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2000年(平成12年)

平成11年仙審第63号
    件名
貨物船雷鳥丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年2月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

長谷川峯清、上野延之、内山欽郎
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:雷鳥丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船尾部の船底及び右舷各外板にそれぞれ破口、流出した多量の燃料油によって付近の海域及び海岸が汚染、ハッチカバーが破損してコンテナが流出、のち沈没

    原因
気象・海象(最新の気象情報)把握不十分

    主文
本件乗揚は、最新の気象情報の入手が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年1月21日03時53分
新潟県新潟港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船雷鳥丸
総トン数 993トン
全長 97.99メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,691キロワット
3 事実の経過
雷鳥丸は、A2ナブテックス水域の沿海区域を航行区域とする船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか9人が乗り組み、ハッチカバーのある船倉内にコンテナ109本を積載し、船首3.60メートル船尾4.90メートルの喫水をもって、平成11年1月19日20時20分北海道石狩湾港を発し、新潟県新潟港西区に向かった。
ところで、新潟港西区沖合の同港外港は、底質が砂混じりの泥で、信濃川の河川流の影響はないものの北東方に弱い海潮流があり、新潟港長が、同外港に投錨待機する船舶に対し、最新の気象情報の入手に努めること及び強風時には走錨に注意することなどについて留意するよう指導していた。また、A受審人は、これまでに同外港に何回も錨泊したことがあり、冬季雪雲が接近すると急に風が強くなることを経験して知っていた。

A受審人は、船橋当直を00時から04時までと12時から16時までを二等航海士、04時から08時までと16時から20時までを一等航海士、及び08時から12時までと20時から24時までを自らが、それぞれ甲板部員と2人で担当する3直制を採っていた。同人は、雷鳥丸が、石狩湾港から新潟及び姫川両港を経由して富山港に至る航路を5日間で巡航しており、航行中に入港時間の調整を行っていたものの、短時間錨泊して同調整を行うときには、投錨後に走錨の有無を確認するため自ら守錨当直を行っていた。また、台風が接近して強風が予想されるようなときには航海士と交代で守錨当直を行っていた。
A受審人は、日本海を南下中の同月20日午前中の船橋当直時に、ナブテックス記録紙による海上安全情報や気象ファックスによる24時間後の気象予報に目を通し、気圧傾度が緩いので強風にはならないと判断し、その後最新の同記録紙も同ファックスも見なかった。

16時20分新潟地方気象台は、新潟県上中下越地方に風雪、雷、波浪注意報とともに、日本海の上空に寒気が入って今夜から冬型の気圧配置が強まり、海上では明日昼過ぎにかけて西又は北西の風が雪を伴って断続的に最大風速が毎秒18メートル吹き、波の高さが今夜3メートル、明日4メートルに達する所があること、明日の明け方にかけて大気の状態が不安定となり落雷や突風が予想されるので船舶は風雪や高波に十分注意することなどの気象情報を発表した。
A受審人は、同気象情報を知らないまま、20時に再度昇橋して午後の船橋当直に就き、入港予定時刻の06時30分まで新潟港西区沖合の同港外港に投錨仮泊することとし、24時の当直交代時に新潟港外まで約1時間であったので、次直者が昇橋したのちも引き続き船橋に残って同当直に当たった。
翌21日01時10分A受審人は、新潟港外港の新潟港西区西突堤灯台(以下「西突堤灯台」という。)から350度(真方位、以下同じ。)1.1海里で水深20メートルの地点に至ったとき、20時の当直交代時には風力5の北西風が吹いていたものの、24時の同当直交代時前からは風力4の北西風に落ち着いていたことから、今後入港予定時刻までの間に風勢が強まることはあるまいと思い、安全に錨泊することができるよう、ナブテックス受信機の記録紙を読むとか、あるいは関係官署に問い合わせるなどして最新の気象情報を十分に入手することなく、強風と高波が予想されていることを知らないまま、船橋に昇橋中の二等航海士と甲板部員1人を船首配置に就かせ、重量2,135キログラムの左舷錨を投じ、直径42ミリメートルの錨鎖4節を水面まで伸出して錨泊を開始し、投錨後他の乗組員を休息させ、航海日誌の記入などをしながら、いつものように単独の守錨当直に就いた。
A受審人は、02時少し前にレーダーを使用して船位を測定したところ、船首が左右に振れてはいたものの船位も風力も変わっていなかったことから、依然最新の気象情報を入手せず、強風と高波の対策をとらないまま、降橋して自室で休息し、船橋を無人として錨泊を続けた。
雷鳥丸は、その後北西からの強風と高波により走錨し始め、新潟港第2西防波堤に向かって圧流されたが、A受審人が休息を続けていてこのことに気づかないまま、03時53分西突堤灯台から355度320メートルの地点において、船首が005度を向いた状態で、その船尾部が、同防波堤南部西側に設置された消波ブロックに乗り揚げた。
当時、天候は雪時々曇で風力8の北西風が吹き、潮侯はほぼ高潮時であった。

A受審人は、乗揚時の衝撃に気づいて直ちに昇橋し、船体の態勢維持に努めたが、その後機関室への浸水が激しくなったため04時20分新潟海上保安部に連絡し、ヘリコプターにより他の乗組員とともに救助された。
乗揚の結果、船尾船底が同ブロックに約1時間当たり続け、その後ゆっくり船尾方に圧流されて07時少し前新潟港第1西防波堤の西側に右舷船首部が乗り上がるとともに船底が着底し、船尾部の船底及び右舷各外板にそれぞれ破口を生じ、流出した多量の燃料油によって付近の海域及び海岸が汚染され、ハッチカバーが破損してコンテナが流出し、のち沈没した。


(原因)
本件乗揚は、冬季の夜間、新潟県新潟港外港において錨泊する際、最新の気象情報の入手が不十分で、強風と高波の対策をとらないまま錨泊中、走錨して同港第2西防波堤に圧流されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、冬季の夜間、新潟港外港において錨泊する場合、雪雲が接近すると急に風が強くなることを経験して知っていたから、安全に錨泊することができるよう、ナブテックス受信機の記録紙を読むとか、あるいは関係官署に問い合わせるなどして最新の気象情報を十分に入手するべき注意義務があった。ところが、同人は、投錨時には新潟県下越地方に風雪、雷、波浪注意報が発表され、今後翌日までに風力8の強風と波高3ないし4メートルの波浪が予想されていたのに、当直交代時から風力4の北西風に落ち着いていたことから、入港予定時刻までの間に風勢が強まることはあるまいと思い、最新の気象情報を十分に入手しなかった職務上の過失により、強風と高波の対策をとらないまま錨泊中、走錨して新潟港第2西防波堤に向かって圧流され、同防波堤の西側に設置された消波ブロックへの乗揚を招き、雷鳥丸の船尾部の船底及び右舷各外板に破口を生じさせ、のち沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。


よって主文のとおり裁決する。






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