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2000年(平成12年)

平成11年広審第41号
    件名
漁船第一長勢丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年1月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

中谷啓二、杉崎忠志、織戸孝治
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:第一長勢丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:第一長勢丸漁ろう長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
右舷船底部及び船側部に破損、凹損、のち廃船

    原因
水路調査不十分

    主文
本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Bの五級海技士(航海)の業務を一箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月25日20時00分
日本海 島根半島沿岸
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一長勢丸
総トン数 75.32トン
全長 34.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 382キロワット
3 事実の経過
第一長勢丸(以下「長勢丸」という。)は、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、A、B両受審人及びC指定海難関係人ほか6人が乗り組み、船首1.5メートル船尾2.5メートルの喫水をもって、平成10年3月25日02時島根県八束郡恵曇(えとも)港を発し、06時ごろ日御碕西北西方沖合の漁場に至って操業を開始し、ほたるいか約3.5トンを漁獲したのち、16時45分出雲日御碕灯台(以下「日御碕灯台」という。)から291度(真方位、以下同じ。)25.0海里の地点を発進し、10数隻の僚船と共に帰途に就いた。
ところで長勢丸は、例年、年初から5月末まで恵曇港を基地として前示漁場で、早朝出漁し夜間帰港する日帰りの操業を行っており、また、A受審人は、出入港時の操船指揮を自身で執る以外、出漁中の運航は、漁場への往復時を含め、船長経験が豊富で同船就航時から漁ろう長と機関長を兼任し運航を担当していたB受審人に専ら委ね、漁場と恵曇港間の船橋当直を全乗組員による単独の2時間輪番制で実施し、当時、連日の帰航時の状況と変わったこともなかったので、発進時の操船及びこれに引き続く船橋当直をB受審人に任せて船員室で休息をとった。

B受審人は、発進時、GPSプロッターの表示を見て、針路を船首目標にしている恵曇港北沖防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)のわずか北方に向く094度に定め、機関を全速力前進にかけて自動操舵とし、折からの風潮流の影響を受け、096度の進路となって10.1ノットの対地速力で進行し、18時00分日御碕灯台から322度9.3海里の地点に達したころ、次直のC指定海難関係人に当直を引き継ぐこととした。
そのころB受審人は、これから島根半島北岸沿いに航行するにあたり、原針路からの偏位がわずかで、GPSプロッターの針路表示では、船首目標である北防波堤灯台にほぼ向首していることを認めていたものの、付近海域には陸岸に向く風潮流があり、その影響によって、予定針路より陸岸に寄って進行すると、恵曇港西方約2.5海里で陸岸沖0.4海里ばかりのところに存在する、GPSプロッターには表示のない干出岩に接近するおそれがあったが、それまで幾度も付近を航行中それを認めたことがなく、当時僚船が自船より陸岸寄りに先航していたことなどから、予定針路の陸岸寄りの海域を航行しても支障となる障害物はないものと思い、保有していた海図第1172号を参照するなどして同海域の水路調査を行うことなく、干出岩が存在していることに気付かず、C指定海難関係人と当直を交替し、操舵室後部で横になって仮眠をとった。
C指定海難関係人は、船橋当直に就き、同針路で進行し、19時54分前示干出岩に向け1海里のところに接近していたが、操舵室右舷側に立って目視による見張りを続行していたものの、夜間でほとんど波に洗われる状態の同岩に気付くことができず続航中、前方陸岸の灯火の視認模様から恵曇港に近付いたことを知り、B受審人を起こそうとしていたとき突然衝撃を感じ、長勢丸は、20時00分北防波堤灯台から266度3,900メートルの地点において、干出岩(0.3メートル)に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、潮高は約3センチメートルであった。
A受審人は、就寝していたとき衝撃に気付き、すぐに昇橋して事後の措置に当たった。

乗揚の結果、右舷船底部及び船側部に破損、凹損などを生じ、横転してクレーン船に引き揚げられたが、のち廃船となり、乗組員は、来援した漁船に救助された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、島根半島沿岸を恵曇港向け帰航する際、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。


(受審人等の所為)
B受審人が、夜間、船橋当直に就き、島根半島沿岸を陸岸に向かう風潮流下、恵曇港向け帰航する場合、予定針路より陸岸寄りの海域に障害物がないか、海図を参照するなどして水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同海域には支障となる障害物はないものと思い、海図を参照するなどして十分に水路調査を行わなかった職務上の過失により、恵曇港西方沖の干出岩の存在に気付かず進行して乗揚を招き、右舷船底部及び船側部に破損、凹損などを生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
C指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。


よって主文のとおり裁決する。






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