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2000年(平成12年)

平成11年長審第85号
    件名
押船第八大平丸被押バージ第8大平丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年3月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、安部雅生、保田稔
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:第八大平丸甲板員 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
バージ・・・左舷船首船底外板に破口、浸水、沈没、全損
八号・・・バージに引き込まれて沈没、全損

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
なお、第八大平丸が沈没するに至ったのは、第8大平丸と結合する連結ピンの経年による摩耗が著しく、同ピンを収納できなかったことによるものである。
受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月19日05時15分
長崎県五島列島椛島南方草島東岸
2 船舶の要目
船種船名 押船第八大平丸 バージ第8大平丸
総トン数 143.13トン
載貨重量 1,146トン
登録長 31.96メートル 54.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 882キロワット
3 事実の経過
第八大平丸(以下「八号」という。)は、航行区域を沿海区域とする鋼製押船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉状態で、船首1.20メートル船尾2.40メートルの喫水となった、鋼製バージ第8大平丸(以下「バージ」という。)の船尾凹部に船首部を嵌合させ、油圧シリンダのピストンロッドと一体となった連結ピンを両舷から張り出して同船と結合し、船首2.00メートル、船尾3.00メートルの喫水をもって、海砂を採取する目的で、平成10年11月19日01時00分長崎県五島列島福江島荒川漁港を発し、同列島中通島東方沖合の海砂採取場に向かった。

ところで、八号は、昭和47年9月バージとともに進水した押船で、連結ピンの張り出した状態における油圧シリンダ貫通部周辺が経年によって著しく摩耗したため、油圧により連結ピンを張り出すことはできるが、収納することはできず、また、押航中は連結ピンががたついて異音を発することから、入渠時以外はバージを結合したまま同貫通部にウエッジを叩き込んでいた。
また、A受審人は、合資会社Rの代表取締役で、過去に八号の船長職を執ったことが再三あったが、会社の業務の都合で八号に乗り組めないことがあるので、弟に船長職を執らせ、自らは甲板員として乗り組み、平素、弟と2人で6時間交替の単独船橋当直にあたっていた。
発航後、A受審人は、海砂採取場までの所要時間が6時間半ばかりであったので、同採取場までの操船を自ら単独で行うことにして航行し、04時33分崎山港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から102度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点に達したとき、折りからの風雨と前方に散在する多数のいか釣り漁船の明るい灯火とで前方の見通しが悪く、鷹ノ巣鼻灯台の灯火を確認できなかったが、レーダーの画面を見ながら針路を椛島の鷹ノ巣埼の少し沖合に向く040度に定め、機関回転数を毎分540の全速力前進にかけて8.0ノットの対地速力とし、その後、椛島に更に接近してから使用するつもりで、レーダーをスタンバイ状態に切り替え、手動操舵により進行した。

04時41分A受審人は、北防波堤灯台から072度2.0海里の地点に達したとき、船首方1海里ばかりに点在して操業中の数隻のいか釣り漁船を視認する状況となったので、これらを避航するため左舵を取って針路を010度に転じ、その後も左右に針路を転じながら付近海域に点在するいか釣り漁船を避航し、05時02分半北防波堤灯台から042度4.0海里の地点に達したとき、取りあえず漁船群を替わし終えたので、元の針路線に戻すことにしたが、舵を左右交互に取っていたので、元の針路線からの左偏の程度はたいしたことはないものと思い、レーダーを活用するなどして船位の確認を行うことなく、針路を元の針路よりやや右方に向く043度に転じ、船位が元の針路線から0.9海里ばかり左偏した状況となっていて、転じた針路が草島東岸の岩礁に向首していることに気付かず、その後も船位を確認しないで、ほぼ元の針路線上を航行しているものと思い込んだまま進行した。
こうして、八号は、A受審人が周囲のいか釣り漁船の明るい灯火に幻惑され、依然鷹ノ巣鼻灯台を確認できないまま続航中、05時15分わずか前左舷船首至近に異様な気配を感じ、操舵室前面の窓を開けて前方を見たところ、黒い島影を認め、驚いて右舵一杯、続いて機関停止としたが、及ばず、原針路、原速力のまま、05時15分北防波堤灯台から043度5.7海里の草島東岸の岩礁にバージが乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力6の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、バージの左舷船首船底外板に破口を生じて浸水し、八号をバージから切り離せないので、乗組員は、全員伝馬船で退船したが、その後、八号とバージは、結合したまま自然離礁し、折りからの風潮流で草島東方300メートルばかり沖合まで圧流され、06時30分ごろバージが沈没するのと同時に八号もバージに引き込まれて沈没し、いずれも全損となった。


(原因)
本件乗揚は、夜間、長崎県五島列島福江島東端沖合を椛島東方沖合に向く針路で航行中、付近海域に散在する多数のいか釣り漁船の避航を終え、元の針路線に戻す際、船位の確認が不十分で、椛島南方草島東岸の岩礁に向首進行したことによって発生したものである。
なお、八号がバージとともに沈没するに至ったのは、経年により、連結ピンの張り出した状態における油圧シリンダ貫通部周辺が著しく摩耗していて、油圧により連結ピンを収納できず、八号をバージから切り離せなかったことによるものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、長崎県五島列島福江島東端沖合を椛島東方沖合に向く針路で航行中、付近海域に散在する多数のいか釣り漁船の避航を終え、元の針路線に戻す場合、それまで針路を左右に転じて同漁船を避航していたのであるから、船位が元の針路線から偏位しているかどうかを確かめられるよう、レーダーを使用するなどして船位を確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、舵を左右交互に取っていたので、元の針路線からの左偏の程度はたいしたことはないものと思い、船位を確認しなかった職務上の過失により、椛島南方草島東岸の岩礁に向首したことに気付かないまま進行して同岩礁へのバージの乗揚を招き、バージの船首船底外板に破口を生じ、多量の海水がバージに浸入してバージと八号を沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。


よって主文のとおり裁決する。






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