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2000年(平成12年)

平成11年神審第44号
    件名
貨物船第三勢宝丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年3月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

西田克史、佐和明、工藤民雄
    理事官
平野浩三

    受審人
A 職名:第三勢宝丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
船底外板に凹損

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月30日22時30分
播磨灘北西部大蛭島北東岸
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三勢宝丸
総トン数 199.29トン
登録長 44.79メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 514キロワット
3 事実の経過
第三勢宝丸は、船尾船橋型の貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、九州、瀬戸内海及び阪神諸港間において鋼材輸送に従事していたところ、平成10年1月29日04時00分兵庫県神戸港に入港して揚荷役を終え、空倉のまま、船首0.40メートル船尾2.25メートルの喫水をもって、翌30日16時00分同港を発し、岡山県水島港に向かった。
A受審人は、着岸中十分に休息をとったのち発航操船に就き、引き続き単独の船橋当直にあたり、これまで機関長には広い海域においてのみ、ほぼ2時間ずつ適当な間隔をおいて当直を行わせていたことから、18時ごろ明石海峡の通航を終えたところで、同人と交替して自室に退き、20時ごろ兵庫県家島諸島南方沖合において、昇橋して再び単独の当直に就き、香川県小豆島北側を経て播磨灘北西部を西行した。

21時52分少し過ぎA受審人は、犬島白石灯標から127度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点で、播磨灘北航路第3号灯浮標を右舷側至近に通過したとき、針路を前方の団子瀬と長州との間に向く250度に定めて自動操舵とし、機関を9.0ノットの全速力前進にかけ、折からの順潮流に乗じ、10.0ノットの対地速力で進行した。
そして、A受審人は、6海里レンジとしたレーダーを監視し、予定針路線の近くで、団子瀬及び長州上にそれぞれ設置されたのり養殖施設を確認しながら、これらの間を航過すれば大蛭島と井島の間の水道に向かうつもりで、同施設に注意を払って続航した。
22時23分少し過ぎA受審人は、右方の播磨灘北航路第2号灯浮標に並航したころ、ようやくのり養殖施設の間を航過し終え、操舵スタンドの後方に立って両手を同スタンドに置いた姿勢で見張りを続けていたところ、同施設を無難に航過したことからつい気が緩み、間もなく眠気を催すようになった。しかし、同人は、睡眠不足や疲労が蓄積した状態でなく、転針地点を間近にしてまさか居眠りすることはあるまいと思い、手動操舵に切り替えて操舵にあたるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった。

こうして、A受審人は、同じ姿勢で見張りを続けているうち、いつしか半睡状態に陥り、大蛭島を目前にして予定の転針を行うことができないまま進行中、22時30分少し前ふと目を覚まし、右舷方に大蛭島北方至近に存在する高さ12メートルの尖った岩を視認して驚き、右舵一杯としたが効なく、22時30分大蛭島灯柱から031度140メートルの同島北東岸に、第三勢宝丸は、原針路、原速力で乗り揚げた。
当時、天候は晴で、風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期で、付近には1.0ノットの西流があった。
乗揚の結果、船底外板に凹損を生じたが、サルベージ船の来援を得て離礁し、修理されたうえ、しばらくして海外に売船された。


(原因)
本件乗揚は、夜間、播磨灘北西部において、大蛭島と井島との間の水道に向かって西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針が行われないまま大蛭島北東岸に向首進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独の船橋当直により、播磨灘北西部を大蛭島と井島との間の水道に向かって自動操舵により西行中、左右に設置されたのり養殖施設の間を航過して間もなく眠気を催すようになった場合、居眠り運航とならないよう、手動操舵に切り替えて操舵にあたるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、睡眠不足や疲労が蓄積した状態でなく、転針地点を間近にしてまさか居眠りすることはあるまいと思い、手動操舵に切り替えて操舵にあたるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、のり養殖施設を無難に航過したことから気が緩んで半睡状態に陥り、予定の転針を行うことができないまま、大蛭島北東岸に向け進行して乗揚を招き、船底外板に凹損を生じさせるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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