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2000年(平成12年)

平成11年広審第23号
    件名
貨物船第一星昌丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年2月4日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

中谷啓二、杉崎忠志、黒岩貢
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:第一星昌丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
船首部船底外板に亀裂を伴う凹損

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月7日15時30分
備讃瀬戸柏島南岸
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第一星昌丸
総トン数 376トン
全長 53.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第一星昌丸は、船尾船橋型の危険物積載タンカーで、A受審人ほか5人が乗り組み、酢酸ビニルモノマー250トンを積載し、船首2.5メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成10年3月7日13時50分水島港を発し、千葉港に向かった。
A受審人は、出航操船に引き続き1人で船橋当直に就き、幾度か他船を避航しながら、下津井瀬戸を通過して備讃瀬戸東航路の北側海域を東進し、15時03分半大槌島島頂(171メートル)から340度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点に達したとき、針路を柏島南端に向け083度に定めて自動操舵とし、機関を10.0ノットの全速力前進にかけ、前方約3海里の宇高東航路を横断後右転して、柏島南方から備讃瀬戸東航路に入る予定で、舵輪左方に置いた椅子に腰掛け進行した。

ところでA受審人は、従来、約1ヶ月半乗船したのち下船し半月の休暇をとるという勤務形態を繰り返していたが、たまたま今回の乗船では、交替者の都合で半月ばかり乗船期間が延びていて、積地の水島港と揚地諸港間を、各港とも短い停泊時間で折り返すという航海が続いていたことから、いつしか乗船中の疲労が蓄積気味となっていた。
15時18分ごろA受審人は、柏島の西方2海里付近に達して周囲に支障となる他船が見当たらなくなったころ、操舵室内は窓と扉を閉め切り暖房がよく効いていたことから、眠気を覚え始めたが、まさか眠ってしまうことはあるまいと思い、立ち上がって外気に当たるなど居眠り運航の防止措置をとることなく、椅子に腰掛けたまま当直に従事した。
こうしてA受審人は、15時23分宇高東航路第3号灯浮標を右舷側に航過したのを認め、まもなく転針しようと思っているうちいつしか居眠りに陥り、柏島南端に向首したまま進行中、第一星昌丸は、15時30分同島南岸の、爼石(まないたいし)灯標から111度3,650メートルの地点に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。

当時、天候は晴で風力4の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船首部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じたが、曳船の救助を得て離礁し、のち修理された。


(原因)
本件乗揚は、備讃瀬戸を東進中、居眠り運航の防止措置が不十分で、柏島南端に向首進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、備讃瀬戸において、1人で船橋当直に就き椅子に腰掛けた姿勢で当直中、眠気を覚えた場合、居眠り運航とならないよう、立ち上がって外気に当たるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか眠ってしまうことはあるまいと思い、立ち上がって外気に当たるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、柏島南端に向首進行して乗揚を招き、第一星昌丸の船首部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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