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2000年(平成12年)

平成12年函審第20号
    件名
漁船第三十八欣成丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成12年8月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大石義朗、織戸孝治、大山繁樹
    理事官
東晴二

    受審人
A 職名:第三十八欣成丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
右舷船尾角部外板に亀裂を伴う凹損、主機及び航海計器その他に濡損、廃船処分

    原因
流氷の除去措置不適切、船体の点検不十分

    主文
本件遭難は、着岸の妨げとなる流氷の除去措置が不適切であったことと、着岸操船中、流氷に接触した際、船体の点検が不十分であったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年2月20日09時30分
北海道目梨郡羅臼町於尋麻布(おたづねまっぷ)漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十八欣成丸
総トン数 4.6トン
登録長 11.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
第三十八欣成丸(以下「欣成丸」という。)は、中央部船橋型のFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、ほたてがい及びこんぶ養殖施設の幹綱調整作業の目的をもって、平成11年2月19日09時00分北海道於尋麻布漁港南防波堤内側の係留場所を発し、同漁港の南方2海里ばかりの同養殖施設に向かい、同時20分同養殖施設に至り、同作業を開始したところ、流氷帯が接近するのを認め、10時20分同養殖施設を発し、機関を7ノットばかりの半速力前進にかけ、帰途に就いた。
欣成丸は、上甲板の中央部に船橋、その後部に接して機関室囲壁を設け、船橋前部が前部甲板、機関室囲壁後部が後部甲板となっており、上甲板下は、船首から順に、船首物入れ、魚倉、機関室及び船尾物入れで、魚倉及び船首尾の各物入れは、上甲板にそれぞれハッチコーミングを設けてかぶせ蓋で閉鎖していた。また、機関室と魚倉の間には水密隔壁を設けていたが、機関室と船尾物入れの間には差し板を設け、その下部は人がくぐり抜けられるくらいのすき間が開いていた。

ところで、於尋麻布漁港は、北北東方に延びる長さ150メートルの船揚場及び岸壁にほぼ直角に東南東方に100メートル延びる北防波堤とこれに接続して南南西方に260メートル延びる東防波堤と、岸壁の南南西端から東南東方に70メートル延びる物揚場とその突端の外側から東南東方に約30メートル延びる南防波堤とにより囲まれて防波堤入口を南方に開き、東防波堤突端に於尋麻布港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)が設置され、南防波堤と東防波堤との間の出入口の幅が50メートルで、沖合に流氷帯が接近し、南方の風波が強まると流氷が港内に進入する状況であった。
A受審人は、発進後東防波堤突端の少し南方に向け北上し、10時38分東防波堤灯台から220度(真方位、以下同じ。)40メートルの地点に達したとき、港内に薄氷が張っているうえ直径2メートルに近い流氷が散在しているのを認め、機関を3.0ノットの微速力に減じ、前示係留場所に左舷付けに着岸する予定で、針路を010度に定め、東防波堤に沿って進行した。

こうして、A受審人は、10時39分東防波堤灯台から353度60メートルの地点に達し、南防波堤突端を左舷側約35メートルに航過したとき、同防波堤の内側付近に薄氷のほかに流氷2個を認め、それを避けるため大回りして着岸予定場所に向かうこととし、機関を2.0ノットの極微速力に減じ、少しずつ左転し、同時40分東防波堤灯台から339度115メートルの地点において針路を南防波堤と約70度の交角となる227度として流氷1個を右舷側に替わし、その後舵及び機関を適宜使用して船首を岸壁に付け、岸壁に飛び降りて船首係留索をとった。
A受審人は、南防波堤と欣成丸の間に薄氷と流氷1個が残って着岸の妨げになるため、同船に戻り、竹竿で同流氷を同防波堤の突端方に押し出し、船尾を替わした。そして、同人は、着岸操船中、船体を前後進させるとき前示流氷に接触して損傷が生じるおそれがあったが、同流氷が船尾を替わしたから接触することはあるまいと思い、操船水域から十分に離れた場所に押し出すなどの措置をとることなく、プロペラ翼の水流により薄氷を同防波堤と欣成丸の間から押し流すため、船体を岸壁にほぼ並行にし、機関を前後進にかけて前進と後進を交互に繰り返していたところ、10時42分後進したとき突然、船尾に軽い衝撃を感じ、船尾方に押し出した流氷が右舷船尾角部外板に当たって同外板に亀裂を伴う凹損を生じた。

A受審人は、そのまま前進と後進を交互に繰り返して薄氷を南防波堤と欣成丸の間から押し流し、船尾を同防波堤に寄せ、船尾係留索をとって10時45分同防波堤の内側に左舷付けで着岸した。
着岸後、A受審人は、船尾付近の外板を後部甲板上及び南防波堤上から見ただけで異状が認められなかったことから、船体に損傷がないものと思い、船尾物入れに入るなどして内側から船体の点検を十分に行わなかったので、右舷船尾角部外板に亀裂を伴う凹損を生じて浸水していることに気付かず、急ぎの用事があったことから、欣成丸を無人にして帰宅した。
こうして、欣成丸は、右舷船尾角部外板に生じた亀裂を伴う凹損箇所から船尾物入れと機関室への浸水が続いて船尾部が沈下し、やがて、水面が前部甲板におよんで魚倉かぶせ蓋が浮き上がり、魚倉にも浸水して着底した。

翌20日09時30分A受審人は、出港のため欣成丸に赴いたところ、東防波堤灯台から330度100メートルの地点において同船が船橋上部のマストだけ見せて着底しているのを発見した。
当時、天候は雪で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期で、気温は氷点下10.5度であった。
遭難の結果、欣成丸は、右舷船尾角部外板に亀裂を伴う凹損を生じ、主機及び航海計器その他に濡損を生じ、於尋麻布漁港船揚場に引き揚げられたが、廃船処分された。


(原因)
本件遭難は、北海道於尋麻布漁港において、海面が薄氷で覆われ、流氷が散在する状況下、着岸操船を行う際、着岸の妨げとなる流氷の除去措置が不適切で、同流氷に右舷船尾角部外板が接触して同外板に亀裂を伴う凹損が生じて浸水したことと、着岸操船中、船尾部に衝撃を感じた際、船体の点検が不十分で、損傷部及び同部からの浸水が発見されず、船が無人のまま係留されている間に浸水が続き、船体が沈下して着底したこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、北海道於尋麻布漁港において、海面が薄氷で覆われ、流氷が散在する状況下、着岸の妨げになる流氷の除去措置が不十分のまま着岸操船中、流氷に接触して船尾部に衝撃を感じた場合、同接触部の浸水の有無を確認できるよう、船尾物入れに入るなどして内側から船体の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、船尾付近の外板を外側から見ただけで異状が認められなかったことから、船体に損傷がないものと思い、内側から船体の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、右舷船尾角部外板に亀裂を伴う凹損が生じて浸水していることに気付かず、船を無人にして帰宅している間に浸水が続いて船体を沈下させ、着底させて主機及び航海計器その他を濡損させ、廃船処分させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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