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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年8月26日09時15分 山口県角島北東方一ツ礁 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三長生丸 総トン数 19トン 全長 23.45メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
588キロワット 3 事実の経過 第三長生丸(以下「長生丸」という。)は、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及び同人の実父であるB受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、平成10年8月24日13時00分山口県特牛港を発し、角島灯台の北西方40海里の漁場に向かった。 ところで、B受審人は、昭和46年4月に丙種船長の海技免状を取得したのち更に同53年4月に一級小型船舶操縦士の海技免状を取得しており、有限会社Rの社長として同63年12月に長生丸を新造し、船長として乗り組んで漁業に従事していたところ、次男であるA受審人が海技免状を取得したことから、平成10年3月にA受審人を訓練するために同人を船長として乗り組ませ、自らは甲板員として乗り組んだものの、実質の船長兼漁ろう長として操船及び操業の指揮を執り、A受審人には操船の訓練のために漁場を発進したのち2時間ほどの船橋当直を行わせていたが、出入港の操船は自らが行っていた。 A受審人は、18時00分前示漁場に至って操業を開始し、翌々26日05時30分いか960キログラムを獲て操業を終了し、漁場を発進して水揚げの目的で特牛港に向かい、前夜からの操業中に休息をとっていたB受審人に操船を委ねて、実弟である甲板員と共に操業で汚れた甲板の清掃作業を開始した。 06時00分ごろA受審人は、甲板の清掃作業を終えて昇橋し、船橋当直に当たっていたB受審人に対していつものように当直の交替を申し出たものの、大漁となった操業によるA受審人の疲労を考慮したB受審人の特牛港まで1人で操船する旨の主張を受け入れ、眠気を催したときはすぐに連絡すること及び僚船からの無線電話をよく聞いておくように指示して降橋し、船尾部の船員室で休息した。 B受審人は、06時17分角島灯台から310度(真方位、以下同じ。)32.5海里の地点において、角島の東側から海士ケ瀬戸を経由して特牛港に向かう予定で、針路を同島の北東岸近くの沖合に向く127度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で進行した。 また、B受審人は、角島北東岸近くの沖合に一ツ礁の岩場があることを漠然と知っていたものの、平素、同島北方の漁場から海士ケ瀬戸に向けて同岸付近を南下する際、元山三ケ瀬北東照射灯の被照射標柱である三ケ瀬北東部の白柱形の標柱(以下「白色標柱」という。)近くを無難に航行していたことから、同様に離して航行すれば大丈夫と思い、海図により一ツ礁の正確な位置を確かめるなどの水路調査を十分に行わなかった。 B受審人は、同じ針路、速力で続航し、09時14分船首方790メートルのところに白色標柱を認め、同標柱の北西方450メートルのところに存在する一ツ礁に340メートルまで接近したものの、同礁に気付かないまま、左舷後方から追い越していった漁船の右舷後方を追い掛ける態勢で同船を注視しながら進行中、09時15分元山三ケ瀬北東照射灯から001度1,200メートルの地点において、長生丸は、原針路、原速力のまま一ツ礁に乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 A受審人は、乗揚の衝撃で目を覚まし、昇橋して乗り揚げたことを知り、浸水の有無を確認するなど事後の措置に当たった。 乗揚の結果、船底に破口を生じて機関室に浸水し、来援したサルベージの作業船によって吊り上げられて離礁したが、修理費用の関係から廃船処理された。
(原因) 本件乗揚は、山口県角島北東岸近くの沖合を航行する際、水路調査が不十分で、一ツ礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) B受審人は、山口県角島北東岸近くの沖合を航行する場合、一ツ礁に著しく接近することのないよう、海図により同礁の正確な位置を確かめるなどの水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、角島北東岸近くの沖合に一ツ礁の岩場があることを漠然と知っていたものの、平素、同島北方の漁場から海士ケ瀬戸に向けて同岸付近を南下する際に白色標柱近くを無難に航行していたことから、同様に離して航行すれば大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、一ツ礁に向首進行して乗揚を招き、長生丸の船底に破口を生じさせて機関室を浸水させるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 A受審人の所為は本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。 |