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2000年(平成12年)

平成11年神審第92号
    件名
漁船第五有漁丸遭難事件

    事件区分
遭難事件
    言渡年月日
平成12年6月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

西林眞、須貝壽榮、小須田敏
    理事官
杉崎忠志

    受審人
A 職名:第五有漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
主機、両舷補機、発電機及び各種電気機器等に濡れ損、左舷補機の連接棒1個が曲損

    原因
海水管系統に配管されているゴムホースの点検不十分、機関室ビルジ警報装置の点検不十分

    主文
本件遭難は、海水管系統に配管されているゴムホースの点検が不十分であったことと、機関室ビルジ警報装置の点検が不十分であったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月3日15時00分
高知県室戸岬沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五有漁丸
総トン数 19トン
全長 20.60メートル
幅 4.07メートル
深さ 2.09メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット
3 事実の経過
第五有漁丸(以下「有漁丸」という。)は、小型第2種の従業制限を有しまぐろはえ縄漁業に従事する、平成4年9月に進水した船首尾楼付平甲板型FRP製漁船で、船体中央部船尾寄りに、長さが4.98メートルの機関室が位置し、同室の船首側隔壁に魚倉が、船尾側隔壁に一段高くなって出入口扉を設けた船員室がそれぞれ隣接していた。
機関室は、中央部に主機を、その両舷前側に各1基の発電機用ディーゼル機関(以下「補機」という。)をそれぞれ据え付け、前部中段に魚倉及び食料庫のための冷凍機、配電盤、蓄電池を備え、主機の前部床面には冷凍機冷却海水ポンプと雑用ポンプとが船横方向に並行して配列し、また後部には常時自動運転としているビルジポンプのほか、ビルジ警報装置が設置されており、ビルジ量が増加した際には操舵室でブザー、機関室でベルがそれぞれ警報を発するようになっていた。

冷凍機の冷却海水系統は、冷凍機冷却海水ポンプにより船底の海水吸入弁から吸引加圧された冷却海水が、凝縮器を冷却して船外に排出されており、同ポンプが使用不能となったときには、雑用ポンプから応急送水ができるよう、両ポンプ吐出管の間に交通管を配管し、雑用ポンプ側に交通弁が取り付けられており、冷凍機冷却海水ポンプ及び雑用ポンプの吐出管呼び径が、それぞれ40ミリメートル(以下「ミリ」という。)及び50ミリであった。
また、交通管には、長さ約700ミリ、外径53ミリ、内径38ミリの、内面ゴム層、中間布巻き補強層、外面ゴム層及び外側布巻き層で構成されるゴムホースが使用されており、山型の段付きを有する挿入金具に両端を差し込んだうえ、それぞれ金属製のクリップバンド2個によって固定されていた。
有漁丸の船舶所有者でもあるA受審人は、新造時から船長として乗り組み、100海里以遠で操業する時期だけ機関長を配乗させ、それ以外のときは、全操業期間を通して配乗させている操機長に機関の実務を行わせていたが、自らも操船と操業の指揮を執る傍ら、機関の保守運転管理にも当たる体制とし、毎年6月及び7月の休漁期に船体及び機関の整備を行っていた。

ところで、A受審人は、前示ゴムホースが新造以来使用されているもので、長期間の使用により、内面に材料劣化を起こしているおそれがあったが、これまで水漏れがなかったので大丈夫と思い、平成10年7月に実施した定期検査工事の際、自ら行うか業者に依頼するかして、同ホースの抜出し点検を行わなかったので、差込み部の内面に多数の輪状の亀裂が生じていることに気付かなかった。また、同人は、同8年にビルジ警報装置のフロートスイッチが作動不良となって修理した際、ブザー及びベルとも正常に作動することを確認していたが、その後は同装置の作動テストを含め点検を行っていなかった。
こうして、有漁丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、金華山東方沖合での操業に備え、機関長の配乗と餌を積み込む目的で、同10年8月3日13時50分高知県室戸岬港を発し、千葉県銚子港に向かって航行中、ゴムホースが内面亀裂の進行により雑用ポンプ吐出管側の挿入金具から抜け外れ、運転中の冷凍機冷却海水ポンプから吐出された海水が機関室に浸入し始めたが、ビルジポンプでの排出が間に合わず、また機関室ビルジ警報装置の操舵室ブザー及び機関室ベルのいずれも不具合で、警報を発しないまま浸水量が増え続け、やがて運転中の左舷補機の発電機に海水が浸入し、同日15時00分室戸岬灯台から真方位086度6.1海里の地点において、船内電源が喪失した。

当時、天候は晴で風力4の西南西風が吹き、海上は白波が立っていた。
航海当直に当たっていたA受審人は、操舵室内の照明灯が消えたので不審に思い、休息中の操機長に連絡して2人で機関室を覗いたところ、海水が補機の中間より少し上の高さまで浸水していることを発見し、機関室内に入ろうとしたが、感電する危険があったことから立ち入りを断念し、操舵室のキースイッチで主機を停止したのち、携帯電話で自宅に救援手配を要請した。
有漁丸は、停止できずに運転が続けられた左舷補機が、水位の上昇でシリンダ内に海水が浸入したことで停止し、同日17時00分ごろ来援した巡視船及び僚船により排水作業が行われ、A受審人が機関室に入って前示ゴムホースからの浸水を認め、冷凍機冷却海水ポンプの海水吸入弁を閉弁して浸水防止の措置をとったのち、巡視船に引かれて発航地に帰着した。

浸水の結果、有漁丸は、機関室のほか船員室の一部も浸水したものの、その他の区画には及んでおらず、主機、両舷補機、発電機及び各種電気機器等に濡れ損を生じたほか、左舷補機の連接棒1個が水撃作用で曲損していることが判明し、のち機器の洗浄、乾燥、モータ類の新替えなどが行われて全て修理された。また、ゴムホースが鋼管製のものに取り替えられた。

(原因)
本件遭難は、定例の機関整備における、冷凍機冷却海水ポンプと雑用ポンプとの吐出交通管に配管されているゴムホースの点検が不十分で、長期間の使用によって材料劣化し、挿入金具への差込み部の内面に多数の輪状の亀裂が生じた同ホースが航行中に抜け外れ、運転中の同冷却海水ポンプから吐出された海水が機関室に浸入したことと、機関室ビルジ警報装置の点検が不十分で、浸水量が増加した際に警報を発しなかったこととによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、冷凍機冷却海水ポンプと雑用ポンプとの吐出交通管に配管されているゴムホースの保守管理に当たる場合、長期間の使用により材料劣化を起こして抜け外れるおそれがあったから、亀裂の有無を確認できるよう、定例の機関整備において、自ら行うか修理業者に依頼するかして、ゴムホースを点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、これまで水漏れがなかったので大丈夫と思い、ゴムホースを点検しなかった職務上の過失により、同ホースが抜け外れて機関室の浸水を招き、主機、補機、発電機及び各種電気機器等に濡れ損を生じさせたほか、補機の連接棒を曲損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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