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2000年(平成12年)

平成11年仙審第72号
    件名
漁船第五天榮丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年3月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

長谷川峯清、上野延之、内山欽郎
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:第五天榮丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
球状船首を圧壊して船首外板に亀裂を伴う損傷、船長が顔面挫創を負った。

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年2月10日03時30分
福島県小名浜港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五天榮丸
総トン数 38トン
全長 27.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 411キロワット
3 事実の経過
第五天榮丸(以下「天榮丸」という。)は、沖合底びき網漁業に従事する中央船橋型のFRP及び木製漁船で、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首1.3メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成11年2月9日03時30分福島県小名浜港を発し、同県塩屋埼南東方沖合の漁場に向かい、05時30分同漁場に到着後操業を繰り返して約3トンの底魚類を漁獲したのち、翌10日01時50分塩屋埼灯台から151度(真方位、以下同じ。)22.8海里の地点を発進し、所定の灯火を表示して帰途に就いた。
ところで、天榮丸は、農林水産大臣から岩手、宮城両県界正東線と千葉県野島埼突端正東線との間の区域での周年操業の許可を得ており、小名浜港を基地として千葉県銚子港から福島県四倉港までの沖合の海域において、タコ、メヒカリ、タラ及びドンコなどの底魚類を対象として1曳網約3時間半の操業を繰り返していた。また、A受審人は、市場が休場する毎月第1及び第3日曜日の各前日を休業日とし、時化の日を除く毎朝02時30分ごろ出港し、次の日の20時ないし21時に帰港して水揚げを行い、その後自宅に戻って約3時間休息したのち再び出漁し、基地と漁場との間及び投揚網時には単独の船橋当直に就き、操業を始めてからは揚網後の漁獲物整理作業を終えた航海当直部員の証印を受けている3人の甲板員を交代で同当直に当たらせ、各曳網中に1時間半ばかりの断続的な休息を取っていた。
発進時にA受審人は、窓や扉を閉め切って電気ヒーターで暖房した操舵室で単独の船橋当直に就き、基地への入航目標としてプロッタに入力してある海底波高計設置位置を示す赤灯付き黄色浮標(以下「波高計浮標」という。)付近に向け、針路を318度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
A受審人は、3海里レンジに設定したレーダー画面を見ながら周囲の見張りに当たり、ときどき船尾側に移動して窓越しに船尾甲板での漁獲物整理作業を見ていたが、03時ごろ同作業が終わって乗組員が船内に入ったのち、同甲板の作業灯を消灯し、操舵室の舵輪の右舷後方に置いた木箱に腰掛けた姿勢で続航した。
03時21分A受審人は、小名浜港三埼防波堤灯台(以下「三埼灯台」という。)から146度1.2海里の地点に達したとき、波高計浮標を左舷正横60メートルに航過し、通航に慣れた海域に至ったことで気が緩み、暖房の影響もあって眠気を催したが、間もなく同灯台を北方約400メートルに見る転針予定地点で、いつものように右転して小名浜港内に入航するので、居眠りに陥ることはあるまいと思い、気を引き締めて船位の確認に努めたり、入航準備を兼ねて早めに甲板員を呼んで2人で当直に当たるなどして居眠り運航の防止措置をとることなく、木箱に腰掛けたまま進行するうち、やがて居眠りに陥った。

こうして、天榮丸は、03時27分少し前小名浜港港口に向かう転針予定地点に達したが、A受審人が居眠りをしていてこのことに気づかず、転針が行われないまま小名浜港第1西防波堤に向首して続航中、03時30分三埼灯台から295度730メートルの地点において、原針路、原速力のまま、小名浜港第1西防波堤南側に設置された消波ブロックに乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、球状船首を圧壊して船首外板に亀裂を伴う損傷を生じたが、その後自力離礁して小名浜港に入港し、のち修理された。また、A受審人が乗揚の衝撃で前方に倒れて舵輪に当たり、顔面挫創を負った。


(原因)
本件乗揚は、夜間、基地である福島県小名浜港において、塩屋埼南東方沖合の漁場から帰航する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針が行われず、同港第1西防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、単独の船橋当直に就き、基地である小名浜港の入航目標としていた波高計浮標を航過したのち、同港港口に向かう転針予定地点に向けて進行中、眠気を催した場合、的確にその後の入航予定針路に転じることができるよう、気を引き締めて船位の確認に努めたり、入航準備を兼ねて早めに甲板員を呼んで2人で当直に当たるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、間もなく転針予定地点で右転して同港内に入航するので、居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、木箱に腰掛けたまま進行するうち居眠りに陥り、転針が行われないまま小名浜港第1西防波堤に向首進行して同防波堤南側に設置された消波ブロックへの乗揚を招き、球状船首を圧壊して船首外板に亀裂損傷を生じさせ、自ら負傷するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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