に定め、7.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 00時55分A受審人は、臼岳山頂から069.5度2,500メートルの地点に達したとき、機関室から焦げ臭い匂いがしてくるのに気付き、機関を停止して機関室内の点検にあたることにし、折からの強い南東風で400メートルばかり西方の陸岸に向けて圧流されるおそれがあったが、短時間の漂泊なら大丈夫と思い、いったん投錨したり、沖合に出したりするなどの圧流防止措置をとることなく、その場で漂泊して機関室内に入り、主機駆動発電機のVベルトのすべりが焦げ臭い匂いの原因と分かった。 こうして一幸丸は、A受審人が主機駆動発電機のVベルト取外し作業中、漂泊開始地点北西方470メートルのカルマタ瀬に向けて圧流され、同人が同作業を終えて操舵室に戻り、臼岳山頂から060度2,350メートルの地点において、機関を始動させると同時にプロペラが同瀬の岩礁にあたって曲損し、01時00分航行不能となった。 当時、天候は雨で風力5の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。 遭難の結果、舵とプロペラに曲損を生じたほか、その後、船底全面にわたって大小無数の破口を生じて機関室と魚倉に浸水し、2日後には船体が2つに折れ、のちその場で解体された。また、A受審人は、打撲傷を負ったが、一幸丸を放置して陸岸にたどり着き、歩いて自宅に戻った。 （原因） 本件遭難は、夜間、強い南東風が吹く状況下、五島列島福江島東岸のカルマタ瀬南東方至近沖合を北上中、機関を停止して同室内の点検にあたる際、錨泊したり、沖に出したりするなどの圧流防止措置が不十分で、カルマタ瀬に向けて圧流されたことによって発生したものである。 （受審人の所為） A受審人は、夜間、五島列島福江島東岸のカルマタ瀬南東方至近沖合を北上中、機関室内に異常を感じ、機関を停止して同室内の点検にあたる場合、折から強い南東風が吹いていたのであるから、圧流されて同瀬に著しく接近することのないよう、錨泊したり、沖に出したりするなどの圧流防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、短時間の漂泊なら大丈夫と思い、圧流防止措置をとらなかった職務上の過失により、漂泊開始地点北西方のカルマタ瀬に向けて圧流され、プロペラと舵に曲損を、船底外板全面にわたる破口などを生じさせ、船体がその場で解体されるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 よって主文のとおり裁決する。