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2000年(平成12年)

平成11年広審第84号
    件名
押船第七十五石樹丸被押バージ石樹丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成12年9月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

工藤民雄、竹内伸二、横須賀勇一
    理事官
前久保勝己

    受審人
A 職名:第七十五石樹丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
左舷船首船底外板に亀裂、スラスター室に浸水

    原因
無理な運航(入港を中止せず)

    主文
本件乗揚は、伊万里港内の浅瀬を示す標識が視認できず船位が確認できない状況となった際、入港を中止しなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年4月5日08時35分
九州北部 伊万里港
2 船舶の要目
船種船名 押船第七十五石樹丸 バージ石樹丸
総トン数 121トン
全長 29.93メートル 74.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
3 事実の経過
第七十五石樹丸は、2基2軸の推進機関を備えた鋼製押船で、佐賀県唐津港を基地として、主に九州北部一円において海砂などを積んだバージの押航に従事していたところ、平成8年3月えび養殖業者向けの海砂を佐賀・長崎県伊万里港港域内の福島港に運搬することになった。
ところで、福島港は、伊万里湾東側の福島の南西部に位置する南方に開いた港で、防波堤で囲まれた港口の南方沖合には島しょや浅瀬、険礁などが多数散在し、港口南方近距離の伊万里港福島灯標(以下「福島灯標」という。)が設置されたチョッキリ瀬から笹島やカズラ島の島しょが南方に約1,550メートル連なって延びているほか、カズラ島の東方近くに孤立した浅瀬が2箇所存在し、また同港口の約800メートル東側の陸岸からは南方にツツロ島、ナガ瀬及びカマブタ瀬の島しょが南方に連なって約1,000メートル拡延していて、水路事情に精通した地元以外の船舶がレーダーや目視により出入港することは困難な海域であった。

A受審人は、約3年半の第七十五石樹丸での船長経験を有し、これまで福島港の東方1,600メートルばかりの地点に、地元の先導船の援助を得て5回海砂を揚荷したことがあったものの、同港への入出港は今回が初めてであり、船内に備え付けていた小縮尺の海図第166号を調べたところ、同港沖合には小島や浅瀬などが多数散在して同港口に至る可航水路も狭く屈曲していることから、入出港に不安を覚えたので、前もって海砂運搬先のえび養殖業者と連絡をとって危険なところに目印の標識の設置を依頼した。
一方、荷受のえび養殖業者は、以前、海砂運搬船が入出港する際には先導船を出して入港を手助けしていたが、平成7年からは水路の要所に竹竿を仮設することで対処しており、石の錘にロープを結び、その先に長さ約5メートルの、満潮時に立つように調整した竹竿(以下「標識」という。)を、チョッキリ瀬、笹島及びカズラ島東側の5メートル等深線の東端に各1箇所、またカズラ島の東方近くに孤立して存在する2箇所の浅瀬のうち、東側浅瀬の5メートル等深線の東端の南北に各1箇所、さらにカマブタ瀬西側の5メートル等深線の西端に1箇所それぞれ設置した。

A受審人は、平成8年4月2日陸路福島港に赴き、えび養殖業者のボートに同乗して前示6箇所に標識が設置されていることを確かめたうえ、自らの経験からレーダーでの船位の確認が難しく、満潮時に標識を見て浅瀬の位置を確認しながら出入港する以外に安全に航行することは無理であると判断し、標識を順次確認して船位を確かめ、カズラ島の東方近くに2箇所孤立する浅瀬の東側の浅瀬とカマブタ瀬との間の、最狭部の幅180メートルの狭い水路を抜けて出入港することにした。
翌々4日A受審人は、海砂を満載した石樹丸を押し、前示の標識を順次確認しながら無事に福島港に出入港したが、その後、設置されていた標識のうち、孤立した2箇所の浅瀬の東側南端のものが、付近で操業するえびこぎ漁業に従事する漁船などに引っ掛けられたものか、いつしか水面付近で切損し、視認できない状況となっていた。

こうして第七十五石樹丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、海砂1,500立方メートルを積載して船首5.4メートル船尾5.6メートルの喫水となった石樹丸の船尾凹部に、自船の船首を嵌合して全長約85メートルとし、船首2.5メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、同月5日05時30分佐賀県呼子港を発し、福島港に向かった。
A受審人は、発航時から単独で操舵操船に当たって九州北部沿岸を西行し、やがて伊万里港内に至り、福島の南西岸沖合を東行したのち、07時59分少し前機関を微速力前進にかけ、3.0ノットの対地速力で南側の陸岸寄りに進行した。
08時07分少し過ぎA受審人は、福島灯標から161度(真方位、以下同じ。)2,240メートルの地点に達したとき、一旦行きあしを止めて周囲を見渡したあと、再び機関を微速力前進にかけて針路を053度に定め、その後微速力前進と停止を繰り返して1.5ノットの対地速力で続航した。

A受審人は、08時16分半少し過ぎ福島灯標から150度2,150メートルの地点に達したとき、福島港港口付近の陸上の建物が視認できるようになったので、少し左舵をとって徐々に左回頭しながらカズラ島東方の標識の確認に努めていたところ、前日に確認できた同島東方近くに孤立した浅瀬の最も南端に設置された標識を視認することができず不審を抱いたが、標識があった付近に直径約30センチメートルの白色発泡スチロール製の浮き(以下「浮き」という。)を認めたことから、荷受業者が気を利かせて竹竿の標識に替えて視認しやすい浮きを設置したものと思い、船舶電話でえび養殖業者に問い合わせて標識を確かめるまで、入港を中止することなく、浮きに近づけるようにしてゆっくり左回頭を続けて進行した。
08時32分A受審人は、福島灯標から134度1,740メートルの地点に達し、船首が345度に向き、浮きが左舷船首17度140メートルとなったとき、浮きを左舷側に10メートルばかり離して航過するよう328度の針路としたところ、カズラ島東方近くに孤立した2箇所の浅瀬のうち東側の浅瀬の東端に向首する状況となったが、このことに気付かないで進行中、08時35分福島灯標から133度1,620メートルの地点において、第七十五石樹丸被押バージ石樹丸は、原針路、原速力のまま、浅瀬に乗り揚げ、これを擦過した。

当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期にあたり、潮高は約185センチメートルであった。
乗揚の結果、石樹丸は、左舷船首船底外板に亀裂を生じ、スラスター室に浸水したが、自力で福島港に入港し、のち修理された。


(原因)
本件乗揚は、島しょや浅瀬、険礁などが多数散在する伊万里港港域内を福島港に向け入港中、浅瀬を示す竹竿の標識が視認できず船位が確認できない状況となった際、同港への入港を中止することなく浅瀬に向け進行したことによって発生したものである。


(受審人の所為)
A受審人は、石樹丸を押して島しょや浅瀬、険礁などが多数散在する伊万里港港域内を福島港に向け入港中、浅瀬を示す竹竿の標識が視認できない状況となって不審を覚えた場合、レーダーでの船位の確認が難しく、標識を目標として出入港する以外に安全に航行することが無理な状況であったから、船舶電話で荷受のえび養殖業者に問い合わせて標識を確かめるまで、入港を中止すべき注意義務があった。ところが、同人は、竹竿の標識があった付近に認めた白色発泡スチロール製の浮きを荷受業者が気を利かせて竹竿の標識に替えて設置したものと思い、入港を中止しなかった職務上の過失により、カズラ島の東方に孤立して存在する浅瀬に乗り揚げ、石樹丸の左舷船首船底外板に亀裂を生じさせ、スラスター室に浸水するに至った。

以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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