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2000年(平成12年)

平成11年門審第120号
    件名
貨物船きしょう丸乗揚事件(簡易)

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年3月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

宮田義憲
    理事官
新川政明

    受審人
A 職名:きしょう丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
プロペラを折損、船尾船底外板に擦過傷

    原因
水路調査不十分

    主文
本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月2日08時30分
福岡県苅田港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船きしょう丸
総トン数 199トン
全長 57.68メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 551キロワット
3 事実の経過
きしょう丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、海砂650トンを積載し、船首2.7メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成10年5月1日08時00分兵庫県尼崎西宮芦屋港を発し、福岡県苅田港に向かった。
これより先、A受審人は、甲板員及び機関長として内航貨物船や油送船に乗船していたところ、平成6年7月五級海技士(航海)の資格を取得して船長職を執ることとなり、これまで苅田港に3度ほど入港した経験があったが、財団法人日本水路協会発行の小型船用簡易港湾案内瀬戸内海その2(燧(ひうち)灘−関門海峡)に記載の苅田港を使用して運航に従事し、同港の九州電力苅田発電所岸壁(以下「発電所岸壁」という。)から東方に浅瀬が存在することを知っていたものの、海図第129号(苅田港)などの所要の海図を備え付けておらず、浅瀬の拡延状況などその詳細について知らなかったが、水路の灯浮標を頼りにして航行すれば大丈夫と思い、発航にあたり、同港の海図などの関係図誌をあたって、水路調査を十分に行わなかった。

A受審人は、瀬戸内海を西行して翌2日朝、苅田港港域外に達し、08時04分ごろ苅田港北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から069.5度(真方位、以下同じ。)2.9海里ばかりの地点で、前直者から当直を引き継ぎ、手動操舵として、単独で操舵操船し、航路に沿って港内の麻生セメント岸壁に向かって進行した。
ところで、苅田港は、南北に延びる逆くの字形に築造された岸壁、同岸壁から約450メートルの水路を挟んでその東方に存在する神ノ島、同島の北端付近から北東方に延びる東防波堤、同島の南端付近から南東方に延びる南防波堤及び東防波堤の北端から約300メートルの水路を挟んで東西に延びる北防波堤に囲まれて形成されており、東防波堤と北防波堤の間から導かれる水路は、東防波堤の西方で屈曲してほぼ鼓状に南北に延び、一部を残して浚渫され、神ノ島南端部と西方の岸壁間は水路幅が250メートルで最狭部となっていた。また、発電所岸壁は、同水路の最狭部付近にあり、麻生セメント岸壁は、発電所岸壁に連なってその南に位置していた。

A受審人は、08時22分少し前苅田港北防波堤入口を通過して、同時23分半少し前北防波堤灯台から216度170メートルの地点において、針路を241度に定め、機関を8.0ノット(対地速力、以下同じ。)の半速力前進として進行し、同時26分北防波堤灯台から236度810メートルの地点に達して、苅田港南第4号灯浮標を船首目標に、針路を192度に転じ、機関を6.0ノットの微速力前進としたところ、左舷船首方1,400メートルばかりに水路の南側から北上する小型の作業船を認め、できるだけ水路の右側に寄ることとし、針路を修正して194度に転じて進行した。
A受審人は、同作業船が接近したのを認め、左舷を対して余裕をもって安全に同船を替わすつもりで、機関の速力を減じ、更に水路の右側に寄ることとしたものの、水路調査を十分に行っていなかったところから、発電所岸壁から東方に拡延する浅瀬に著しく接近していることに気付かないまま、08時29分少し過ぎ北防波堤灯台から219度1,300メートルの地点に達したとき、右舵をとり、速力を落としながら同浅瀬に向かって右転回頭を始めた。

A受審人は、間もなく浅瀬が気になり、左舵5度をとって舵効が現れ始めたとき、08時30分北防波堤灯台から218度1,450メートルの地点において、きしょう丸は、207度に向首して2.0ノットの速力で、浅瀬に乗り揚げ、これを擦過した。
当時、天候は曇で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、プロペラを折損し、船尾船底外板に擦過傷を生じたが、のち修理された。


(原因)
本件乗揚は、苅田港に入航する際、水路調査が不十分で、発電所岸壁から東方に拡延する浅瀬に向かって転舵進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、苅田港に入航するにあたり、浅瀬の拡延状況などその詳細を知らない場合、同港の海図などの関係図誌類をあたるなどして、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、水路の灯浮標を頼りにして航行すれば大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、浅瀬の拡延状況などその詳細を知らないまま、同浅瀬に向かって転舵進行してこれに乗り揚げ、きしょう丸のプロペラを折損して船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。






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