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2000年(平成12年)

平成11年長審第53号
    件名
漁船順風丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成12年2月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、原清澄、坂爪靖
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:順風丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
主機、補機、発電機等濡損

    原因
船尾管軸封装置の点検不十分

    主文
本件遭難は、船尾管軸封装置の点検が不十分で、同装置からの異常な海水漏れが放置されていたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年12月24日17時25分ごろ
長崎県三重式見港
2 船舶の要目
船種船名 漁船順風丸
総トン数 68.38トン
登録長 22.53メートル
幅 4.65メートル
深さ 2.19メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 558キロワット
回転数 毎分1,400
3 事実の経過
順風丸は、昭和54年7月に進水した延縄漁業に従事する一層甲板中央船橋型のFRP製漁船で、上甲板下には、船首側から順に船首倉庫、漁具庫、魚倉、長さ6.0メートルの機関室、長さ5.5メートルの船員室等を配置して機関室前部隔壁の位置を船体中央とし、機関室のほぼ中央部に主機を、主機の前方に冷凍機を、主機の左右両舷側に船内電源用の発電機を直結駆動するディーゼル機関(以下「補機」という。)をそれぞれ備え、機関室の床板の高さが基線から約0.6メートルであった。そして、船員室の前部下方は、左右両舷側が燃料油タンク、中央部が長さ2.2メートル基線からの高さ0.8メートル上面の幅1.0メートル下面の幅0.3メートルないし0.5メートルの軸室となっていて、軸室内は、中間軸、中間軸受、プロペラ軸、機関部品棚等があって狭く、機関室から軸室に直接入ることができなかったので、軸室内に入るには、船員室の床板を外さなければならなかった。
越えて平成5年1月本船は、A受審人経営の有限会社R水産が使用するために同人の長男Bの所有となり、同年11月の定期検査時に魚倉の改造、ラインホーラーの撤去、甲板クレーンの新設、冷凍機の撤去、機関室前部隔壁の1.5メートル船尾方への移設等を行ったうえ、主機、中間軸、プロペラ軸、プロペラ、船尾管軸封装置等を換装し、その後、同社所属の旋網漁業船団の運搬船となり、毎年冬分のいわし漁に従事していたものの、いわし漁が不良となったので、同7年7月以降、平素は長崎県矢神漁港港奥の防波堤に係留され、主として年末の数日間に行う同県三重式見港への活魚輸送時と、年に1回ないし2回行う船底掃除などのための同県佐世保港への往復時のみ、A受審人が機関長、同人の長男が船長として乗り組んで運航していた。


また、船尾管軸封装置は、内部の水漏れ点検用として、パッキンボックスの下部にピーコックを取り付けてあり、何らかの原因によって内部から多量の水が漏れて船内に浸入するようになった場合には、シールリングの外側とパッキンボックスの内側との間に軽く挿入してある非常用パッキンを、パッキン押さえで締め付けて船内への浸水量を減ずるようになっていた。

一方、A受審人は、前述のように、断続的に長期係留後の本船に乗り組み、同9年11月の船底掃除の際にプロペラ軸の抜出し検査を受け、その後、受有する海技免状が失効したことに気付かないまま、同年12月末の活魚輸送と翌年11月の船底掃除のための佐世保港往復の航海に従事したが、船尾管軸封装置は従来のグランドパッキン方式と異なるメカニカルシール方式で、他船においても支障を生じなかったので、放置しておいても大丈夫と思い、船員室の床板を外して同装置の状況を見たり、機関室から軸室内のビルジのたまり具合を調べたりするなど、同装置に対する点検を行うことなく、いつしか同装置のウェッジリング締付ボルトが緩んでシールリングが徐々に船首側に移動し、シールリングとシートリングとの間からの海水漏れが異常になったことに気付かなかった。
次いで、同10年12月24日A受審人は、1箇月余り矢神漁港に係留してあった本船に、船長と甲板員1人とともに乗り組み、主機、発電機等を始動して09時20分ごろ同漁港を発したものの、依然として船尾管軸封装置の点検を行わなかったので、同装置からの異常な海水漏れに気付かないまま機関室を無人とし、ほどなく同漁港内の養殖場に寄せてぶりやかんぱちなどの活魚約3トンを積み取り、船首1.4メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、11時ごろ養殖場を離れて航行中、シールリングが船首側に大きく移動するとともに、パッキン押さえ取付ボルトのナットが緩み、非常用パッキン挿入箇所から海水が噴出して機関室に浸入することになったことにも気付かないで、15時30分ごろ三重式見港の岸壁に右舷付けとし、16時ごろ所用のために離船した。
こうして本船は、機関室に多量の海水が浸入するまま、同室を無人として船長と甲板員の2人が前部甲板上で活魚の水揚げ中、補機が海水に漬かるようになって回転数の変動をきたし、これに気付いた船長が機関室内をのぞいたところ、機関室の床板の上にまで浸水しているのを認め、船内備え付けの排水ポンプによって機関室の排水にかかろうとしたものの、17時25分ごろ三重式見港三重南防波堤灯台から真方位059度1,520メートルばかりの地点において停電し、機関室の排水も活魚の水揚げも不能となった。

当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は低潮時で、海上は穏やかであった。
船長は、直ちに関係先に救助を求め、来援した巡視艇や潜水夫などにより、機関室の排水と浸水応急防止処置を行い、後日、船尾管軸封装置の修理のほか、濡損した主機、補機、発電機等の修理を行い、左舷補機については新替えし、機関室ビルジの警報装置を新設した。


(原因)
本件遭難は、船員室下方の狭い軸室に設置されたメカニカルシール方式の船尾管軸封装置に対する点検が不十分で、同装置からの異常な海水漏れが放置され、長崎県三重式見港において、機関室を無人として活魚の水揚げ中、多量の海水が機関室に浸入したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、長期係留後の航海に従事する場合、船尾管軸封装置に支障を生ずると多量の海水が機関室に浸入するおそれがあるから、同装置の異状を放置することのないよう、船員室の床板を外して同装置の状況を見たり、機関室から軸室内のビルジのたまり具合を調べたりするなど、同装置に対する点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同装置はメカニカルシール方式で、他船においても支障を生じたことがなかったので、放置しておいても大丈夫と思い、同装置に対する点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同装置からの異常な海水漏れに気付かないで機関室浸水を招き、主機、補機、発電機等に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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