日本財団 図書館




2000年(平成12年)

平成11年広審第56号
    件名
油送船第一海運丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年1月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

黒岩貢、織戸孝治、横須賀勇一
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:第一海運丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船底外板に擦過傷

    原因
無理な航行

    主文
本件乗揚は、視界が制限されて船位の確認ができなくなった際、航行を中断して視界の回復を待たなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年4月25日12時10分
呉港広区
2 船舶の要目
船種船名 油送船第一海運丸
総トン数 19トン
登録長 20.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 121キロワット
3 事実の経過
第一海運丸(以下「海運丸」という。)は、専ら広島港内の油槽所か同港あるいは呉港に停泊中の船舶への燃料輸送に従事するレーダーを装備しない船尾船橋型バンカーバージで、A受審人ほか1人が乗り組み、重油約30トンを積載し、これを呉港広区広埠頭に停泊中の船舶に補油する目的で、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成10年4月25日09時00分広島港宇品地区を発し、音戸瀬戸経由由で呉港広区に向かった。
A受審人は、当初、08時00分の出港予定のところ、霧模様であったためこれを見合わせ、09時前になって視界が回復したため出港したもので、自ら操舵操船に当たって広島湾を南下し、小用港沖合から甲板員を操舵に就かせて音戸瀬戸を通過したところ、11時ごろ観音埼沖合に差し掛かったころ、急に前方の視程が300メートルばかりとなった。

A受審人は、自船がレーダーを装備していなかったことから、視界が制限されると船位の確認ができない状況となることは承知していたが、左舷方の陸岸は見えており、また、当時、広区西側の陸岸に沿う南北約1,400メートル東西約900メートルの水域で埋め立て工事が行われ、その境界線上には多数の点滅灯付黄色浮標(以下「黄色浮標」という。)が設置されており、毎日のようにこの付近を広埠頭に向け通航して同浮標の配置を熟知していたことから、いつもは呉港広第1及び同第2号灯浮標に向けるところ、左舷側の陸岸に沿って進み、前示浮標により船位を確認しながらこれに沿って埋め立て工事区域を大回りし、目的の岸壁に行き着くことを思い立ち、甲板員を船首に配置して再び自ら手動操舵に当たり、機関停止と微速力前進を交互に繰り返しながら2ないし3ノットの対地速力で航行を続けた。
しばらくしてA受審人は、船首方に黄色浮標を認めて大きく右転し、ときどき視界が回復する状況の下、ところどころに設置された同浮標を確認しながら埋め立て工事区域の境界線に沿って航行を続け、11時44分呉港阿賀沖防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から186度(真方位、以下同じ。)1,340メートルの同区域南東端付近に達したとき、浮標の設置状況から広多賀谷地区突堤付近の見当を付けてこれに向けることとし、針路を038度に定め、機関停止と微速力前進を交互に繰り返しながら2.5ノットの対地速力で進行した。
11時53分少し過ぎA受審人は、防波堤灯台から157度820メートルの地点に達したとき、右舷船首方に見覚えのあるカキ筏を認めたことから、これを避けるため針路を003度に転じて続航中、同時58分防波堤灯台から139度520メートルの地点に達したころ、急に視程が50メートルまで減じてそれまで見えていた黄色浮標も左舷方の陸岸も見えなくなり、船位の確認が全くできない状況となったが、補油予定船が昼ごろ出港と聞いていたのでこれに間に合わそうと思い、航行を一時的に中断して視界の回復を待つことなく、何とか突堤にたどり着こうと船首を磁気コンパスの北に向けたところ、長期間自差修正をしていなかったことから実際には329度の針路となって進行した。

12時03分半A受審人は、防波堤灯台から106度120メートルの地点に至り、正船首80メートルにかすかに阿賀沖防波堤を認めたとき、甲板員とともにこれを広多賀谷地区南端の突堤と考えたが、左方にぼんやりと赤い灯台を認めたことから、同突堤ではないことに気付いて自船の位置が分からなくなり、とりあえず防波堤らしき物に沿って右方に航行することとし、針路を048度に転じて続航中、同時09分少し過ぎ船首にいた甲板員の「前方は浅いですよ。」の声で右舵一杯としたが及ばず、12時10分海運丸は、防波堤灯台から065度520メートルの黒瀬川河口の浅所に、原速力のまま200度を向首して乗り揚げた。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、視程は約50メートルであった。
乗揚の結果、船底外板に擦過傷を生じたが、来援した引船によって引き下ろされた。


(原因)
本件乗揚は、レーダー設備のないまま視界制限状態の呉港広区を航行中、さらに視程が減じて船位の確認ができなくなった際、航行を中断して視界の回復を待つことなく、黒瀬川河口の浅所に向首進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、レーダー設備のないまま視界制限状態の呉港広区を航行中、さらに視程が減じて船位の確認ができなくなった場合、航行を中断して視界の回復を待つべき注意義務があった。しかるに、同人は、補油予定船の出港に間に合わせようと思い、航行を中断して視界の回復を待たなかった職務上の過失により、黒瀬川河口の浅所に向首進行して乗揚を招き、船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION