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2000年(平成12年)

平成11年長審第80号
    件名
漁船第八十八暁星丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年3月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、原清澄、坂爪靖
    理事官
上原直

    受審人
A 職名:第八十八暁星丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
右舷側船底全般にわたる損傷、多量の燃料油が流出

    原因
錨鎖と錨索の連結不十分、船内無人の錨泊

    主文
本件乗揚は、錨鎖と錨索の連結が不十分であったことに加え、船内を無人として錨泊を続けたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月19日11時ごろ
長崎県式見漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十八暁星丸
総トン数 19トン
登録長 16.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
第八十八暁星丸は、長崎県長崎港内の神ノ島船だまりを基地と定め、おおむね夕刻に出港して翌朝に帰港するという、いわゆる日帰り操業に従事する中型旋網漁業船団所属のFRP製漁獲物運搬船兼灯船で、船体中央からやや後方に操舵室を設け、同室の左舷側甲板上に揚錨機を備え、直径22ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ約200メートルのクレモナ製ロープを錨索とし、重量約100キログラムのストックレス型錨と連結した長さ約5メートルの錨鎖を錨索に連結するようになっていたが、錨は船首甲板上に備えた1個だけで、錨と錨鎖の連結、錨鎖と錨索の連結は、いずれもねじの呼び径14ミリのアイボルトを使用したストレート型ステンレス鋼製のシャックルによって行っていた。

ところで、A受審人は、平成7年ごろから本船に船長として独りで乗組み、錨と錨鎖を連結するシャックルについては、アイボルトをシャックル本体に十分に締付けたあと、同ボルトの脱落防止のため、針金を同ボルトのアイに通してシャックル本体に巻付けていたものの、操業中は、網船が捕獲した魚群をアゼと称するたも網で運搬船に積込むのを手伝うため、錨鎖を錨索から外し、たも網の片側につないだアゼ巻きロープと称する直径24ミリの合成繊維製のロープに錨索を連結してたも網を巻揚げなければならないので、錨鎖と錨索を連結するシャックルについては、アイボルトの取外しを容易に行えるよう、針金の代わりに、直径約8ミリ長さ約30センチメートルのナイロン製の細紐を同ボルトのアイに通して結び、同ボルトをシャックル本体に締込んだあと、細紐の先をシャックル本体に巻付けて縛ることにしていた。
越えて同10年8月17日夕刻A受審人は、本船に独りで乗組み、僚船とともに基地を発して漁場に至り、いつものように、網船が捕獲した魚群の運搬船への積込みを手伝ったのち、錨索からアゼ巻きロープを外し、錨索に錨鎖を連結することにしたが、それまでにシャックルが脱落したことがなかったこともあって、アイボルトをシャックル本体に十分に締付けることなく、漫然と手で回してねじ込んだだけで錨鎖と錨索の連結を済ませ、同月18日早朝僚船とともに基地に帰港し、自宅に帰って休息した。
同18日午後A受審人は、再び本船に独りで乗組み、砕氷約5トンを積込むなどの出漁準備を終え、船首0.8メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、16時00分僚船とともに基地を発し、間もなく魚群探索を開始して北上中、長崎県式見漁港の沖合にてあじの魚群を発見し、その旨網船に乗船中の漁労長に伝えたところ、船団は更に北上して他の漁場で操業を行うから、本船はその場で集魚しながら待機するようにと指示され、17時00分三重式見港式見防波堤灯台から真方位241度1,600メートル水深約35メートルの地点において、風力5の南風が吹き、かなり波がある状況下、船首左舷側から投錨し、錨索を約50メートル延出して錨泊を開始した。

ところが、その後A受審人は、かなりの船体動揺を受けながら守錨当直と集魚作業を行っていたものの、いつしか錨鎖と錨索を連結するシャックルのアイボルトが緩んできたことに気付く由もなく、風波がやや静まった翌19日06時45分漁労長から、船団は帰港することにしたが、本船は集魚した魚群確保のためにその場で錨泊させたままとし、迎えの僚船をよこすから、それに移乗して帰港するようにとの指示を受け、錨索をそのままとして船内のすべての機器を停止し、07時00分迎えに来た僚船に移乗し、同時30分基地に戻って帰宅した。
こうして本船は、錨鎖と錨索を連結するシャックルのアイボルトが緩んだ状態で船内を無人として錨泊を続けるうち、同ボルトのアイに取付けてあった細紐が切れるかシャックル本体からほどけるかし、やがて同ボルトがシャックル本体から外れて錨鎖と錨索の連結が切れたままとなり、折からの風波によって北東方へ圧流され、11時ごろ三重式見港式見防波堤灯台から真方位154度50メートルばかりの地点において、付近の住民により、船首を北西方に向け、右舷側船底全体が防波堤の消波ブロックに乗揚げているのを発見された。

当時、天候は曇で風力3の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、海上にはやや波があった。
A受審人は、自宅で就寝中、漁労長から本船の乗揚を知らされ、直ちに僚船に便乗して式見漁港に赴いたところ、式見漁業協同組合所属の漁船2隻が本船を引降ろし中であると同時に、付近の海面に多量の燃料油が流出しているのを認め、引降ろされた本船を僚船で抱えて沖出しし、流出油の処理を行ったのち、本船を入渠させ、右舷側船底全般にわたる損傷箇所を修理した。


(原因)
本件乗揚は、錨鎖と錨索を連結するシャックルのアイボルトの締付けが不十分であったことに加え、船内を無人として錨泊を続けたため、長崎県式見漁港沖合において錨泊中、同ボルトが緩んでシャックル本体から外れて錨鎖と錨索の連結が切れたままとなり、同漁港の防波堤に向け、風波に圧流されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、漁場において、いつものように、網船を手伝って捕獲した魚群の運搬船への積込みを終え、錨索の先端に連結していたアゼ巻きロープをシャックルから外し、同先端に錨鎖を連結する場合、シャックルのアイボルトが外れて錨鎖と錨索の連結が切れることのないよう、アイボルトをシャックル本体に十分に締付けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまでにシャックルが脱落したことがなかったこともあって、アイボルトを漫然と手で回してねじ込んだだけで、十分に締付けなかった職務上の過失により、長崎県式見漁港沖合において錨泊中、アイボルトが緩んだうえ、同細紐が切れるかシャックル本体からほどけるかして同ボルトがシャックル本体から外れ、風波に圧流されて防波堤の消波ブロックへの乗揚を招き、右舷側船底全般にわたる損傷、燃料油の流失等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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