|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成11年3月8日03時55分 茨城県鹿島港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船明福丸 総トン数 498トン 全長 75.15メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
735キロワット 3 事実の経過 明福丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人及び甲種甲板部航海当直部員であるB指定海難関係人ほか3人が乗り組み、空倉のまま海水バラスト約600トンを漲水し、船首1.9メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成11年3月6日18時45分福島県相馬港を発し、茨城県鹿島港に向かった。 ところで、鹿島港は、鹿島灘に面した堀込港で、長さ約3,800メートルの南北に延びる南防波堤が築造され、同防波堤の北側2海里ばかりのところに検疫錨地があり、同錨地の南側で同防波堤の西側と住友金属工業株式会社鹿島製鉄所の護岸(以下「製鉄所護岸」という。)との間の水域が内航船の錨地として利用されていたが、北ないし東北東の風浪を遮るものがなく、鹿島港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から半径3海里圏内では、荒天時に走錨事故が多発しているので注意を要するところであった。 A受審人は、翌7日早朝鹿島港の検疫錨地付近に至り、8日朝の着岸時刻まで待機する予定で、7日04時25分南防波堤灯台から354度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点で投錨仮泊し、水洗いをした船倉内を乾燥させるためにハッチカバーを開放しようとしたところ、東寄りの波高約1.5メートルのうねりによる船体動揺が大きくてハッチカバーの開放ができず、うねりが小さい陸岸近くの南防波堤西側水域に転錨することとした。 08時10分A受審人は、南防波堤灯台から268度0.7海里の地点で、水深約10メートルで底質が貝殻混じりの砂のところに左舷錨を投じ、1節の長さ25メートルの錨鎖を3節半延出して単錨泊したが、陸岸から0.3海里と近く、十分な錨鎖の延出ができない状況で、うねりはやや小さくなったものの船体動揺は依然大きく、ハッチカバーの開放ができないまま待機することとした。 A受審人は、同日昼のテレビの気象情報を見たところ、九州南方沖合に前線を伴った発達中の低気圧があって東北東方に進行しており、今後低気圧の接近に伴って天候が悪化する状況であったので、夕刻から守錨当直を行うこととした。そして、17時半ごろの夕食時には、すでに秒速13メートルの北北東風が吹いていたので、一等航海士を20時から翌日の00時まで、B指定海難関係人を00時から04時まで入直するよう指示し、自らは当日の18時から20時までと翌朝04時から抜錨までの時間帯を担当することとしたが、守錨当直を行えば風速の変化を把握でき、走錨のおそれが生じたときに直ちに対応できると思い、錨鎖を十分に延出できる錨地を選定せず、守錨当直者に対し、具体的な風速値を示して風勢が強まるようであれば、直ちに報告するとともに、機関用意を促すなど指示することなく、十分な走錨防止の措置をとらなかった。 A受審人は、7日18時から守錨当直にあたり、19時ごろ一時降橋して見たテレビの気象情報では茨城県に強風、波浪注意報が発表されているのを知り、このころも秒速13メートルの北北東風が吹いている状況であったので、これ以上風勢が増したら揚錨して沖出しするつもりでいたが、依然機関用意の指示をせず、20時00分一等航海士に当直を委ねて降橋した。 翌8日00時00分B指定海難関係人は、一等航海士から異常ない旨の引継ぎを受けたのみで守錨当直を交代し、このころから秒速15メートルの北風が吹き、波高3メートルで東北東からのうねりがある状況であったが、昇橋した折に見た風速計が一時的に秒速10メートルばかりであったので、継続して風速の変化を観察するなど、気象・海象の変化に気を配らず、風勢の増したことやうねりの高まりに気付かないまま、時々レーダーを作動させ、0.75海里とした可変マーカーが南防波堤の北端にあっていることを確認し、03時35分にレーダーを見て錨位に変化なく走錨していないことを確認したのち、同時45分ようやく風勢の増したことに気付いたが、これまでに異常がなく、あと10分もしたらA受審人が当直交代のために昇橋してくるので、そのときに報告しても大丈夫と 思い、速やかにA受審人に風勢の増したことを報告することなく同人の昇橋を待つうち、いつしか最大瞬間風速が秒速18メートルに達する突風を伴う北東風と東北東からのうねりを受けて走錨を始めたが、このことに気付かなかった。 A受審人は、自室で休息中に守錨当直者からの報告がなかったことから風勢の増したことに気付かず、03時50分当直交代のために昇橋してレーダーで船位を確認したところ、陸岸までの距離が0.2海里になっていることから走錨していることを知り、直ちに機関用意を令して抜錨準備に取りかかったが、機関用意ができるのを待つ間も走錨が続き、03時55分南防波堤灯台から251度1.0海里の地点において、明福丸は、その左舷側を製鉄所護岸に設けられた鹿島共同火力発電所の排水口付近に打ち寄せられ、船首を320度に向け、護岸の外周に設置された消波ブロックに乗り揚げた。 当時、天候は曇で、最大瞬間風速が秒速18メートルに達する突風を伴う風力7の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 A受審人は、直ちに海上保安庁に通報して救助を要請した。 乗揚の結果、左舷中央部水線下外板に破口を生じ、船体はのちに廃船処理され、燃料油が流出したが回収され、乗組員は海上保安庁のヘリコプターで全員無事救助された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、鹿島港において錨泊中、強風・波浪注意報が発表された状況下、走錨防止措置が不十分で、突風を伴う強風によって走錨し、製鉄所護岸に向けて圧流されたことによって発生したものである。 運航が適切でなかったのは、船長の走錨防止措置及び守錨当直者に対する指示が十分でなかったことと、守錨当直者の風勢の増したときの報告がなされなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、夜間、鹿島港において錨泊中、強風・波浪注意報が発表され、低気圧の接近により北東からの風勢の増すことを知った場合、同港は北ないし東北東に開口し、同方向からの風浪を遮るものはないうえ、錨かきが悪くて走錨事故が多発しているところであるから、錨鎖を十分に延出できる錨地を選定し、守錨当直者に対し、具体的な風速値を示して風勢が強まるようであれば、直ちに報告するとともに、機関用意を促すなど指示して、十分な走錨防止措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、守錨当直を行えば風速の変化を把握でき、走錨のおそれが生じたときに直ちに対応できると思い、錨鎖を十分に延出できる錨地を選定せず、守錨当直者に対し、具体的な風速値を示して風勢が強まるようであれば、直ちに報告するとともに、機関用意を促すなど指示することなく、十分な走錨防止措置をとらなかった職務上の過失により、突風を伴う強風によって走錨を始め、製鉄所護岸に圧流されて乗り揚げ、船底部に破口を生じるなどして全損させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。 B指定海難関係人が、夜間、鹿島港において錨泊中、風勢が増してきたことを知った際、直ちに船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。 |