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2000年(平成12年)

平成12年門審第30号
    件名
プレジャーボート幸漁丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年9月7日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

原清澄、米原健一、相田尚武
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:幸漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船底中央部に破口、浸水、沈没、修理費の関係で廃船

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発
生したものである。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年4月27日04時45分
福岡県北九州市若松区
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート幸漁丸
総トン数 4.97トン
登録長 10.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 242キロワット
3 事実の経過
幸漁丸は、FRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.5メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成11年4月27日04時14分関門港小倉区高浜船だまりを発し、釣り仲間4人のうち、2人を船室に、2人を操舵室後方の甲板上に乗せて響灘の釣り場に向かった。
ところで、北九州市若松区響灘埋立地西地区(以下「西地区埋立地」という。)の北方500メートルばかり沖合には、白州灯台から219度(真方位、以下同じ。)2.6海里を起点とし、002度方向に300メートル、次いで068度方向に1,000メートルの構築中の防波堤(以下「沖防波堤」という。)があり、同防波堤の南端及び東端並びに同埋立地北西端のそれぞれに標識灯が設置されていた。

A受審人は、幸漁丸を釣り仲間2人と共同で購入して実質的に管理と運航に当たり、毎月4回ばかり同船を利用して響灘の白島や大島などの周辺海域に出かけて釣りを行っていたもので、早朝に出航する際にはいつも5時間ないし6時間の睡眠をとっていたところ、前日の26日仕事を終えて帰宅後、21時半ごろから翌27日01時ごろまで大びんビール5本を飲みながら子供の問題について妻と話し合い、その後2時間半ばかり睡眠をとったのち、幸漁丸の係留地に向かい、前示のとおり出航した。
出航した際、A受審人は、睡眠不足と完全に酒気が抜けない状態で、居眠り運航に陥るおそれがあったが、眠気を感じなかったので、まさか居眠りすることはあるまいと思い、釣り仲間を操舵室に呼び入れて2人で見張りに当たるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、高浜船だまり入口の防波堤を替わしたのち、機関を全速力前進の回転数毎分2,000として関門港を北上した。

A受審人は、響灘1号防波堤東方の安瀬航路第6号灯浮標を左舷方80メートルに見て航過し、04時33分白州灯台から134.5度2.2海里の地点に達したとき、針路を西地区埋立地北西方1.2海里ばかり沖合の横瀬北灯浮標の灯火に向く271度に定め、18.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針したあとA受審人は、舵輪右舷後方のいすに腰を掛け、操舵室の窓枠に右手を置き、左手で舵輪の上部を握った姿勢で操船と見張りに当たっていたところ、間もなく居眠りに陥り、舵輪が左方にわずかばかり転舵された状態となっていたので、やがて針路がゆっくりと左転を始めたが、このことに気付かなかった。
04時41分半少し前A受審人は、白州灯台から207度2.2海里の地点に至ったとき、船体の動揺で目が覚めて周囲を見たところ、船首前方に西地区埋立地の北西端と沖防波堤南端とにそれぞれ設置された標識灯の灯火を認め、針路が両標識灯の中間に向く256度に変わっていることを知ったが、右舷船首60度650メートルのところに同防波堤東端の標識灯の灯火も認め、すでに同埋立地と同防波堤とに挟まれる水域に差し掛かっていたので、大きく右転して同防波堤北側の原針路線上に戻ることを止め、このまま進行して同防波堤の南端を替わしたのち右転することとした。

こうしてA受審人は、同じ姿勢で続航したところ、再び居眠りに陥り、依然として舵輪が左方にわずかばかり転舵されていることに気付かず、針路がゆっくり左転を続けて西地区埋立地に著しく接近する状況となり、04時45分白州灯台から220度2.9海里の地点において、幸漁丸は、同埋立地護岸の外周に設置された消波ブロックに、原速力のまま、船首が250度に向首した状態で乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は上げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、船底中央部に破口を生じて浸水し、乗揚地点で沈没したが、のち引き揚げられ、修理費の関係で廃船とされた。


(原因)
本件乗揚は、夜間、響灘の釣り場に向けて関門港小倉区の係留地を出航する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、西地区埋立地に著しく接近したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、夜間、睡眠不足と完全に酒気が抜けない状態で、響灘の釣り場に向けて関門港小倉区の係留地を出航する場合、居眠り運航とならないよう、釣り仲間を操舵室に呼び入れて2人で見張りに当たるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、眠気を感じなかったことから、まさか居眠りすることはあるまいと思い、釣り仲間を操舵室に呼び入れて2人で見張りに当たるなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、単独で操船に当たって響灘を西行中、居眠りに陥り、針路が次第に左転して西地区埋立地に著しく接近していることに気付かないまま進行し、同埋立地護岸の外周に設置された消波ブロックに乗り揚げ、幸漁丸の船底中央部に破口を生じて浸水させ、のち沈没させるに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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