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2000年(平成12年)

平成12年門審第8号
    件名
瀬渡船明恵丸乗揚事件(簡易)

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年9月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

供田仁男
    理事官
新川政明

    受審人
A 職名:明恵丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
舵板の脱落、推進器翼及び同軸の曲損並びに船底外板の同軸ブラケット取付部に亀裂、機関室に浸水

    原因
気象・海象判断不十分(航行を中断せず)

    主文
本件乗揚は、視界が制限されて船位の確認ができなくなった際、航行を中断しなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年4月9日23時25分
長崎県郷ノ浦港南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船明恵丸
総トン数 7.9トン
全長 17.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 279キロワット
3 事実の経過
明恵丸は、船体のほぼ中央部に操舵室を設けたFRP製瀬渡船で、A受審人が1人で乗り組み、釣り客5人を乗せ、同客を瀬渡しする目的で、船首0.6メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成11年4月9日23時05分長崎県壱岐島の郷ノ浦港を発し、平島の南岸に向かった。
平島は、郷ノ浦港の南西方3海里付近に位置する、東西300メートル、南北200メートル、平均水面上の高さ17メートルの無人島で、灯火はなく、周辺海域の水深は20メートルないし30メートルであったものの、北岸の北方500メートル付近まで前曽根と呼ばれる浅礁域が広がり、また、東岸の近辺には暗岩が点在し、主に南岸及び西岸が釣り客の上陸地点に利用され、A受審人は、同島への夜間の瀬渡しを数多く経験し、南岸に向かう際は目視あるいはレーダーにより、東岸からの距離を十分に保って南岸に回り込むことにしていた。

A受審人は、朝鮮半島南岸付近を東進する低気圧の影響を受け、断続的に降雨が見舞う気象状況で、折から小雨模様のなか、操舵室前面の旋回窓を作動させ、同室側面のガラス窓を開放して、見張りと手動操舵にあたり、郷ノ浦港の防波堤出入口を通過するころ、機関を全速力前進にかけ、20.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
A受審人は、23時17分壱岐長島灯台から058度(真方位、以下同じ。)1,750メートルの地点に至ったとき、針路を原島の折瀬埼100メートル沖合を経て平島の東岸200メートル沖合に向く204度に定め、同時18分同埼付近の島影を暗闇の中に視認して航過し、次いで同時19分1.5海里レンジとしたレーダー画面周縁の船首少し右に平島の映像を探知して南下した。
23時21分少し前A受審人は、壱岐長島灯台から157度1,370メートルの地点で、平島に1,600メートルに接近したころ、激しい降雨に見舞われ、視界が著しく狭められるとともに、同島のレーダー映像が雨の映像に隠れ、船位を確認することができなくなったが、更に接近すればそのうち平島が見えてくるものと思い、直ちに投錨して同島のレーダー映像を識別できるようになるまで航行を中断することなく、機関を半速力前進として12.0ノットに減速し、同一針路で南下を続けた。

A受審人は、23時24分壱岐長島灯台から179度2,360メートルの地点に達し、平島の東方沖合に差し掛かったことに気付かないまま、降雨が更に激しさを増し、南寄りの波浪が高まってきたのを認めたことから、予定を変更して平島西岸へ寄せることとし、機関を微速力前進として速力を6.0ノットに減じ、前曽根の手前にいるつもりで右舵15度を取って右転を始めたところ、23時25分壱岐長島灯台から183度2,500メートルの地点において、明恵丸は、船首が270度に向いたとき、原速力で、推進器翼が平島東岸近くの暗岩を擦過した。
当時、天候は雨で風力4の南風が吹き、視程は20メートルであった。
乗揚の結果、舵板の脱落、推進器翼及び同軸の曲損並びに船底外板の同軸ブラケット取付部に亀裂を生じ、機関室に浸水したが、来援した僚船によって最寄りの長崎県大島漁港に曳航され、のち修理された。


(原因)
本件乗揚は、夜間、郷ノ浦港南西方沖合において、平島に接近中、視界が制限されて船位を確認することができなくなった際、航行を中断せず、同島東岸沖合の暗岩に向かって進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、郷ノ浦港南西方沖合において、釣り客を瀬渡しする目的で平島に接近中、激しい降雨に見舞われて視界が著しく狭められるとともに、同島のレーダー映像が雨の映像に隠れ、船位を確認することができなくなった場合、直ちに投錨して同島のレーダー映像を識別できるようになるまで航行を中断すべき注意義務があった。しかし、同人は、更に接近すればそのうち平島が見えてくるものと思い、直ちに投錨して同島のレーダー映像を識別できるようになるまで航行を中断しなかった職務上の過失により、平島東岸沖合に向かって進行し、同岸近くの暗岩への乗揚を招き、舵板の脱落、推進器翼及び同軸の曲損並びに船底外板の同軸ブラケット取付部に亀裂を生じ、機関室に浸水させるに至った。






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