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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年7月30日10時30分 山口県小野田港 2 船舶の要目 船種船名
ケミカルタンカー第六丸岡丸 総トン数 198トン 登録長 43.61メートル 幅 7.70メートル 深さ
3.40メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
441キロワット 3 事実の経過 第六丸岡丸(以下「丸岡丸」という。)は、昭和60年3月に竣工した、専ら水酸化ナトリウム水溶液の輸送に従事する鋼製ケミカルタンカーで、上甲板下は船首側から順に船首タンク、錨鎖庫、洗浄水タンク、1番ないし3番カーゴタンク、ポンプ室、機関室及び船尾タンクに区画され、また、錨鎖庫から3番カーゴタンクに至る船底に、1番から6番までの左右に分割されたバラストタンクが設けられ、機関室上部には居住区、船橋などを有する船楼が配置されていた。 ポンプ室は、長さ1.70メートル幅3.55メートル高さ2.25メートルで、床面には右舷側からバラストポンプ、主機駆動のカーゴポンプ、残液兼ビルジポンプを据え付け、バラストポンプの船首側に各バラストタンク注排水弁を、その右舷側に同ポンプ船底弁をそれぞれ設置したほか、前部壁面上方にポンプ室通風機を備えていた。 ところで、バラストポンプは、全揚程10メートルにおける吐出量が毎時60立方メートルの電動渦巻式で、同ポンプ出口と各バラストタンク注排水弁の集合管との間に、呼び径80ミリメートル長さ850ミリメートルのL字形鋼管(以下「バラストポンプ吐出管」という。)を接続し、同管両端のフランジ継手をそれぞれ4本のボルト及びナットで結合して送水するようになっていた。 A受審人は、平成7年1月から丸岡丸に乗り組み、揚荷時、船橋でカーゴポンプの発停を行い、また、船尾楼甲板前部においてバラストポンプを発停するほか、バラスト管装置の保守管理にも当たっていたところ、同10年7月28日16時過ぎ積荷役の時間調整のため、基地とする山口県三田尻中関港に投錨して仮泊した際、数日前から漏水していたバラストポンプ吐出管の補修を行うこととし、甲板員とともに同管を取り外し、修理業者に破孔部の溶接補修を行わせたのち、同管フランジ継手パッキンをそれまで使用中のものと同じ合成樹脂製の成形パッキンに取り替え、ボルト及びナットについては取り外したものをそのまま使用して復旧したが、いつもの取付方法で行ったので大丈夫と思い、通水テストを行うなど同管の取付状態を十分に点検することなく、同管フランジ継手の締付力が不足した状態に気付かないまま、補修作業を終えた。 丸岡丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、水酸化ナトリウム水溶液320立方メートルを積載し、揚荷の目的で、船首2.9メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同月29日10時40分岡山県水島港を発し、山口県小野田港に向かい、翌30日07時30分小野田港防波堤灯台から真方位134度450メートルの岸壁に左舷付けで係留し、08時30分から揚荷を開始した。 A受審人は、カーゴポンプの運転後、バラスト注水作業に当たり、ポンプ室でバラスト管装置の弁操作を行い、バラストポンプを始動したのち、ポンプ室上部の圧力計で送水されたことを確認し、その際、同ポンプ周りをいちべつしただけで、上甲板上に出て、揚荷作業に従事した。 こうして、丸岡丸は、バラストポンプにより加圧して2番両舷バラストタンクに送水中、ポンプ室の振動などから同ポンプ吐出管両端のフランジ継手合わせ面になじみが生じ、同継手から海水が漏洩し、やがて同ポンプ駆動用電動機が冠水して同ポンプが停止したものの、海水の浸入が続き、10時30分前示係留地点において、上甲板上で船体が右舷側に5度ほど傾いたことに不審を抱き、ポンプ室をのぞいたA受審人により、同室天井下1メートル付近まで浸水し、同ポンプ吐出管両端のフランジ継手から海水と気泡が噴出しているのが発見された。 当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 A受審人は、揚荷後、船首甲板倉庫に設置されているバラストポンプと移動式水中ポンプによりポンプ室の排水作業に当たり、自ら潜って同室のバラストポンプ船底弁を閉め、排水作業を行ったのち、丸岡丸は、自力航行して高松市の造船所に向かい、濡損したバラストポンプ、残液兼ビルジポンプ、ポンプ室通風機、カーゴポンプなどの修理を行ったほか、各ポンプ及び通風機駆動用電動機を新替えし、バラストポンプ吐出管を取り替えた。
(原因) 本件遭難は、ポンプ室のバラストポンプ吐出管を取り外して補修したのち、同管を復旧した際、同管の取付状態に対する点検が不十分で、同管フランジ継手の締付力が不足したまま同ポンプによりバラスト注水作業が行われ、同継手から海水が漏洩したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、ポンプ室のバラストポンプ吐出管を取り外して補修したのち、同管を復旧した場合、同管周りからの漏水の有無を発見できるよう、通水テストを行うなど同管の取付状態を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、いつもの取付方法で行ったので大丈夫と思い、同管の取付状態を十分に点検しなかった職務上の過失により、同管フランジ継手から漏洩した海水がポンプ室に浸入する事態を招き、バラスト、残液兼ビルジ各ポンプ及び各ポンプ駆動用電動機、カーゴポンプ、ポンプ室通風機などに濡損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |