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2000年(平成12年)

平成10年門審第119号
    件名
貨物船第三初霧丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成12年1月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

阿部能正、供田仁男、平井透
    理事官
根岸秀幸

    受審人
A 職名:第三初霧丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第一初霜丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
機関室内の機器などがぬれ損、修理費の関係から廃船

    原因
機関室への浸水防止措置不十分

    主文
本件遭難は、機関室への浸水防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月25日04時13分
関門港若松区第3区
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三初霧丸
総トン数 47.60トン
全長 19.7メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 33キロワット
3 事実の経過
第三初霧丸(以下「初霧丸」という。)は、専ら平水区域を航行する船舶として九州運輸局長から乗組み基準特例許可証を取得し、機関長の乗組みを免除され、洞海湾一帯で船舶に清水を給水する業務に従事する、昭和43年12月に進水した鋼製給水船で、上甲板下には船首側から順に、船首水タンク、1番給水用清水タンク、2番給水用清水タンク、機関室及び船尾水タンクが配置され、各タンクには空気抜き管が設けられており、上甲板上には船尾部に船橋及び機関室囲壁が配置されていた。
給水用清水タンクは、いずれも隔壁で左右各舷に2分割されて合計4区画となっているものの、各区画を連結しているパイプに仕切り弁が設けられておらず、共通として使用され、総容量が110トンであった。

主機冷却海水船底弁(以下「船底弁」という。)は、機関室の右舷船尾側にあり、冷却海水が同弁から取り入れられ、海水こし器及び減速機の冷却水通路を経て冷却海水ポンプで吸引・加圧され主機潤滑油冷却器、主機シリンダジャケット及び主機の排気集合管を順に冷却したのち機関室の左舷船首側にある排出弁から船外に排出されるようになっていた。
A受審人は、平成3年7月から初霧丸の船長として機関の運転及び保守管理に当たっていたところ、休暇を取ることとなり平成10年4月18日甲板員1名とともに船舶への給水業務を終了したのち関門港若松区第3区若松2号岸壁にある給水船用の桟橋に係留し、船内を無人とすることとしたが、これまで船底弁付近から機関室に浸水したことがなかったので大丈夫と思い、船底弁を閉弁するなど、同室への浸水防止措置を行うことなく、いつものように同弁を開弁したまま離船した。

B受審人は、初霧丸と同じR株式会社が所有し、運航する第一初霜丸(以下「初霜丸」という。)の機関長として乗船していたところ、同月24日初霜丸の船長から初霧丸で給水作業を行う旨を告げられ、船長一人では給水作業ができないので補助作業員として同道することとし、同月19日以降係留されたままとなっていた初霧丸ににわかに乗船し、船底弁に手を触れることもないまま、専ら給水ホースの取り付けなど甲板作業に従事し、船舶への給水業務を行い、原状復帰して下船することとした。
初霧丸は、給水業務が終了したのち約50トンの清水を給水用清水タンクに残したまま、船首1.5メートル船尾1.7メートルの喫水をもって同月24日12時ごろ前示桟橋に戻り、同桟橋に係留されていた初霜丸の左舷側に右舷を対して接舷し、両船の船首側ビット及び船尾側ビットにそれぞれ2本の係留索を、及び初霧丸の船首右舷側と初霜丸の船尾左舷側ボラードに1本の係留索をそれぞれとって燃料油や残水の影響で右舷側に傾斜した状態で係留された。

B受審人は、離船するに当たり、機関部関係作業を求められて同道したのではなく、A受審人がいつも船底弁を開弁のままとし、これを習慣としていることを聞き知っていたので、同人が不在中に同弁を閉弁し、同人が次回の主機始動時に開弁しないで始動することによる主機の損傷をおそれたことから、原状のままとして同日13時ごろ離船した。
こうして、初霧丸は、無人のまま係留されていたところ、船底弁から接続する直径25センチメートル高さ12センチメートルの鉄製円筒型海水こし器に取り付けられた呼び径30ミリメートル長さ10ミリメートルのつなぎ管が腐食による減肉で破孔を生じ、その破孔が徐々に拡大するとともに同管が破断し、開弁されたままの船底弁を経て破断したつなぎ管から機関室に海水が流入し始めた。
初霧丸は、浸水防止措置がとられないまま喫水が増すとともに右舷側への傾斜が徐々に増加し、やがて給水用清水タンクなどの空気抜き管が冠水して同タンク内にも海水が浸入し始め、翌25日04時13分牧山信号所から真方位350度1,290メートルの前示係留地点において、右舷側に横転した。

当時、天候は晴で風はほとんど吹いていなかった。
浸水の結果、初霧丸は、船体に損傷がなかったものの、機関室内の機器などが冠水してぬれ損を生じ、修理費の関係から廃船とされた。


(原因)
本件遭難は、桟橋に係留して船内を無人とする際、機関室への浸水防止措置が不十分で、開弁されたままの船底弁を経て、腐食破孔した海水こし器のつなぎ管から海水が機関室に浸入したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、関門港若松区第3区若松2号岸壁にある給水船用の桟橋において、同桟橋に係留して船内を無人とする場合、機関室に海水が浸入することのないよう、船底弁を閉弁するなど、同室への浸水防止措置を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、これまで機関室に浸水したことがなかったので大丈夫と思い、同室への浸水防止措置を十分に行わなかった職務上の過失により、同室への浸水を生じさせ、船体の横転を招き、機関室内の機器をぬれ損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。






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