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2000年(平成12年)

平成11年広審第11号
    件名
押船第八福栄丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成12年2月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉崎忠志、黒岩貢、中谷啓二
    理事官
弓田斐雄

    受審人
A 職名:第八福栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
機関室、船員室兼倉庫、舵機用油圧ポンプ室、舵機室及び操舵室などに浸水、船内の各機器がぬれ損

    原因
冷却海水管開口部からの浸水防止措置不十分

    主文
本件遭難は、主機空気冷却器を整備のため取り外した際、冷却海水管開口部からの浸水防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月11日08時00分
柿浦漁港
2 船舶の要目
船種船名 押船第八福栄丸
総トン数 19.00トン
全長 13.47メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 441キロワット
3 事実の経過
第八福栄丸(以下「福栄丸」という。)は、平成4年12月に進水した、幅5.19メートル深さ2.00メートルの鋼製押船で、甲板下は船首から順にフォアピークタンク、船員室兼倉庫、機関室、両舷に容量3.2キロリットルの2番燃料油タンクを設けた舵機用油圧ポンプ室、次いで両舷に容量2.2キロリットルの清水タンクを設けた舵機室となっており、甲板上には船体中央に機関室囲壁が、その前部に、流し台及び便所のほか船員室兼倉庫に通じる階段などを備えた居住区囲壁が設けられ、同囲壁上部に立てられた高さ約4.3メートルの支柱4本の上に操舵室が備えられていた。

福栄丸の開口部は、居住区囲壁の左舷側、機関室囲壁の右舷側後部及び同囲壁の左舷側前部に鋼製風雨密戸各1個が、船尾甲板上の左舷側前部に舵機用油圧ポンプ室のさぶた式ハッチ及びその後部に舵機室の同ハッチがそれぞれ設けられていた。
機関室には、中央に阪神内燃機工業株式会社製の6LUDA26G型と称するディーゼル機関を装備し、同機の動力取出軸に装着したプーリによりベルト駆動する電圧220ボルト容量20キロボルトアンペアの交流発電機が、左舷側前部に配電盤及び変圧器、その後部に電動式空気圧縮機などが、右舷側に電動式の潤滑油ポンプ、燃料油移送ポンプ、1号・2号海水ポンプ、主機の潤滑油冷却器及び清水冷却器などが、後部両舷に容量3.0キロリットルの1番燃料油タンクがそれぞれ備えられていた。
主機の冷却海水系統は、右舷側船底にある高位海水吸入弁、又は低位海水吸入弁から1号、又は2号の海水ポンプによって吸引加圧された海水が、呼び径80ミリメートル(以下「ミリ」という。)の海水入口管で導かれ、潤滑油冷却器、清水冷却器及び主機右舷側後部の下方に設けられた空気冷却器を順に経て機関室床下に敷設された海水出口管を通り、右舷側外板にある主機船外吐出弁から船外に排出され、また、空気冷却器に至る海水入口管から分岐した呼び径50ミリの海水入口管で導かれた海水が、クラッチ潤滑油冷却器を経て、主機船外吐出弁より約60センチメートル(以下「センチ」という。)船首方に位置するクラッチ船外吐出弁から排出されるようになっていたが、各冷却器には海水出入口弁が設けられていなかった。

台船(船名なし)は、主に砕石及び土砂などの輸送に従事する長さ41メートル幅12メートル深さ3メートルの暴露甲板積みの鋼製台船で、甲板上には、船首端中央に長さ10メートル幅6メートル重量約20トンの跳ね上げ式車両通行用ランプウェイが、船首両舷端にフォアピークを上下に貫通する直径約90センチの穴部に挿入した、長さ15メートル直径70センチ重量約6トンの鋼製係留用杭(以下「スパッド」という。)が、両スパッドの後部に電動式ウインチ各1台が、船体中央に長さ24メートル幅11.6メートルの倉口が、船尾甲板の中央に長さ約21メートルのブームを有する旋回式ジブクレーン、同クレーンの後部に電圧220ボルト容量60キロボルトアンペアの箱形容器に収められた原動機付交流発電機2台及び同甲板の両舷に同ウインチ各1台などがそれぞれ装備されていた。
また、台船は、空倉時、倉内の左舷側後部に重量約22トンのブルドーザーを、船体中央線よりやや右舷寄りに重量約9トンのグラブバケットを置いていたこともあって、左舷側に船体傾斜することが多かった。
ところで、福栄丸と台船との連結方法は、台船船尾中央の凹部に福栄丸の船首部を入れ、福栄丸の船尾甲板両舷にある各連結用ビットから先端にワイヤロープを取り付けた直径70ミリのクレモナ製係留索各3本を延出し、これを台船の船尾甲板両舷にある各連結用ビットにとって固縛しており、各係留索の増締めができるよう同ビット近くに電動式ウインチのほかに、油圧シリンダが1台ずつ設けられていた。
同10年3月26日福栄丸は、台船に積み込んだ砕石を山口県上関港で揚げ終え、空倉となった台船を押航して広島県安芸郡柿浦漁港の係留地に向かい、17時ごろ柿浦港沖中防波堤西灯台から真方位356度1,630メートルのところにある、陸岸から海面に向かって穏やかに傾斜した幅約4.5メートルの桟橋に至り、2番燃料油タンク及び清水タンクをほぼ満杯のまま、船首1.00メートル船尾2.60メートルの喫水をもって、台船の船首を同桟橋前端に直面した西北西方に向け、両スパッドを海底に打ち込んでランプウエイを渡し、台船とともに船体をやや左舷傾斜した連結状態で係留された。

A受審人は、主に砕石、土砂などの運搬及び販売を業務とするR有限会社の代表取締役で、自ら船長として、息子である機関長とともに福栄丸に乗り組んで運航に従事していたが、仕事量の減少によりしばらく運航を中止することとなったので、翌27日から福栄丸と台船の整備作業にあたった。
同年4月7日9時ごろA受審人は、スパッドの先端損傷部を溶接修理するため、陸岸から約300メートル沖合で水深約16メートルのところに台船を押航し、いったん水中に入れたスパッドを旋回式ジブクレーンで吊り上げ、これを倉内に置いて溶接修理したのち、14時ごろ元の係留地に戻り、再び両スパッドを打ち込んで桟橋にランプウェイを渡し、係留を開始したときと同じ状態で福栄丸と台船を再び係留した。
越えて10日09時ごろA受審人は、福栄丸に赴き、主機空気冷却器海水側の掃除を繰り返しても同冷却器の冷却効果が向上せず、主機の排気温度が低下しないことから、かねてより同冷却器を取外しのうえ薬品洗浄を予定していたが、機関長が台船のウインチなどのワイヤロープ整備作業に連日従事していて多忙であったので、機関長に連絡しないまま1人で同洗浄を行うこととした。

このとき、A受審人は、1番燃料油タンクがほぼ空であったものの、清水タンク及び2番燃料油タンクが満杯に近い状態の場合には主機・クラッチ船外吐出弁の各排水口がそれぞれ水面下となるうえ、両船外吐出弁が固着していて閉弁することができなかったことから、不測の事態に備えて冷却海水管開口部に取り付ける呼び径80ミリと同径50ミリの各フランジ用盲板を準備していた。
同日11時ごろA受審人は、高・低海水吸入弁を閉弁して空気冷却器の取外しに掛かり、主機・クラッチ船外吐出弁の各排水口が船体の左舷傾斜により10センチばかり水面上にあったので同冷却器海水入口管などを取り外し、海水が同入口管などの開口部から漏出しないのを確認してチェンブロックで同冷却器を吊り上げ、これを船尾甲板上に移動し、洗浄液を投入した容器に同冷却器を浸し終え、23時ごろ作業を中止して自動車で3ないし4分ばかりの距離にある自宅に帰った。

A受審人は、入浴を終えて夜食をとっているうち、福栄丸の左舷傾斜が減少すると主機・クラッチ船外吐出弁の各排水口が水面下となることから機関室内が気にかかり、翌11日02時ごろ異常の有無を確認するため再び福栄丸に戻ったが、同傾斜に変化がなかったので大丈夫と思い、盲板を取り付けるなどして同開口部からの浸水防止措置をとることなく、船内を無人として離船した。
こうして、福栄丸は、03時32分の干潮時刻に近づくにつれ、下げ潮による海面の低下とともに台船がスパッドに沿って降下しているうち、台船の左舷傾斜の影響もあってスパッドの海底への打ち込みが垂直ではなく、ある角度をもって打ち込まれていたかして、台船がそのまま自由に降下できず、そのうち台船の同傾斜が減少し、連結していた福栄丸の同傾斜も減少するようになり、主機・クラッチ船外吐出弁の各排水口が徐々に水面下となって両船外吐出弁を経て冷却海水管開口部から機関室に浸水し、08時00分前示係留地点において、A受審人が操舵室上半部のみを水面上に出している福栄丸を発見した。

当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、港内は穏やかで、潮候は上げ潮の末期であった。
福栄丸は、クレーン船で吊り上げたとき、機関室前部壁面に架けていた電池式時計が03時55分で停止しており、機関室、船員室兼倉庫、舵機用油圧ポンプ室、舵機室及び操舵室などに浸水して船内の各機器がぬれ損したが、のち修理された。


(原因)
本件遭難は、台船を連結して係留中、主機空気冷却器を整備のため取り外したまま船内を無人とする際、冷却海水管開口部からの浸水防止措置が不十分で、主機・クラッチ船外吐出弁が固着して開弁状態となっていたうえ同開口部がそのまま放置され、船体の左舷傾斜により水面上となっていた両船外吐出弁の各排水口が同傾斜の減少により水面下となり、両船外吐出弁を経て機関室に浸水したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、台船を連結して係留中、主機空気冷却器を整備のため取り外したまま船内を無人とする場合、船体の左舷傾斜が減少すれば主機・クラッチ船外吐出弁の各排水口が水面下となることを知っていたうえ、両船外吐出弁が固着して閉弁することができなかったから、機関室に浸水することのないよう、盲板を取り付けるなどして冷却海水管開口部からの浸水防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同傾斜に変化がなかったので大丈夫と思い、盲板を取り付けるなどして同開口部からの浸水防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、同傾斜の減少により両船外吐出弁の各排水口が水面下となって機関室への浸水を招き、福栄丸を水船とさせて主機、配電盤、電動機及び航海計器などの各機器をぬれ損させるに至っ

た。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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