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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年5月14日00時10分 鼻栗瀬戸東側海域 2 船舶の要目 船種船名
貨物船いよえーす 総トン数 199トン 全長 58.24メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
536キロワット 3 事実の経過 いよえーすは、専ら福岡県博多港と大阪港両港間に就航する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、船倉内に圧力タンク1個228トンを載せ、船首1.6メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、平成10年5月12日15時熊本県長州港を発し、途中、愛媛県中島港に寄せ、ここで給水を行う予定で兵庫県東播磨港に向かった。 A受審人は、船橋当直体制を同人と甲板手による輪番6時間交替の単独2直制と定め、その運用にあたっては、就労状況等を適宜考慮して、各地発航後の船橋当直を決めていた。 ところで、いよえーすが長州港へ寄港する航海は年間を通じて2航海程度であり、長州港から関門海峡西口に至る迄の航路は島原湾を航行したのち九州本土西岸に沿って北上し、平戸瀬戸を経由するものであったが、船橋当直に従事する甲板手が、長州港、関門海峡両区間の航行経験が少なく、そのためA受審人は、発航から当直時間以外にも度々昇橋して操船にあたることになり、少ない睡眠時間と断続労働が続いた状況にあった。 こうしてA受審人は、翌13日08時30分ごろ部埼灯台を航過して瀬戸内海西部に入り、その後船橋当直を甲板手に行わせながら瀬戸内海を東行し、この間適宜休憩をとったもののなぜか眠れず16時35分中島港に入港した。 A受審人は、入港後、給水作業を行うこととなったものの、同作業終了後は直ちに出港して自らが船橋当直に就くことを予定しており、長州港を発航以来、長時間にわたって断続的な睡眠時間しかとっておらず、給水作業に引き続いて船橋当直に従事すると、疲労と睡眠不足によって居眠りに陥るおそれのある状況にあったが、当時、眠気を感じなかったことから、同作業に引き続いて船橋当直に従事しても、居眠り運航になることはあるまいと思い、給水作業を甲板手に行わせ、この間休息をとる等、適切な労働時間の配分を行うなどして、居眠り運航の防止措置をとることなく、自ら、給水作業に従事し、21時ごろ同作業を終えて22時中島港を出航した。 A受審人は、発航後、疲労を感じ、操舵輪前方に置かれた背もたれ付きのいすに腰掛けた姿勢となって操舵を自動に切り替えて船橋当直にあたり、23時32分アゴノ鼻灯台から228度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点に達したとき、針路を074度に定めて機関を10.5ノットの全速力前進にかけ、折からの順潮流に乗じて12.0ノットの対地速力で進行した。 23時59分半A受審人は、カヤトマリ鼻灯台から271度0.5海里の、宮ノ窪瀬戸の西側海域に達したとき、同瀬戸の航行にそなえて操舵輪の後方に立ち操舵を手動に切り替えて針路を071度に転じて航行中、翌14日00時05分カヤトマリ鼻灯台から054.5度1,200メートルの、宮ノ窪瀬戸へ向首する099度の転針点に達したがこのころ突然居眠りに陥り、転針をしないままその後徐々に左転して続航中、いよえーすは、00時10分カヤトマリ鼻灯台から058度1.6海里地点の愛媛県伯方島西端の浅所に052度を向首して乗り揚げた。 A受審人は、乗揚の衝撃で目覚め、のち事後の措置にあたった。 当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候はほぼ満潮期であった。 乗揚の結果、船首船底外板に破口を伴う凹損を生じたが、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、中島港での給水作業を行うにあたり、同港発航後の船橋当直を考慮した居眠り運航の防止措置が不十分で、同作業に従事した船橋当直者が同人の船橋当直中に居眠りに陥り、伯方島西端の浅所に向け進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、中島港での給水作業を行うにあたり、同港発航後、単独で船橋当直に就くことを予定した場合、自らが同作業に従事すると疲労と長時間の睡眠不足で給水作業に引き続く船橋当直中に、居眠り運航となる可能性があったから、船橋当直中に居眠り運航とならないよう、事前に適切な労働時間の配分を行うなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。 しかるに同人は、給水作業後引き続いて船橋当直に従事しても居眠り運航になることはないと思い、自ら給水作業に従事し、適切な労働時間の配分を行うことなく、居眠り運航防止措置をとらなかった職務上の過失により、船橋当直中に居眠りに陥り、伯方島西端の浅所に向け進行して乗揚を招き、いよえーすの船首船底部に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |