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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年1月16日20時10分 和歌山県沖ノ島西岸 2 船舶の要目
3 事実の経過
ところで、A受審人は、同日07時過ぎ徳島小松島港に入航して揚荷を行った際、荷役作業に立ち会うなど出航前に十分な休息をとることができなかったものの、荷役のない土曜日や日曜日に休養をとるほか、船舶所有者が機関長で、荷主からの情報を得るために機関長の自宅のある香川県丸亀港に寄せることが多く、その都度適当な休養をとることができていたので、出航時に疲労を感じるような状況ではなかった。 A受審人は、船橋当直を機関長と適当な間隔で交替するつもりで、出航操船に引き続いて単独の船橋当直に就き、19時20分ごろ沼島東方において、西方から前路を横切って東方に向かう漁船群を認めたことから、手動操舵でその船尾方に向け、その後漁船群の船尾を付け回すように替わしながら由良瀬戸に向けて北上を続けた。 19時30分A受審人は、友ケ島灯台から217度(真方位、以下同じ。)6.5海里の地点に達したとき、漁船群が右舷側に無難に替わったことから、針路を沖ノ島西岸に接航する035度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。 定針後A受審人は、操舵室のいすに腰を掛け、間もなく沖ノ島の手前4海里の転針予定地点に達するので、そこから針路を淡路島と沖ノ島との間の由良瀬戸中央に向けるつもりでいたところ、海上平穏で視界もよく、漁船群を無難に替わして周囲に注意を要する他船を見かけなくなった安堵感から気が緩み、眠気を催すようになったが、まさか居眠りすることはあるまいと思い、いすから立ち上がって外気に当たるなり、休息中の機関長を呼んで見張りに当てるなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、付近には1.8ノットの南流があった。 乗揚の結果、右舷前部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じたが、サルベージ船の来援を得て離礁し、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、前路に認めた漁船群を避けて由良瀬戸に向けて北上中、居眠り運航の防止措置が不十分で、転針が行われないまま沖ノ島西岸の浅礁に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、単独の船橋当直に就いて由良瀬戸に向けて北上中、前路に認めた漁船群を避けたのち、沖ノ島西岸に接航する針路に定めていすに腰を掛け、間もなく眠気を催すようになった場合、居眠り運航とならないよう、いすから立ち上がって外気に当たるなり、休息中の機関長を呼んで見張りに当てるなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、いすから立ち上がって外気に当たるなり、休息中の機関長を呼んで見張りに当てるなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、転針することができないまま、沖ノ島西岸の浅礁に向かって進行して乗揚を招き、右舷前部船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |