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2000年(平成12年)

平成11年広審第13号
    件名
引船第三十二俊栄丸引船列乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年1月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

織戸孝治、杉崎忠志、横須賀勇一
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:第三十二俊栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
内303・・・船首右舷船底部に破口、曳航索が切断して漂流
俊栄丸・・・左舷推進器を損傷

    原因
水路調査不十分

    主文
本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年1月31日15時30分
瀬戸内海 下津井瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 引船第三十二俊栄丸
総トン数 19トン
全長 13.52メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット
船種船名 はしけ はしけ
SK801 内303(?303 NAI)
総トン数 約389トン 約291トン
全長 40.0メートル 36.3メートル
幅 8.2メートル 8.6メートル
深さ 4.2メートル 3.3メートル
3 事実の経過
第三十二俊栄丸(以下「俊栄丸」という。)は、2基2軸の固定ピッチプロペラを有し、いかだの曳航(えいこう)に従事する鋼製引船で、A受審人ほか1人が乗り組み、同船の船尾方約70メートルのところに、鉄コイル750トンを積載し、船首尾共約3.5メートルの喫水となった操舵装置を装備しない鋼製はしけSK801を、また、同はしけの船尾方60メートルのところに、大豆800トンを積載し、船首尾共約3.5メートルの喫水となった操舵装置を装備しない鋼製はしけ内303(?303 NAI)(以下「内303」という。)をそれぞれ直径60ミリメートルの合成繊維製の曳航索で連結して全長約220メートルの引船列(以下「俊栄丸引船列」という。)を構成し、これらはしけにそれぞれ作業員1人を乗せ、船首1.0メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成10年1月31日14時ごろ水島港港奥を発し、下津井瀬戸経由で神戸港に向かった。
ところで下津井瀬戸は、東西方向に延びる長さが約1海里、最狭部が約800メートルの水路で、多数の小型船舶が往来する常用航路となっており、水深は深く航行上の障害とはならないものの、潮流が速く、特に同瀬戸を東行する際には、その東側出口付近にある松島の西端から西方に向けて約100メートルにわたって散在する暗岩等に十分注意して航行することを要する海域であった。
A受審人は、下津井瀬戸を東行するにあたり、平素から、船尾後方約220メートルにわたって、荷物を満載した、かなり大型のはしけ2隻を曳航し、対水速力2.0ノットの船速をもって強潮流のもと同瀬戸を航行することは、他船との回避操船を考慮すれば、困難ないし危険を伴うことを予見していたが、発航に先立ち、潮汐表などにより同瀬戸の潮流を調査して通航時刻を調整するなど水路調査を十分に行うことなく、同瀬戸に向け航行した。

こうしてA受審人は、14時30分ごろ水島港港内において単独の船橋当直に就き、機関を回転数毎分1,600、対水速力2.0ノットの航海全速力前進にかけて同港内を南下し、15時13分久須見鼻灯標から273度(真方位、以下同じ。)2,450メートルの下津井瀬戸に至り、針路を下津井瀬戸大橋中央部よりやや南側を向首する100度に定め、手動操舵により折からの1.7ノットの潮流に乗じて3.7ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行し、同時24分同灯標から267度1,300メートルの地点に達したとき、西行する第三船を避航するため針路を115度に転じて続航した。
A受審人は、15時29分久須見鼻灯標から248度800メートルの地点で、前示第三船が航過したので進路を戻すため、針路を久須見鼻に向く071度に転じたところ、最後尾に曳いていた内303が、流速の速まった潮流の影響により下津井瀬戸東口の松島に向けほぼ原針路のまま進行するのを認め、慌てて機関を回転数毎分1,700の最高回転にまで上げたが及ばず、俊栄丸引船列は、15時30分久須見鼻灯標から240度800メートルの松島西端に内303の船首右舷がほぼ原針路のまま約4.4ノットの速力で乗り揚げた。

当時、天候は晴で風力3の西北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、乗揚地点には2.4ノットの東流があった。
乗揚の結果、内303は、船首右舷船底部に破口を生じ、同はしけとSK801を連結していた曳航索が切断して内303が漂流をはじめたので俊栄丸により同はしけを付近の釜島西方の浅礁に任意座礁させ、その際同船の左舷推進器を損傷したが、のちいずれも修理された。


(原因)
本件乗揚は、水路調査が不十分で、下津井瀬戸を東行中、同瀬戸東口付近の松島に圧流されたことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、全長約220メートルの引船列を構成して下津井瀬戸を東行する場合、強潮流があるから、引船列が潮流によって圧流されることのないよう、発航に先立ち、潮流に対する事前の水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、事前の水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、強潮流下の同瀬戸を東行中、俊栄丸引船列が潮流により圧流されて乗揚を招き、俊栄丸及び内303に損傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


よって主文のとおり裁決する。






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