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2000年(平成12年)

平成11年広審第2号
    件名
旅客船えめらるど遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成12年1月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

杉崎忠志、黒岩貢、横須賀勇一
    理事官
弓田斐雄

    受審人
A 職名:えめらるど船長 海技免状:二級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船内の各機器がぬれ損

    原因
係留状況の監視不十分

    主文
本件遭難は、係留状況の監視が不十分で、低潮時に船体後部が岸壁の防舷材下端に引っ掛かったまま放置されたことによって発生したものである。
回航指揮者が、係留中の監視体制をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月16日04時30分
尾道糸崎港
2 船舶の要目
船種船名 旅客船えめらるど
総トン数 63.24トン
全長 19.82メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 794キロワット
3 事実の経過
えめらるどは、昭和55年5月に進水し、広島県広島港宇品と同県宮島間に就航していた旅客定員77人の軽合金製旅客船で、甲板下には、船首方から船首格納庫、空調装置などを格納した空所及びその上部に前部客室、主機2基及び原動機付交流発電機などを据え付けた機関室、容量2,300リットルの燃料油タンクを格納した燃料庫及びその上部に後部客室、続いて操舵機のある船尾格納庫を順に設け、機関室上部が操舵室を備えた中央部客室となっていた。
甲板上の開口部は、船首甲板上にコーミングの高さ26センチメートル(以下「センチ」という。)1辺52センチ四方の船首格納庫に通じるハッチ及び直径16.5センチ高さ15センチの通風筒が、船尾甲板上にコーミングの高さ20センチ長さ52.5センチ幅63.5センチの船尾格納庫に通じるハッチ及び船首甲板上のものと同じ通風筒が、各客室の天井後部に通風筒1個が、中央部客室の両舷に乗降扉がそれぞれ設けられていたほか、両主機の排気管が燃料庫及び船尾格納庫を貫通して船尾端の両舷にある排気口に導かれていた。

ところで、えめらるどは、中古船舶の海外売船の仲介及び船舶用機器の輸出などを業務とする、東京都港区に本店を構える株式会社R(以下「R社」という。)の仲介により、平成10年3月23日S株式会社とモルジブ共和国T社との間で船舶売買契約が交わされ、同時期に同契約書が交わされた総トン数約61トンの旅客船サファイアとともに外航船に船積みするため、株式会社UがR社の依頼を受けて船長及び機関長を手配し、同年5月15日R社の監督、責任のもとで広島港から神戸港に回航されることとなった。
A受審人は、主に近海区域を航行区域とする貨物船や油送船などに一等航海士及び船長として乗り組んでいた者で、同月13日ごろ株式会社Uから船長としてえめらるどに乗り組むよう依頼されたので、翌々15日10時ごろ機関長を伴って広島港宇品の桟橋に係留していた同船に乗り組み、前任船長と操船方法などの引継ぎを終えて11時25分同港を出港した。

B指定海難関係人は、R社の工務監督兼山口県柳井営業所所長で、海外売船を仲介したえめらるどとサファイアのほかに、長崎県長崎市にある株式会社V商会所有の総トン数17トン旅客船シーピースの同売船も仲介しており、これら3隻の旅客船を神戸港に回航するため、同様に株式会社Uが手配した船長及び機関長各1人が乗り組んで長崎港を既に出港していたシーピースと、前もって広島県尾道市港湾課から係留許可を得ていた尾道糸崎港第4区にある西御所岸壁において、同月15日午後に各旅客船が合流し、夜間航行を避けて同岸壁に係留したのち、翌16日05時00分同港を出港して神戸港に向かうこととし、同月15日11時25分自ら回航指揮者として広島港宇品でサファイアに乗り組み、えめらるどを伴って同港を出港し、同岸壁に向かった。
ところで、西御所岸壁は、東西に延びた尾道水道の北方に面する長さ約600メートルの岸壁で、高さが略最低低潮面から約4.1メートルで、水深も約7メートルあり、同岸壁の上面には、上端より52センチ内側に、21.5メートル間隔で12個のビットが備えられ、岸壁側面には、約12メートル間隔で、岸壁取付け側の長さ及び幅が170センチ及び80センチ、船舶と接触する側(以下「舷接触側」という。)のそれぞれが150センチ及び26.2センチで、断面形状が高さ40センチのアーチ型をしたゴム製防舷材が同岸壁の上端より52センチのところから下方に向かって取り付けられ、防舷材の舷接触側下端の高さが同低潮面から約1.7メートルとなっており、低潮時には穴部のある同下端が海面上に大きく露出する状況であった。

14時ごろえめらるどは、先に尾道糸崎港に入港して西御所岸壁の西方端近くに係留を終えていたシーピースの東方にサファイアが着岸したので、続いて同船船首部から3メートルばかり間隔を置き、船首及び船尾より直径35ないし38ミリメートルの係留索をそれぞれ2本ずつ同岸壁のビットにとり、船首0.6メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、船首を東方に向け、左舷付けで係留された。
A受審人は、尾道水道に面した西御所岸壁にえめらるどを係留したが、同岸壁が同水道を通航する引船や高速旅客船などによる航走波の影響を受けやすかったうえ、尾道糸崎港の干満差が大きいことを知っていたのに、干潮時に合わせて各係留索にたるみをもたせたので大丈夫と思い、在船するなどして係留状況を十分に監視することなく、16時ごろ機関長とともに離船してえめらるどを無人係留とし、広島県御調郡向島町にある自宅に帰った。

一方、B指定海難関係人は、西御所岸壁を使用するのは初めてであったので、着岸を終えた旅客船3隻の係留状況をしばらく見ていたところ、尾道水道を通航する船舶の航走波で各旅客船の船体が大きく前後左右に動揺し、そのときえめらるどの船尾部とサファイアの船首部とが接触しそうになったので、16時55分ごろえめらるどを1ビット分東方の、尾道灯台から真方位265度600メートルに位置する同岸壁に移動して係留することとした。
そののち、B指定海難関係人は、尾道糸崎港の干満差が大きく、低潮時に西御所岸壁の防舷材下端が海面上に大きく露出するなどの状況を知っていたが、大事に至ることはあるまいと思い、速やかに不測の事態に対処できるよう、乗組員を在船させるなどして係留中の監視体制をとらないで、各旅客船を無人のままとして残っていたサファイアの船長などとともに、17時過ぎ同岸壁を離れ、同岸壁対岸のW株式会社のゲストハウスに赴いた。

こうして、えめらるどは、無人係留中、西御所岸壁の海面が19時06分の干潮時刻を過ぎて上昇し始め、尾道水道を航行する船舶の航走波の影響を受けて船体動揺を繰り返しているうち、船尾甲板上の左舷端にあるフェアリーダが防舷材下端の穴部に引っ掛かるかして、次第に船尾左舷側が下がり始め、海面の上昇に伴って更に左傾斜し、やがて船尾甲板上が水没して多量の海水がハッチ及び通風筒などから船尾格納庫、後部客室、燃料庫及び機関室に浸入し、翌16日04時30分前示の係留地点において、帰船したA受審人及びB指定海難関係人が、えめらるどの船首部が海面から大きく突き出て、船尾部が同岸壁より少し離れて沈下しているのを発見した。
当時、天候は曇で風力1の北東風が吹き、港内は穏やかで、潮候は下げ潮の中央期であった。
えめらるどは、船尾格納庫、燃料庫、機関室、各客室などの排水が行われ、引船によりW株式会社に引き付けられたが、船内の各機器がぬれ損して修理不能となったことから船舶売買契約が破棄され、のち廃船とされた。


(原因)
本件遭難は、夜間、通航する船舶の航走波の影響を受けやすい尾道糸崎港の尾道水道に面した西御所岸壁に回航中の旅客船を係留した際、係留状況の監視が不十分で、低潮時に船体後部が防舷材下端に引っ掛かったまま放置され、海面の上昇に伴い、船尾左舷側が著しく左傾斜して船尾甲板上が水没し、多量の海水が船内に浸入したことによって発生したものである。
回航指揮者が、係留中の監視体制をとらなかったことは、本件発生の原因となる。


(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、尾道水道に面した西御所岸壁にえめらるどを係留した場合、同岸壁が同水道を通航する引船や高速旅客船などによる航走波の影響を受けやすかったうえ、尾道糸崎港の干満差が大きいことを知っていたのであるから、在船するなどして係留状況を十分に監視すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、干潮時に合わせて各係留索にたるみをもたせたので大丈夫と思い、在船するなどして係留状況を十分に監視しなかった職務上の過失により、低潮時に海面より大きく露出した防舷材下端に船体後部が引っ掛かり、海面の上昇に伴い、船尾左舷側が著しく左傾向して船内に多量の海水の浸入を招き、えめらるどを水船とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

B指定海難関係人が、低潮時に防舷材下端が海面上に大きく露出するうえ、通航する船舶の航走波の影響を受けやすい尾道水道に面した西御所岸壁に回航中の旅客船を係留した場合、速やかに不測の事態に対処できるよう、乗組員を在船させるなどして係留中の監視体制をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。


よって主文のとおり裁決する。






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