日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年横審第112号
    件名
旅客船さるびあ丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年2月16日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

長浜義昭、半間俊士、吉川進
    理事官
藤江哲三

    受審人
A 職名:さるびあ丸船長 海技免状:三級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
船底中央部に亀裂を伴う凹損、右舷推進器翼に損傷

    原因
船位確認不十分

    二審請求者
理事官藤江哲三

    主文
本件乗揚は、船位確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年4月3日14時09分
伊豆大島岡田港北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 旅客船さるびあ丸
総トン数 4,965トン
全長 120.5メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 8,237キロワット
3 事実の経過
さるびあ丸は、京浜港東京区及び同港横浜区と伊豆諸島との間の定期航路に就航する、2基2軸の可変ピッチプロペラを備えた鋼製貨客船で、A受審人ほか29人が乗り組み、旅客182人を乗せ、コンテナ8個を積載し、船首5.12メートル船尾5.15メートルの喫水をもって、平成11年4月3日13時05分伊豆諸島の利島港を発し、岡田港のR株式会社(以下「R社」という。)発着所に向かった。
A受審人は、13時53分ごろ元町港の北北西方約1.7海里沖合で昇橋し、首席二等航海士よりR社発着所に着岸中の僚船がやがて離岸して岡田港防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)の北方750メートル付近に錨泊するので、その後に出船右舷着けするようR社から連絡があった旨の報告を受けて操船の指揮をとり、同航海士を操船補佐に、操舵手を手動操舵に、二等機関士を機関の遠隔操作にそれぞれつけ、機関を全速力前進にかけ、19.0ノットの対地速力で進行し、14時00分半港内全速力に減じ、伊豆大島北端の乳ヶ埼の付け回しを開始した。

ところで、岡田港は、伊豆大島北部の陸岸から沖合313度(真方位、以下同じ。)方向に伸びる長さ約300メートルの埋立地の南西側に設けられた岸壁がR社発着所として使用され、岸壁の北端からさらに333度方向に長さ約150メートルの防波堤が構築され、防波堤とその南西方の対岸に囲まれた港口が北西方に開口し、防波堤灯台の西北西方約750メートルにある小口鼻から北方約200メートル沖合まで水深5メートル以下の浅所(以下「小口鼻北方の浅所」という。)が拡延していた。
また、R社の船舶運航管理規程に定められた運航基準図には、伊豆大島西方水域から岡田港に至るための基準航路として、伊豆大島灯台から328度1,350メートルの地点で112度の針路、防波堤灯台から328度1,250メートルの地点で152度の針路とし、小口鼻北方の浅所を約400メートル離して入港するよう定められていた。

A受審人は、京浜港と伊豆諸島との間の定期航路に就航する貨客船の船長職を3年ほど前からとっており、小口鼻北方の浅所の状況等岡田港周辺水域の水路事情や基準航路を熟知していた。
こうしてA受審人は、乳ヶ埼を付け回し終え、14時02分伊豆大島灯台から317度1,700メートルの地点において、同灯台の約700メートル沖に向け針路を114度に定めたところ、小口鼻北方500メートル付近の岡田港港口沖合にスパンカーを揚げて漂泊中の小型漁船(以下「小型漁船」という。)を初認し、同時03分16.3ノットの対地速力から機関を半速力前進に、同時04分微速力前進に操作し、減速しながら進行した。
A受審人は、14時05分少し過ぎ防波堤灯台から314度1,600メートルの地点において、岡田港の港口付近で出港する僚船をその陸寄りで停留して待ち、かつ、着岸操船の水域を確保するようできるだけ陸寄りに位置するつもりで、小型漁船と小口鼻との間の水域に向けて150度に転じ、同漁船を左舷側に約200メートル離してかわした後に左転して港口に向かうこととした。

A受審人は、転針したころ、首席二等航海士がレーダー監視をやめて船橋右舷側で目視による見張りにつく旨の報告を受けてこれを了承し、14時05分半12.4ノットから機関を中立として行きあしを更に減じながら、小口鼻北側の浅所に接近する針路で進行したが、岡田港への入港操船に慣れているから大丈夫と思い、以降レーダーを活用して小口鼻までの距離を測定するなど船位を確認することなく、小型漁船との航過距離を目測しながら、原針路で続航した。
A受審人は、14時07分半小型漁船を左舷側にかわしたので港口に向けることとしたとき、ようやく小口鼻北側の浅所に接近していることに気付き、左舵一杯とすると船尾が右に振れて危険と思い、左舵15度とし、同時08分には機関を極微速力前進にかけて左回頭しながら進行中、14時09分防波堤灯台から297度760メートルの地点において、117度に向き、5.0ノットの対地速力で、小口鼻北側の浅所に乗り揚げ、これを擦過した。

当時、天候は曇で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
乗揚の結果、船底中央部に亀裂を伴う凹損、及び右舷推進器翼に損傷をそれぞれ生じたが、自力で岡田港に入港し、のち修理され、旅客等に負傷者はなかった。


(原因)
本件乗揚は、岡田港北西方沖合を同港に向けて進行中、港口沖合で漂泊している小型漁船と小口鼻との間の水域を経由して入港する際、船位確認が不十分で、小口鼻北方の浅所に向首進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、岡田港北西方沖合を同港に向けて進行中、港口沖合で漂泊している小型漁船と小口鼻との間の水域を経由して入港する場合、同水域には小口鼻北方の浅所が存在することを知っていたのであるから、同浅所に接近しないよう、レーダーを活用して小口鼻までの距離を測定するなど船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同港への入港操船に慣れているから大丈夫と思い、船位を十分に確認しなかった職務上の過失により、目測のみに頼り同浅所に接近する針路で進行してこれに乗り揚げ、船底中央部に亀裂を伴う凹損、及び右舷推進器翼に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION