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2000年(平成12年)

平成11年函審第63号
    件名
漁船第3北翔丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年2月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

酒井直樹、大石義朗、古川隆一
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:第3北翔丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
キール後部、シューピース下部及びビルジキール後部に擦過傷

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月14日02時30分
北海道納沙布岬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第3北翔丸
総トン数 11トン
登録長 14.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
第3北翔丸(以下「北翔丸」という。)は、さんま棒受け網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人、B指定海難関係人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成10年10月13日13時30分北海道網走港を発し、根室海峡の漁場に向かった。
A受審人は、1人で船橋当直に当たり、同日19時ごろ根室海峡に至って魚群探索を行ったが、魚影はなく無線機で釧路港沖合の漁模様が良いとの情報を得て、いったん花咲港に入港して準備を整えてから釧路港沖合に向かうことにし、20時30分ごろ投網待機させていた乗組員の配置を解き、21時15分B指定海難関係人を操舵室屋根に設けた見張り用の上部操舵室で見張りに当たらせ、自らは下部操舵室で手動操舵に当たって根室海峡を南下した。

A受審人は、23時00分野付埼灯台から342度(真方位、以下同じ。)12.0海里の野付水道入口に達したとき、針路を同水道のほぼ中央に向く138度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。
ところで、北翔丸は、同年10月10日02時00分花咲港を出港し、同日夜は網走港沖合の漁場で操業して翌11日早朝に根室港で漁獲物の水揚作業を行い、同日の夜は羅臼港沖合の漁場で操業し、翌12日の夜に網走港沖合に漁場を移動して操業を行い、翌13日の早朝に同港に入港し、漁獲物約1.5トンを水揚げしたもので、B指定海難関係人は、夜間操業が3日間連続し、停泊中は漁獲物水揚作業などに追われて連続した休息時間がとれず、疲労が蓄積し、睡眠不足の状態となっており、漁ろう作業の指揮をとっているA受審人はこのことを知っていた。

A受審人は、23時30分同灯台から358度7.8海里の地点に達したとき、3時間ばかり休息をとれば自然に目が覚めることから、珸瑶瑁(ごようまい)水道の入口手前1海里のところで自ら昇橋して操船に当たるつもりで、船橋当直をB指定海難関係人1人に委ねてGPSプロッターに表示しておいた野付水道から珸瑶瑁水道入口の中央部を通る航路線から偏位しないよう指示した。しかし、同受審人は、珸瑶瑁水道の入口付近で自ら昇橋して操船指揮に当たるから、それまでは船橋当直者が居眠りすることはあるまいと思い、眠気を覚えたら速やかに報告するよう指示することなく、下部操舵室後方の自室に退いて休息した。
こうして、B指定海難関係人は、同日23時35分から上部操舵室左舷側床の約0.5メートル正方形の下部操舵室出入口ハッチ後縁に腰を掛け、足を下部操舵室に下げた姿勢で前面のサッシ窓を1枚開けて前方の見張りに当たり、船位がGPSプロッターの航路線に乗るよう同室に備えた自動操舵装置の針路設定用つまみで偏位を修正しながら続航し、翌14日00時27分野付埼灯台から082度5.8海里の地点に達したとき、針路をトーサムポロ岬に向く131度に転じて進行し、01時40分ノッカマップ埼灯台から024度3.8海里の地点に達したとき、船位がGPSプロッターの航路線から右方に偏位していたので自動操舵のつまみで針路を115度に転じたところ、貝殻島の少し南方の険礁に向首したが、このことに気付かなかった。

B指定海難関係人は、転針後間もなく前面窓から冷たい風が入ってきたので窓を閉めたところ、下部操舵室で使用していた2台の電気ストーブによる暖気が上部操舵室まで上がってきて室内が暖まってきたこともあって蓄積した疲労と睡眠不足により眠気を覚えたが、あと30分ぐらいで珸瑶瑁水道の入口に達し、船長が操船指揮のため昇橋するから、それまでは居眠りすることはあるまいと思い、眠気を覚えていることをA受審人に報告することなく続航し、02時06分納沙布岬灯台から318度2.7海里に達し、船長の昇橋地点まで1海里ばかり手前にさしかかったころ、居眠りに陥った。
こうして、北翔丸は、居眠り運航となり、珸瑶瑁水道中央に向け転針が行われず、貝殻島南方の険礁に向首したまま進行中、02時30分納沙布岬灯台から080度1.9海里の地点において、貝殻島付近の険礁に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。

当時、天候は霧で風力2の南風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。A受審人は、衝撃で操舵室後部ベッドから前面に出て本件発生を知り、事後の処置に当たった。
乗揚の結果、北翔丸は、キール後部、シューピース下部及びビルジキール後部に擦過傷を生じたが、歯舞漁港の同業船により引き降ろされ、自力で花咲港に入港し、のち損傷部は修理された。


(原因)
本件乗揚は、夜間、北海道根室海峡南部の野付水道から北海道根室半島東端の珸瑶瑁水道入口に向け航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、納沙布岬東方の貝殻島付近の険礁に向首進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、眠気を覚えたら速やかに報告するよう指示しなかったことと、船橋当直者が、眠気を覚えた際、船長に報告しなかったこととによるものである。


(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、北海道根室海峡南部の野付水道から北海道根室半島東端の珸瑶瑁水道入口に向け航行中、乗組員を単独船橋当直に当たらせる場合、連続した夜間操業が続き、船橋当直者に疲労が蓄積し、睡眠不足の状態となっていることを知っていたのであるから、居眠り運航とならないよう、船橋当直者に対し、眠気を覚えたら速やかに報告するよう指示すべき注意義務があった。ところが、A受審人は珸瑶瑁水道の入口付近で自ら昇橋して操船指揮に当たるから、それまでは船橋当直者が居眠りすることはあるまいと思い、同当直者に対して眠気を覚えたら速やかに報告するよう指示しなかった職務上の過失により同当直者が居眠りに陥り、珸瑶瑁水道の中央に向け転針が行われず、貝殻島南方の険礁に向首したまま進行して乗揚を招き、北翔丸に、キール後部、シューピース下部及びビルジキール後部に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、単独船橋当直に就いて北海道根室海峡南部の野付水道から北海道根室半島東端の珸瑶瑁水道入口に向け航行中、眠気を覚えた際、A受審人に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。


よって主文のとおり裁決する。






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