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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年12月25日10時00分 能登半島東岸 2 船舶の要目 船種船名
漁船第八栄福丸 総トン数 19.32トン 全長 23.42メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力
257キロワット 3 事実の経過 第八栄福丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、船首0.8メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成9年12月22日03時00分富山県魚津港を発し、能登半島北方の漁場に向かった。 同日11時00分ごろA受審人は、舳倉島北東方10海里ばかりの漁場に至り、パラシュート型シーアンカーを投じて漂泊しながら休息をとり、日没を待って操業を開始し、翌23日の日出時ごろまでこれを続けたのち再び漂泊して休息をとった。 こうして、A受審人は、日没から日出までの操業と日中の休息を繰り返し、翌々25日07時00分いか約2,000キログラムを獲て操業を打ち切り、舳倉島灯台から051度(真方位、以下同じ。)11海里の地点を発進して魚津港への帰途に就いた。 A受審人は、入港までの予定で操舵室内のいすに腰をかけて単独の船橋当直に当たり、能登半島東端に向けて南下し、08時48分嫁礁灯標から065度2.6海里の地点に達したとき針路を155度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で進行した。 ところで、A受審人は、いかを水揚げするために入港するとき以外は、専ら夜間の操業に従事して昼間に休息をとるという作業形態を長い間続けており、睡眠のリズムが昼型となって昼間に居眠りしやすい状況となっていたばかりか、前日16時40分の日没時前から睡眠をとっていなかったので、09時00分嫁礁灯標から104度3.3海里の地点に差し掛かったころから強い眠気を覚え始めた。 そのためA受審人は、このまま単独で当直を続けていると居眠りに陥るおそれがあったが、前方を航行中の僚船船長と無線電話で雑談などをすれば眠気覚ましになるものと思い、休息中の甲板員を呼んで2人で当直に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、僚船船長と無線電話で約10分ごとに数分間の交信を繰り返しながら続航した。 やがてA受審人は、能登半島東岸に近づいたことから無線電話の交信を中止し、ほぼ船首方向に姫島礁灯台を視認しながら進行中、09時54分ごろ同灯台から約1海里手前で居眠りに陥り、姫島礁を避けるため沖出しするなどの措置をとれないまま続航し、10時00分第八栄福丸は、姫島礁灯台から040度300メートルの浅礁に原針路、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 乗揚の結果、船首付近の魚倉船底部に数箇所の破口を伴う損傷を生じたが、間もなく自力で離礁して石川県狼煙漁港に入り、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、能登半島沖合を南下中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同半島東岸の姫島礁に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、早朝に能登半島北方沖合漁場を発して単独船橋当直により富山県魚津港への帰途、眠気を催した場合、夜間の操業と昼間の休息とを繰り返して行い、昼間に居眠りしやすい体調になっていたうえ、前日の夕刻から睡眠をとっていなかったのであるから、居眠り運航とならないよう、休息中の甲板員を呼んで2人当直を行うなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、僚船の船長と無線電話で交信しながら航行すれば眠気覚ましになるものと思い、2人当直を行うなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、陸岸に接近して僚船との無線電話交信を中止したのち居眠りに陥り、同半島東岸の姫島礁に向けたまま進行して乗揚を招き、船底に破口を伴う損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |