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2000年(平成12年)

平成11年門審第78号
    件名
漁船二号神力丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年1月11日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

供田仁男、西山烝一、平井透
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:二号神力丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部を除く船底外板を破損、波浪を受けるうち転覆し、廃船処理

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月27日01時45分
山口県草山埼西方カマギ瀬
2 船舶の要目
船種船名 漁船二号神力丸
総トン数 4.8トン
登録長 11.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
二号神力丸(以下「神力丸」という。)は、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.2メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成10年3月24日09時00分山口県秋穂漁港を発し、伊予灘西部で操業を行い、かれい、たちうお等150キログラムを漁獲したのち、翌々26日21時00分漁場を発進して帰途に就いた。
A受審人は、22時40分大分県姫島東方沖合に至ったとき、草山埼とその西方600メートルに位置するカマギ瀬との間に向かうつもりで、草山埼南西方280メートルの地点を目的地としてGPSプロッターに入力し、自動操舵の針路設定を同プロッター画面に表示された目的地への針路に適宜合わせ、東風が徐々に強まり降雨で視界が次第に悪化するなか、周防灘を北上した。

翌27日01時02分A受審人は、前示の目的地まで約2海里となったころ、操業で使用した漁網を洗うため、機関をほぼ中立運転として船尾から同網を海中に投入し、同時04分草山埼灯台から142度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点において、自動操舵としたまま針路を313度に定め、機関を全速力前進よりも少し下げた回転数毎分2,500(以下回転数は、毎分のものとする。)にかけて4.7ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、GPSプロッターの針路表示機能を解除して船尾甲板上で後方を向き、洗網を開始した。
定針したときA受審人は、激しい降雨により視界が急速に悪化して視程が100メートルに狭められ、草山埼灯台の灯火や同灯台に併設された照射灯によって照らされるカマギ瀬上の標柱などの物標を視認することができなかったが、海中の漁網を監視することに気をとられ、定めた針路線上を航行できるよう、レーダーによる船位の確認を十分に行うことなく、右舷後方からの東風で左方に4度圧流されながらカマギ瀬に向かって進行していることに気付かないまま北上を続けた。

01時31分A受審人は、当初GPSプロッターに入力しておいた目的地から290メートル外れてその南西方を通過し、カマギ瀬の南東方500メートルに達していたものの、依然として船位の確認を行っていなかったので、このことに気付かず、同時34分草山埼灯台から254度1,100メートルの地点で、機関を停止して洗網を終了し、漁網の揚収にとりかかった。
A受審人は、海中の漁網の抵抗で船尾を風上に向け、ほとんど移動しないまま、01時44分同網の揚収を終え、カマギ瀬の北側に出るつもりで、右舵をとって機関を回転数1,500にかけ、針路を000度として4.0ノットの速力で進行中、01時45分草山埼灯台から260度1,050メートルの地点において、神力丸は、原針路、原速力で、同瀬の岩礁に乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力5の東風が吹き、潮候はほぼ低潮時にあたり、視程は100メートルであった。

乗揚の結果、船首部を除く船底外板を破損し、波浪を受けるうち転覆して、廃船処理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、激しい降雨により視程が著しく狭められた草山埼沖合において、同埼とその西方のカマギ瀬との間に向かう針路で北上中、レーダーによる船位の確認が不十分で、カマギ瀬に向かって進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、激しい降雨により視程が著しく狭められた草山埼沖合において、操業で使用した漁網を洗いながら同埼とその西方のカマギ瀬との間に向かう針路で北上中、草山埼灯台の灯火やカマギ瀬上の標柱などの物標を視認することができない場合、定めた針路線上を航行できるよう、レーダーによる船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、海中の漁網を監視することに気をとられ、レーダーによる船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、右舷後方からの東風で圧流されてカマギ瀬に向かって進行していることに気付かず、同瀬の岩礁への乗揚を招き、船首部を除く船底外板を破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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